前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/二/2 

2 最近における売春関係の犯罪の概況

 昭和二七年以降の売春関係の犯罪として,売春および婦女に淫行をさせる行為に関係ある犯罪の検察庁新受,起訴および不起訴人員は,I-47表のとおりである。この表でわかるとおり,刑法犯はきわめて少なく,主として特別法が活用されていた。

I-47表 売春および婦女に淫行をさせる行為に関係ある犯罪の検察庁新受・起訴・不起訴人員

 特別法犯のうちでは,条例違反がもっとも多く,過半数をしめ,そのうち,売春の勧誘や周旋などが主たる部分をしめていた。もっとも,東京都条例その他の条例には,売春じたいを処罰する規定もあって,この規定で検挙処罰されるものも少なくなかった。ついで多いのは職業安定法違反で,売春の業務につかせる目的で女子の供給,募集などをする犯罪がその中心をなし,各年の推移をみると,しだいに増加している傾向が認められる。ただ,昭和三三年は,昭和三二年にくらべてある程度は減少しているが,売春防止法の施行によって実際の犯罪が減少したためかどうかは,なお詳細な調査が必要である。
 つぎに,売春防止法施行後一年間の検挙者の受理および裁判の状況をみると,I-48表のとおりで,全国検察庁の受理人員合計二万四千余人のうち,売春婦による勧誘などの事犯が圧倒的に多く,六三パーセントをしめ,ついでポン引などによる周旋などが約一八パーセント,旅館業者などによる売春の場所の提供が一三パーセントである。

I-48表 売春防止法違反の検察庁新受・一審有罪・不起訴人員(昭和33年4月〜34年3月)

 つぎに売春をさせることを業とする行為つまり管理売春も一,〇六七人で,全受理人員の四パーセントにのぼっているが,これに反し,売春対償の収受などで受理された者はわずか一三人にとどまる。なお,売春防止法違反事件の各庁別の統計をみると,東京,大阪,横浜,神戸の各地検の受理処理人員は一,〇〇〇人をこえている。
 つぎに,検察庁における事件の処理状況について,起訴と起訴猶予との計に対する起訴の率をみると,管理売春と周旋などにおいて起訴率がもっとも高く,じつに八四パーセントにのぼり,場所提供も,また七〇パーセントにのぼる起訴率を示し,検察庁において,これらの罪について厳罰主義をとっていることが明らかにされている(起訴のうち,公判請求の率は,場所提供が三八パーセント,周旋が三三パーセントである)。これに反し,売春婦の勧誘などの罪については,起訴率は四三パーセントで,しかも,起訴された者のうち八八パーセントには罰金刑が求刑されている。ただし,この点について注目されるのは,起訴猶予処分ないしは罰金刑に処せられた売春婦約九,六〇〇人中,その七六パーセントにあたる約七,三〇〇人が,更生保護相談室において任意的な保護措置をうけており,そのうち,婦人寮,更生保護会などに入所入寮したものは,約九〇〇人にのぼっていることである。
 裁判の結果についてはI-48表のとおりであるが,この統計にもとづいて,主たる違反ごとに実刑,執行猶予などの別に百分率を算出したのが,I-50表である。

I-49表 売春防止法違反の起訴・有罪人員等(昭和33年4月〜34年3月)

I-50表 売春防止法違反の主要罪種別科刑別百分率(昭和33年4月〜34年3月)

 売春をさせることを業とするいわゆる管理売春については,実刑は二五パーセント,周旋等および場所の提供については,実刑はその二五パーセントおよび一六パーセントである。また,売春婦の勧誘などで懲役刑が言い渡されているもののうち,補導処分の言渡は三四パーセントである。この点は,婦人補導院の施設と収容能力に限界のあった事情を考慮に入れなければならない。