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平成29年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/2

2 本調査の結果

ここでは,犯罪や非行をした者の立ち直りに対する協力意識と,就労支援・協力雇用主への支援(本編第3章第1節3項(2)参照)に関する意識を中心に分析することとする。

(1)立ち直りに対する協力意識

まず,犯罪や非行をした者の立ち直りに対する協力意識について分析する。

7-2-1-2図は,「あなたは,犯罪や非行をした人たちの立ち直りに協力したいと思いますか。」という質問(問6)に対する回答を男女別に見るとともに,これを年齢層別に見たものである。

男女共に,年齢層が高い者ほど,「協力したいと思う」と回答した者の割合が高い。

また,「協力したいと思う」と回答した者及び「どちらかといえば協力したいと思う」と回答した者の合計(以下この節において「協力意思がある者」という。)を見ると,男性では,40歳以上64歳以下の年齢層(以下この節において「中高年層」という。)が,女性では,20歳以上39歳以下の年齢層(以下この節において「若年・青年層」という。)及び中高年層が,それぞれ他の年齢層に比べて割合が高い。女性では,年齢層が高い者ほど,「協力したいと思わない」と回答した者の割合も高く,「どちらかといえば協力したいと思う」及び「どちらかといえば協力したいと思わない」と回答した者の割合が低くなる傾向があり,65歳以上の年齢層(以下この節において「高齢層」という。)では協力意思の有無が最も明確になる。

なお,この質問については,「わからない」と回答した者が調査対象者全体の7.7%を占めた。

7-2-1-2図 立ち直りへの協力意識(男女別・年齢層別)
7-2-1-2図 立ち直りへの協力意識(男女別・年齢層別)
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また,7-2-1-3図は,立ち直りに対する協力意識を問う質問(問6)について,回答を男女別に見るとともに,これを就労状況別に見たものである。

男女共に,有職者は,無職者と比べて,協力意思がある者の割合が高く,「協力したいと思わない」という明確に協力意思がない回答をした者の割合が低い。

7-2-1-3図 立ち直りへの協力意識(男女別・就労状況別)
7-2-1-3図 立ち直りへの協力意識(男女別・就労状況別)
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次に,協力意思がある者1,097人に対し,更に具体的な立ち直りへの協力内容について,「あなたは,犯罪や非行をした人たちの立ち直りにどのような協力をしたいと思いますか。」と質問し(問7),その回答を様々な観点から分析した。

前記質問に対する回答を男女別に見るとともに,これを年齢層別に見たものが,7-2-1-4図である(「協力雇用主としての雇用」については,本調査対象者に無職者が約4割含まれており(7-2-1-1表参照),他人を雇用することを想定し難い者も相当程度いるため,その解釈には注意を要する。)。

男女共に,「犯罪や非行をした人たちに直接会って継続的に助言や援助をする」という直接的な協力に比べ,「社会を明るくする運動に参加する」という間接的な協力を選択した者の割合が高い。

「犯罪や非行をした人たちに直接会って継続的に助言や援助をする」と回答した者について,年齢層別に見ると,男性では,年齢層による明確な差が認められないのに対し,女性では,年齢層が高い者ほど,同回答をした者の割合が低い。また,「社会を明るくする運動に参加する」と回答した者について,年齢層別に見ると,男性では,年齢層による差が小さいのに対し,女性では,若年・青年層が,中高年層及び高齢層に比べ,同回答をした者の割合が高い。

なお,協力意思がある者であっても,そのうち協力内容として「特にない」と回答した者が9.1%,「わからない」と回答した者が6.3%おり,合わせて全体の15.4%を占めた。

7-2-1-4図 立ち直りへの協力内容(男女別・年齢層別)
7-2-1-4図 立ち直りへの協力内容(男女別・年齢層別)
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また,7-2-1-5図は,立ち直りへの協力内容に関する質問(問7)への回答について,犯罪や非行をした者との距離感や親近感との関係を分析するために,これを,「犯罪や非行をした人たちが自分の身近にいるかもしれないと思いますか。」という本調査中の別の質問に「そう思う」と回答した者(以下この節において「身近にいると思う者」という。)と「そう思わない」と回答した者(以下この節において「身近にいると思わない者」という。)とに分けて見るとともに,これを男女別に見たものである。

