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3 上訴と審理期間 (一) 上訴 第一審の判決に対しては,控訴することができ,控訴審の判決に対しては上告することができる。控訴や上告がされると,審理期間はそれだけ長びくことになる。
それでは,第一審判決に対して控訴の申立のあった件数はどの程度であろうか。II-21表によると,第一審判決に対する控訴率は,年とともに,ほぼ減少の傾向にあることがわかる。しかも,簡易裁判所事件が地方裁判所のそれよりも控訴率が一般に低い。また,控訴判決に対する上告率は,四〇パーセント前後で,とくに減少の傾向にあるとはいえない。 II-21表 第一審判決に対する上訴率(%) つぎに,控訴,上告には,検察官のする場合と,被告人側のする場合と,その双方からする場合との三とおりがある。II-22表・23表は,この比率をみたものであるが,検察官の控訴(双方からの控訴を含む)は,控訴総数の約一〇パーセントで,その上告は約〇・四パーセントにすぎないから,大部分の事件は,被告人側からの控訴と上告といえる。なお,昭和三二年における控訴の理由を被告人側と検察官側とに分け,その比率をみると,II-24表のとおり,量刑不当がもっとも多く,事実誤認と法令の適用の誤りとが,これにつづいている。これは,法定刑の幅がひろいため,裁判官の量刑を争う余地が多いところから生じた現象といえよう。II-25表は,昭和二九年から昭和三三年までの間における上告を理由別に比率でみたものであるが,これによると,量刑不当または事実誤認がもっとも多く,本来の上告理由であるべき憲法違反はこれにつぎ,また,判例違反は,法令違反よりも少ないのが注目される。II-22表 控訴申立人別の数と百分率 II-23表 上告申立人別の数と百分率 II-24表 申立人別の控訴理由別百分率(昭和32年) II-25表 上告終局被告人の上告理由別百分率(%) つぎに,控訴申立の結果,控訴判決はどのような裁断をくだしたであろうか。II-26表は,控訴の結果をみたものであるが,まず,控訴の取り下げられたものが,ほぼ一五パーセント前後で,控訴棄却は五〇パーセントないし六〇パーセントだから,総数の六,七〇パーセントは,控訴の主張がとおらなかったものといえる。つぎに,破棄されたもののうち,無罪の言渡のあったのは,一パーセント弱で,減少の傾向にあるといえる。なお,昭和三二年に免訴の言渡が多いのは,国連加盟恩赦によるものである。II-26表 控訴審終局被告人の終局区分別人員と率 上告申立の結果は,II-27表にみるとおり,上告棄却率は,昭和三二年度を除き(同年は,恩赦による免訴が多かったため,率が低くなっている)八〇パーセント前後で,これに上告取下の一〇パーセント前後を加えると,破棄率は,二パーセントないし五パーセント程度となる。控訴審の破棄率が二五パーセントないし三五パーセントなのにくらべて,上告審のそれは,いちじるしく低いことがわかる。II-27表 上告審終局被告人の終局区分別人員と率 では,検察官上訴の場合の結果は,どうであろうか。検察統計年報で昭和三二年と昭和三三年とにおけるその比率をみると,II-28表・29表のとおりである。すなわち,昭和三三年についてみると,控訴の場合における破棄率は六九・一パーセント,棄却率は三〇パーセントで,上告の場合の破棄率は四三・九パーセント,棄却率は四八・八パーセントである。同年における全控訴事件および全上告事件についての比率は,最高裁判所事務総局刑事局「昭和三三年における刑事事件の概況」(法曹時報一一巻一〇号)によれば,控訴審における破棄率は二六・三パーセント,棄却率は五六・六パーセント,取下率は一六・七パーセントで,また,上告審における棄却率は八〇・七パーセント,破棄率は一・七パーセント,取下率は一六・七パーセントであるから,この比率と対比すれば,検察官の上訴は,判決結果として支持される比率の高いことがわかる。II-28表 検察官控訴審の終局区分別人員と率 II-29表 検察官上告審の終局区分別人員と率 (二) 上訴の審理期間 控訴審と上告審における審理期間と起訴から上訴審の判決にいたるまでの期間は,II-30表・31表のとおりである。II-30表は,昭和三二年と三三年とにおける控訴審の終了したものにつき,起訴から控訴審の判決言渡までを示したものである。これによると,起訴から控訴審終局にいたるまでを一年以内で終結したものは,総数の約六四パーセントないし六九パーセントで,さらに,これに三ヵ年以内に終結した事件を合算すると,総数の約九五パーセントをしめることになる。
II-30表 控訴審終局被告人の起訴時からの審理期間別百分率(%) II-31表 上告審終局被告人の上告審受理時からの審理期間別百分率(%) つぎに昭和三二年および昭和三三年における上告審の終結した事件につき,同様な審理期間を示したのがII-31表・32表である。この表によると,第一審の受理から上告審の終結までを三ヵ年以内で処理されたものは,総数の約六五パーセントないし七四パーセントであるから,大多数の事件は三ヵ年以内に終結をみているものといえる。最高裁判所における審理遅延が問題とされたことがあったが,これは三ヵ年をこえる事件,すなわち,総数の二六パーセントないし三五パーセントの事件についてであるといえよう。もっとも,最高裁判所に現に係属中の事件が起訴の時からどれくらいの期間を要したかの統計をみなければ,上告審の審理期間を正確に調査したことにならないから,この点を司法統計年報によって示すと,II-33表・34表のとおりである。これによると,起訴の日から三ヵ年をこえるものは,昭和三二年末には総数の四八パーセント,昭和三三年末には,四九パーセントをしめ,また,上告審受理の日から二ヵ年をこえるものは,昭和三二年には,一九パーセント,昭和三三年には,二〇パーセントをしめている。係属中の事件についていえば,上告の申立をしてから二年をこえてなお判決にいたらない事件が,上告審における審理遅延の問題となる事件といえるであろう。II-32表 上告審終局被告人の第一審受理時からの審理期間別百分率 II-33表 上告審未済事件の上告受理時からの審理期間別人員 II-34表 上告審未済事件の第一審受理時からの審理期間別人員 |