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平成27年版 犯罪白書 第6編/第5章/第3節/3

3 総合的な働き掛けの重要性
(1)多様な特徴を有する性犯罪者に対する処遇の在り方

今回の特別調査の結果から明らかなように,性犯罪者には,性犯罪のみを繰り返す傾向がある者もいるものの,性犯罪以外の犯罪に及んでいる者もいる。特に,年齢の低い時から非行や犯罪に親和性のある単独強姦型や集団強姦型については,性犯罪以外の犯罪に及ぶ者が多いが,同一の類型を繰り返す傾向が高い痴漢型,盗撮型や小児わいせつ型についても,性犯罪以外の犯罪に及ぶ者が一定数いる(6-4-3-4図6-4-4-3図参照)。また,痴漢型や盗撮型の中には,それらの行為で,複数回検挙されたり,受刑したりしている者がおり,その過程の中で,本人を取り巻く生活環境(家族関係,職場関係等)がより厳しくなっていることもうかがわれた。そこで,性非行・性犯罪に特有な問題性に対する働き掛けだけでなく,非行・犯罪一般に対する働き掛けが重要であると考える。具体的には,性犯罪者に対しては,性犯罪者処遇プログラムのみならず,それぞれの特性や問題性に応じて,例えば,単独強姦型や集団強姦型の者には,性非行以外の保護処分歴のある者の割合が高い(6-4-3-4図<4>参照)など,早い時期から非行・犯罪に親和的な者が多いという特徴を踏まえて,交友関係,対人関係の在り方等の見直しを図ったり,また,粗暴犯による前科や保護処分歴等がある者に対しては,必要に応じて暴力防止プログラムを実施するなど,個別具体的な働き掛けを行うことが再犯防止のために有効であると考えられる。

(2)帰住先の確保

今回の動向調査において,強姦,強制わいせつの満期釈放者の帰住先を見ると,共に約4割の者が,「親族等」(帰住先が親族のもとや更生保護施設等)以外の「その他」であることが明らかになった(6-2-4-9図<2>参照)。また,今回の特別調査において,満期釈放者の帰住先別の再犯率を見ると,帰住先が「親族等」の者と比べて,「その他」の者は高かった(本編第4章第4節2項(1)ア参照)。法務省においては,平成24年4月から,更生保護施設に支弁する委託費を一定額加算する措置を講じて,性犯罪者をはじめ自立が困難な者等の受入れを促進している(本編第3章第2節3項参照)が,生活環境の調整に当たっては,早い時期から,対象者を取り巻く家族の状況等を見極めながら,受入体制を整備し,仮釈放につなげること,社会における監督者の指導力を高めること,更には,継続的かつ長期的に,対象者やその監督者に対して支援を行うことができる機関や団体等につなげることなどが重要である。

(3)就労支援の充実

性犯罪者においては,就労の有無は再犯要因ではないとされることもあるが,今回の動向調査(6-2-5-8図参照)及び特別調査(6-4-4-8図参照)において,有職者に比べて無職者の再犯率が高いことが明らかになった。

就労支援には,就労先の確保から就職後の職場定着までの過程においてそれぞれの支援や指導が求められるが,就労状況やその基盤となる年齢や教育程度にも違いがあるため,それぞれの対象者に応じた処遇を行うことが必要である。

性犯罪者は,高校卒業以上の学歴を有する者が大半を占めていること(6-2-4-7図参照),有職者の割合が高い(6-2-4-6図参照)など,他の罪名の者とは異なる面がある。他方で,29歳以下の者の割合が高い単独強姦型,集団強姦型の者については,中学卒業の学歴の者の割合が比較的高い(6-4-3-3図<4>参照)。少年院在院者や少年刑務所におけるこれらの者に対しては,他の少年院在院者や受刑者と同様に,就労の基盤となる教科指導を行うとともに,職業指導(職業訓練)を通しての資格取得のほか,就労を継続していく中で必要とされる対人関係スキル等の指導を積極的に実施することが必要である。保護観察処分少年や保護観察付執行猶予者に対しても,同様の就労の援助が重要である。