男性において,犯罪や非行をした者が身近にいると思う者は,身近にいると思わない者と比べて,「犯罪や非行をした人たちに直接会って継続的に助言や援助をする」と回答した者の割合が高い。また,女性において,身近にいると思う者は,身近にいると思わない者と比べて,「更生保護施設にお金や品物などを寄付する」及び「社会を明るくする運動に参加する」と回答した者の割合が高い。

7-2-1-5図 立ち直りへの協力内容(男女別・身近にいると思うかどうかの意識別)
7-2-1-5図 立ち直りへの協力内容(男女別・身近にいると思うかどうかの意識別)
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さらに,7-2-1-6図は,立ち直りへの協力内容に関する質問(問7)への回答について,一般論としてどのような再犯防止対策が必要と考えているかという観点から検討するために,これを,「犯罪や非行をした人たちを立ち直らせ,再犯を防止するためには,具体的にどのようなことが必要だと思いますか。」という本調査中の別の質問(問2)に対する回答と関連付けて分析するとともに,男女別に見たものである。

男女共に,再犯防止対策として「犯罪や非行を地域の問題として捉え地域ぐるみで立ち直りを援助する」ことが必要と回答した者は,そうでない者と比べて,「犯罪や非行をした人たちに直接会って継続的に助言や援助をする」及び「社会を明るくする運動に参加する」と回答した者の割合が高い。また,再犯防止対策として「住居と仕事を確保して安定した生活基盤を築かせる」ことが必要と回答した者は,そうでない者と比べて,「更生保護施設にお金や品物などを寄付する」と回答した者の割合が高い。

7-2-1-6図 立ち直りへの協力内容(男女別・必要な再犯防止策の内容別)
7-2-1-6図 立ち直りへの協力内容(男女別・必要な再犯防止策の内容別)
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(2)就労支援,協力雇用主への支援に関する意識

次に,特に犯罪や非行をした者に対する就労支援や,協力雇用主への支援についての意識等に焦点を絞り,分析する。

7-2-1-7図は,「犯罪や非行をした人たちを立ち直らせ,再犯を防止するためには,企業や事業主は,過去に犯罪や非行をした人たちを積極的に雇用すべきだと思いますか。」との質問(問3)に対する回答を男女別・就労状況別に見るとともに,有職者についてこれを職業別に見たものである。

男女共に,無職者は,有職者と比べて「そう思う」と回答した者の割合が高い。さらに,有職者について職業別に見ると,生産・輸送・建設・労務職や農林漁業職に比べ,管理職や事務職では,「そう思う」と回答した者の割合が低い。

なお,この質問については,「わからない」と回答した者が調査対象者全体の23.8%を占めた。

7-2-1-7図 積極的な雇用の必要性の意識(男女別・就労状況別,職業別)
7-2-1-7図 積極的な雇用の必要性の意識(男女別・就労状況別,職業別)
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7-2-1-8図は,「犯罪や非行をした人たちの就職機会を広げるために,国や地方公共団体はどのような取組を進めるべきだと思いますか。」との質問(問4)に対する有職者の回答を職業別に見たものである。

有職者全体では,「職業訓練等によりビジネスマナーや資格・技術を取得させる」と回答した者の割合が最も高く,次いで,「犯罪や非行をした人たちを雇用した企業や事業主を支援する」,「国や地方公共団体で雇用する」の順であった。さらに,職業別に見ると,生産・輸送・建設・労務職及び農林漁業職に比べ,専門・技術職,管理職及び事務職では,「職業訓練等によりビジネスマナーや資格・技術を取得させる」や「犯罪や非行をした人たちを雇用した企業や事業主を支援する」と回答した者の割合が高い。

7-2-1-8図 必要な就労支援の内容(職業別)
7-2-1-8図 必要な就労支援の内容(職業別)
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7-2-1-9図は,「国や地方公共団体は協力雇用主に対してどのような支援をすべきだと思いますか。」との質問(問5)に対する有職者の回答を職業別に見たものである。

