前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

平成26年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/3

3 小括

前科のない万引き事犯者の大半は罰金処分者であるが,懲役に処せられた者も15.9%(87人)を占め,うち1人は懲役の実刑に処せられている(6-4-4-1-13図CD-ROM参照)。前科のない万引き事犯者の再犯率は27.1%であり(6-4-4-2-1図P297参照),窃盗再犯を行った者の半数が6か月未満のうちに窃盗再犯に及んでいる(6-4-4-2-13図P306参照)。前科のない万引き事犯者の41.9%が女子であり(本節1項(1)P288参照),その割合は万引きの検挙人員における女子比(平成25年は41.4%)とほぼ同程度であった(6-2-1-6図P214参照)。

前科のない万引き事犯者の特徴は,罰金処分者において見受けられた特徴(本章第3節3項P287参照)とおおむね同様であるが,以下,本項までの特別調査の結果や窃盗事犯者の動向(本編第2章P209参照)を踏まえ,前科のない万引き事犯者の問題性その他の特性等に焦点を当て,効果的な処遇を検討するための類型化を試みる。

ここでの類型化は,性別,年齢,生活状況,心身の状況,動機,背景事情等に着目し,留意すべき問題性その他の特性等の観点から複数の類型に概念化したものであって,1人の万引き事犯者が複数の類型に該当する場合もあり得る。このような類型化の概念の導入は,類型ごとに共通する問題性等を考慮した上で,万引き事犯者に対する処遇を効果的に行うことができるため,有用であると考えられる。

(1)経済状態が不良で生活困窮に陥っている者(「生活困窮」型)

男子の万引き事犯者は,無職者が約6割を占めており(6-4-4-1-4図P290参照),また無職者のうち就職難や勤労意欲のないことが無職理由である者が過半数を占めている(6-4-4-1-5図P291参照)。男子は,安定収入のない者や資産のない者,借金・債務のある者の各割合が,女子よりも高い(本節1項(2)オ(ア)P291参照)。男子の場合,検挙時において所持金のなかった者や1,000円未満の所持金しかなかった者は4割を超えており,その割合は女子に比べて顕著に高い(6-4-4-1-6図P292参照)。

犯行に至った動機では,男子は,「生活困窮」を動機とする比率が各年齢層を通じて高く,男子の総数では31.5%が「生活困窮」を動機としており,その割合は女子の総数における割合(17.9%)と比べても高かった(6-4-4-1-11図CD-ROM参照)。また,男子の特徴としては,若年者を除いて「空腹」に該当する比率が比較的上位にあり,背景事情においては,「無為徒食・怠け癖」といった性格的要因のほか,「住居不安定」に該当する比率が比較的上位にある。男子の場合,「生活困窮」や「空腹」を動機とする万引き事犯者は,これらを動機としない万引き事犯者に比べて,窃盗再犯率が高いことにも注視する必要がある(6-4-4-2-6図P300及び本節2項(1)イ(ウ)P300参照)。

男子の万引き事犯者の中には,このように,経済状態が不良で生活困窮に陥っている者,言わば「生活困窮」型と称すべき類型に該当する者が多数いるものと考えられる。

(2)社会的に孤立している者(「社会的孤立」型)

男子の万引き事犯者は,自宅を住居とする者が大半を占めているものの,単身居住者が4割を超え,住居不定の者や交流のある近親者もいない単身居住者の割合は,女子に比べて顕著に高い(6-4-4-1-2図P289参照)。また,婚姻歴のない者が5割近くを占め,配偶者と離別・死別した者を含めると,大半が婚姻継続状態にない者であった(6-4-4-1-3図P290参照)。犯行に至った背景事情として,男子は,各年齢層を通じて「家族と疎遠・身寄りなし」の比率が高い(6-4-4-1-11図<2>P295参照)。また,再犯状況では,男子の場合,交流のある近親者もいない単身居住者が,同居人のいる者や交流のある近親者のいる単身居住者と比較して,窃盗再犯率が高いことにも注視する必要がある(6-4-4-2-9図P302参照)。