(4)関係機関や地域社会との連携強化

現在,性犯罪者の円滑な社会復帰を支援することなどを目的として,個々の性犯罪者の問題性や支援内容等を見極め,それらに対応する関係機関間で情報共有を図ったり,再犯防止の観点から矯正施設と警察庁とで情報共有を図ったりすることなどが行われているが,以下のような取組等をより一層充実することが重要と考える(本編第3章第1節3項(2)参照)。

ア 少年の円滑な社会復帰及び再犯防止に向けた関係機関の連携

新たな少年院法においては,強姦,強制わいせつ等,性非行をした者のうち,特別な配慮を必要とするものを含めて,出院後に自立した生活を営む上での困難を有する少年に対して,少年院は保護観察所と連携を図り,社会復帰支援を行うことが明文化された(第3編第2章第4節2項(5)参照)。少年院においては,各種検査の結果等を通して性非行をした少年の問題性を見極めるとともに,必要に応じて,保護者又は引受人を含め,保健機関,医療機関,福祉機関,教育機関や地方公共団体の担当者等の関係者と一堂に会してケースカンファレンスを行うなどしている。それらの中で,少年の問題性と支援内容等について,関係者間で情報共有し,社会資源の活用につなげる方策を検討し,出院後も継続的な指導,支援等を行うことが期待される。

イ 社会内処遇の担い手である保護司への支援

今回の調査から,性犯罪者の多様な特性や問題性を把握することや,長期間にわたり再犯に及ぶ可能性がある性犯罪者(本編第2章第6節2項(2)参照)を社会内で処遇することの難しさがうかがわれた。加えて,強姦,強制わいせつの保護観察期間は長く(本編第2章第5節2項(2)イ参照),性犯罪の保護観察対象者の処遇を担っている保護司については,その負担は大きいと推察できる。本編第3章第3節において諸外国の取組として紹介した地域社会における専門家を含めたチームとしての働き掛けなどは,保護司への支援や,また広く今後の社会内処遇を考えるに当たって参考になると思われる。

ウ 民間の相談機関等との連携

痴漢型の者の中には,刑事処分後も,短期間に繰り返し痴漢行為に及んでいる者が一定数含まれ(6-4-4-3図6-4-4-5図参照),それらの者の中には,再犯をしないために,家族の協力を得ながら,民間の相談機関や医療機関を利用する者もいた。痴漢行為については,嗜癖的な側面があることもうかがわれることから,個々の者について,痴漢に至る背景事情や動機等を含めた問題性を明らかにし,それらの問題性に対応できる相談機関や医療機関等につなげることが必要である(本編第3章第2節2項(2)事例参照)。

エ 矯正・保護職員の専門性の地域社会への還元

矯正職員及び保護観察官は,日頃から性非行少年・性犯罪者の処遇に携わっており,多様な特性や問題性に応じた効果的な働き掛けについて,一定の知見を有している。

近年,少年による強制わいせつが増加傾向にある(6-2-1-8図参照)が,性非行については,少年時の他の問題行動とは異なり,地域社会における相談窓口が必ずしも多くない。平成27年6月に少年鑑別所法が施行されて以降,少年鑑別所では,「法務少年支援センター」の名称の下,本来業務として地域援助業務に取り組むようになったことから,今後,地域援助業務を通して,少年鑑別所の職員が有している性非行・性犯罪に関する専門的な知見が,より一層地域社会に還元されることが期待される。具体的には,性非行等の問題性を抱えた少年及びその保護者に対する相談業務のほか,地域住民に対する講演,研修,学校関係者等へのコンサルテーション等の場面を通して,地域援助業務が有効に活用されることが望まれる(第3編第2章第3節4項参照)。