有職者全体では,「協力雇用主に対する保護観察官や保護司によるきめ細かなサポート」と回答した者の割合が最も高く,次いで,「給与の一部助成や雇用奨励金の支給」,「税制面での優遇措置」の順であった。さらに,職業別に見ると,生産・輸送・建設・労務職に比べ,専門・技術職,管理職及び事務職では,「給与の一部助成や雇用奨励金の支給」や「税制面での優遇措置」と回答した者の割合が高い。

7-2-1-9図 協力雇用主に必要な支援の内容(職業別)
7-2-1-9図 協力雇用主に必要な支援の内容(職業別)
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(3)本調査結果のまとめ
ア 立ち直りに対する協力意識について

犯罪や非行をした者の立ち直りについての国民の意識の現状は,本調査の限られた質問に対する回答から直ちに明らかになるものではないし,本調査の結果の解釈も慎重に行う必要があるが,本調査の結果から,立ち直りに対する協力意識について,性別,年齢,就労状況等により,以下のような傾向や特徴を指摘することができる。

<1> 協力意思がある者の割合は,男性では中高年層が,女性では若年・青年層及び中高年層が,それぞれ他の年齢層に比べて高いこと(7-2-1-2図参照)。

<2> 男女共に,高齢層において,犯罪や非行をした者の立ち直りへの協力意思の有無が明確に分かれる傾向があり,特に女性においては,明確に協力を否定する者の割合が高いこと(7-2-1-2図参照)。

<3> 有職者は,無職者と比べて,協力意思がある者の割合が高いこと(7-2-1-3図参照)。

<4> 「社会を明るくする運動」への参加という間接的な協力は,犯罪や非行をした者と直接会って継続的に助言や援助を行うことに比べて,協力へのハードルが低いこと(7-2-1-4図参照)。

<5> 男性は,全年齢層において,女性に比べて,直接会って継続的に助言や援助を行うことといった直接的な協力を選択する者の割合が高いこと。これに対し,女性では,若年・青年層において,「社会を明るくする運動」等の間接的な協力を選択する者の割合が高く,高齢層においては,おおむね他の年齢層に比べて,直接的・間接的であるとを問わず,協力に消極的になること(7-2-1-4図参照)。

<6> 犯罪や非行をした者が身近にいると思うと回答した者は,おおむねそうでない者に比べて,立ち直りへの協力意識が高いこと(7-2-1-5図参照)。

<7> 再犯防止対策として「地域ぐるみの援助」や「住居と仕事の安定」が必要と回答した者は,そうでない者に比べて,立ち直りへの協力意識が高いこと(7-2-1-6図参照)。

<8> 「わからない」「特にない」という回答に見られるように,具体的な協力内容が思い浮かばない者も多いこと。

イ 就労支援,協力雇用主への支援について

同じく本調査の結果,就労支援や,協力雇用主への支援についての意識等については,調査対象者の就労状況や職業等により,以下のような傾向や特徴が認められた。

<1> 有職者は,無職者と比べて,犯罪や非行をした者を積極的に雇用すべきと考える者の割合が低く,特に,実際に求職者の雇用の可否を判断する可能性の高い管理職等においてその傾向が顕著であること(7-2-1-7図参照)。

<2> 国・地方公共団体が進めるべき就労支援の内容として,専門・技術職,管理職及び事務職では,生産・輸送・建設・労務職に比べて,犯罪や非行をした者のビジネスマナーや資格・技術の取得,協力雇用主への支援が重視されていること(7-2-1-8図参照)。

<3> 国・地方公共団体がすべき協力雇用主への支援の内容として,専門・技術職,管理職及び事務職では,生産・輸送・建設・労務職に比べて,給与の一部助成や奨励金の支給,税制面での優遇等を必要と考える傾向があること(7-2-1-9図参照)。

<4> 「わからない」という回答に見られるように,犯罪や非行をした者の積極的な雇用への賛否を決めかねる者も多いこと。