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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/二/1 

二 売春関係の犯罪

1 売春関係の法制と取締りの推移

 わが国の売春に関する法制は,戦前と戦後とでは,大幅な相違がある。戦前の昭和初年には,一定の範囲で売春を公認する明治時代からの公娼制度が存続し,第二次世界大戦中も,この制度は変らなかった。戦後の昭和二一年一月に,この制度は正式には廃止された。そして,女子に売春をさせたり,売春をさせることを内容とする契約をすることが禁止されることとなった。しかし,実際には,従来公認の売春宿のあった地区では,ほとんど,取締りはされなかった。売春関係の業者の大部分は,表面的には,独立した売春婦に間貸をするというかたちをとって,営業を継続していた。その他,戦後,敗戦による道徳心の低下や国民の劣悪な経済状態などが原因となり,他の地区の売春婦の数も増加した。
 これに対処するために,多くの自治体では,売春取締条例を制定して売春の勧誘などを取り締まるとともに,いわゆる婦女売買およびこれと類似の行為,その他,婦女の自由意思に拘束を加えて売春その他の淫行をさせる行為については,刑法の誘拐罪の規定や職業安定法,児童福祉法,労働基準法などの規定による取締りが行なわれた。ただし,戦時中まで売春の公認されていた地区では,いわゆる赤線区域として,売春勧誘などについての取締りは行なわれず,婦女売買などの行為についても取締りは十分でなかった。その他の地区については一般的に取締りがされたものの,もともと,売春関係の事犯は検挙が困難なため,徹底はしなかった。
 かくて,戦後の混乱期がおわって一般の社会秩序が回復しても,売春関係の事態はあまり改善されず,これに対する世論の批判も強くなった。このような事態のもとで,戦前からのながい伝統をくつがえして根本的に改革すべく,売春防止法が制定され,昭和三三年四月から全面的に施行された。その結果,戦後も事実上黙認されていたいわゆる赤線区域の営業も,すべて,取締りをうけるようになり,売春関係の事態は基本的には改善された。ただ,売春関係の事犯の取締りと検挙が元来きわめて困難であるなどのため,根本的にすべての状態が改善されたわけではなく,多方面にわたり,いろいろの困難な問題のあることは,のちに述ベるとおりである。