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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/七/3 

3 選挙犯罪に対する制裁

(一) 刑罰

 昭和三三年における選挙犯罪の裁判結果別の人員をI-72表でみると,通常第一審の有罪人員のうち自由刑は二一・六パーセントで,うち九八パーセントは執行猶予つきである。このような高率の執行猶予は,刑法犯と特別法犯とを通じて,他にその例をみない。しかも,この二パーセントのうち,さらに,控訴審で執行猶予のついているのもある。罰金は,執行猶予は少ないが,約四分の三が一万円未満,約半数が五千円未満である。

I-72表 選挙犯罪の第一審裁判結果(昭和33年)

(二) 公民権の停止

 一部の軽微な事犯を除き,選挙犯罪で罰金以上の刑に処せられた者に対しては,原則として,公民権つまり選挙権と被選挙権とを一定の期間停止すべきものとされている。その期間は,罰金の刑に処せられたものは,その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡をうけた者については,その裁判が確定した日から刑の執行をうけることがなくなるまでのあいだ),禁錮以上の刑に処せられたものは,その裁判が確定した日から刑の執行をおわるまでのあいだ,または,刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除をうけるまでのあいだ,および,その後五年間(刑の執行猶予の言渡をうけた者については,その裁判が確定した日から刑の執行をうけることがなくなるまでのあいだ)であり,とくに,買収事犯の再犯者については,右の五年間が一〇年間とされている。ただ,裁判所は,情状により,刑の言渡にさいし,右の公民権の停止の規定を適用せずまたはその期間を短縮する旨の宣告ができることになっている(買収事犯の再犯者については,公民権の停止の規定をまったく適用しないことは法律上許されない)。公民権を停止された者には,選挙運動も禁止される。
 ところで,裁判所がこの公民権の停止の規定を適用せずまたはその期間を短縮する旨の宣告をする場合が相当に多く,裁判所の統計(I-72表注)によると,昭和三三年における選挙違反事件の通常裁判の第一審では,有罪総人員二,二五七人のうち,公民権不停止または公民権停止期間短縮の宣告をうけた者のしめる率は,公民権不停止が四六・二パーセント,停止期間短縮が,二三・二パーセントで,略式手続では有罪総人員九,九六五人のうち,公民権不停止が三七・四パーセント,停止期間短縮が二三・一パーセントにおよんでいる。

(三) 当選無効

 一部の事犯を除き,当選人がその選挙に関し選挙犯罪により刑に処せられたときは,当選が無効となるという制度である。当選人がみずからの責任で有罪裁判の確定とともに失格するのである。当選人でその選挙犯罪によって起訴される者の数は,たとえば,昭和三四年の統一地方選挙では一四八人もあり,そのおもなものは,都道府県議会議員四八人と市町村議会議員九四人である。参議院議員通常選挙では一人もない。なお,連座責任による当選無効という制度もある。