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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/一/5 

5 精神病と犯罪

 資料はいささか古いが,I-43表は,昭和二六年八月末日現在で,法務省矯正局から全国の矯正施設に照会して精神病者の実態を調査させ,これを整理したものである。すなわち,精神病の発現率は,少年院を除いて一般に女子に高く,〇・八-一・七パーセントのあいだにあり,これに対し,男子は〇・一-〇・九パーセントのあいだにある。報告された精神病のうちで一番多いのが精神分裂病で,刑務所で四二パーセント,少年院や少年鑑別所でも四四パーセントにおよんでいる。つぎは「てんかん」で,刑務所では三四パーセント,少年院や少年鑑別所でも三一パーセントである。その他の精神病としては,刑務所では拘禁性精神病,躁うつ病,老人性精神病,梅毒性精神病,中毒性精神病などがあげられ,いずれも一〇パーセント以下である。少年院や少年鑑別所でも,拘禁性精神病,躁うつ病,中毒性精神病など,いずれも六パーセント以下で,成人特有の精神病を除けば,たいへんよく似ている。I-44表は,種々の犯罪者や非行少年に対して専門家の行なった調査研究の成績を整理したもので,精神病の発現率は,さきの調査よりも,はるかに高い。ことに,初犯の老人受刑者に二〇パーセントをこえる高率の精神病者が発見されていることは注目しなければならない。これらは,大部分が脳動脈硬化症や老人性の変化によるものである。ちなみに,I-46表は,全国の地方検察庁から法務総合研究所に集められた五一一の精神鑑定例を精神診断別に整理したものである。これをみても,精神分裂病が圧倒的に多く,アルコール,覚せい剤,麻薬などの中毒性精神病がこれについでいる。「てんかん」,躁うつ病,進行麻痺などは,それほど多くない。なお,I-44表は,精神分裂病以下の精神病と罪種との関係を示すもので,いくつかの罪種を併有するものは重いのをとった。精神鑑定例だけに,殺人犯が圧倒的に多く,放火犯がこれについでいる。しかし,アルコール酩酊には,放火が目だって多い。精神病犯罪者に対しては,拘禁機能と治療機能とをかねそなえた施設が必要で,刑事政策と精神衛生対策が協力しあうべき分野である。欧米では,それぞれの国情に応じた施設が発達しているが,わが国におけるこの方面の発達は,欧米にくらべてかなりの遜色があり,医療少年院や医療刑務所の発達によって,かろうじて盲点をカバーしているにすぎない。

I-43表 矯正施設収容者中の精神病者の割合(昭和26年)

I-44表 罪種別被疑者・被告人中の精神病者数等(精神鑑定例)

I-45表 犯罪者中の精神病者の割合

I-46表 精神鑑定例の診断別人員等