男子の万引き事犯者の中には,このように,家族関係を含め周囲との対人関係が喪失・希薄化し,社会における居場所を失っていると思われる者,言わば「社会的孤立」型と称すべき類型に該当する者が多数いるものと考えられる。

(3)心身に問題を抱えている者(「精神疾患」型)

全体的な割合としては高くはないものの,検挙時において身体又は精神に疾患のある者が2割近くを占めた(6-4-4-1-7図CD-ROM参照)。

とりわけ,女子は,検挙時に精神疾患のある者の割合が男子に比べて相当高く,精神疾患の既往歴がある者の割合も,男子に比べて高い(本節1項(2)カP292参照)。女子は,鬱病等の気分障害や摂食障害の既往歴のある者の割合が男子に比べて高く,犯行に至った背景事情においても,各年齢層を通じて「体調不良」の比率が高く,30歳代では「摂食障害」の比率が比較的上位にあった(6-4-4-1-11図P295参照)。

男子は,アルコール依存症の既往歴のある者の割合が女子に比べて高く,犯行に至った背景事情でも「習慣飲酒・アルコール依存」の比率が比較的上位にある(6-4-4-1-11図P295参照)。

このように,男女共に,心身,特に精神状況に問題を抱えている者が少なからず存在し,刑事処分とは別に,何らかの医療的・福祉的措置が必要となる可能性のあることがうかがえ,このような者については,言わば「精神疾患」型とも称すべき類型に分類し得ると考えられる。

(4)女子高齢者

女子の万引きの検挙人員は高年齢化が顕著であり,平成23年以降は50歳以上の者が過半数を占め,高齢者の割合は過去20年間で約4倍に上昇している(6-2-1-7図<2>P215参照)。女子高齢者の一般刑法犯の検挙人員に占める万引きの割合は83.5%であり,男子高齢者(48.2%)と比べても顕著に高い(4-5-1-3図P185参照)。

今回の特別調査においても,前科のない女子の万引き事犯者は,50歳以上の者が過半数を占めており,男子に比べて年齢層が高く,高齢者の割合も男子より高かった(6-4-4-1-1図P289参照)。女子高齢者の窃盗再犯率は,他の年齢層よりも高く,男子高齢者と比べても高い(6-4-4-2-2図P298参照)。女子高齢者は,犯行に至った背景事情として,他の年齢層に比べ,「近親者の病気・死去」,「家族と疎遠・身寄りなし」の比率が高く(6-4-4-1-11図P295参照),「近親者の病気・死去」を背景事情とする女子高齢者は,これに該当しない女子高齢者と比べて窃盗再犯率が高い(本節2項(1)イ(ウ)P301参照)。

女子は,高齢者になって初めて検挙された前歴のある者の割合が,男子よりも高い傾向にあることも特徴である(本節1項(3)P293参照)。

(5)若年者

男子の万引き事犯者は,若年者の割合が最も高く,その割合は女子と比べても顕著に高い(6-4-4-1-1図P289参照)。犯行に至った動機では,男子の若年者は,「換金目的」の比率が高く,背景事情では,「無為徒食・怠け癖」に加えて,「不良交友」の比率が高いことも特徴といえる(6-4-4-1-11図P295参照)。男子の若年者は,「不良交友」や「無為徒食・怠け癖」を背景事情とする者の再犯率が,これらを背景事情としない者と比べて高い傾向がある(本節2項(1)イ(ウ)P300参照)。

若年者の窃盗累積再犯率は,6か月未満までは,他の年齢層と比べて最も高いが,その後の上昇は緩やかになり,15か月経過後には他の年齢層に比べて最も低くなっている(6-4-4-2-14図P306参照)。若年者に限らず,男子は,少年時に前歴のある者の再犯率が,成人後の前歴のみがある者に比べて高いこと(6-4-4-2-5図<1>P299参照)にも留意する必要がある。