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平成26年版 犯罪白書 第6編/第4章/第3節/3

3 小括

罰金処分者のうち86.3%は万引き事犯者であり(6-4-3-1-13図CD-ROM参照),全対象者における万引き事犯者の割合(57.2%。6-4-2-2図<1>P267参照)と比べても顕著に高い。罰金処分者の調査対象事件の約8割は被害額が1万円未満の事件であり,3,000円未満の事件も過半数を占めている(6-4-3-1-14図P279参照)。検挙後に被害回復がされている者は罰金処分者の約9割を占め,金銭賠償による積極的弁償措置を行った者も4割近くを占めている(本節1項(3)イP279参照)。罰金処分者の約7割が前科のない者(6-4-3-1-7図CD-ROM参照)であることを併せ考慮すると,主として前科のない万引き事犯者に対して,被害程度が比較的軽微であり,かつ被害回復済みの事件を対象として,罰金刑が適用されているといえる。罰金処分者の再犯率は27.7%であり(6-4-3-2-1図P282参照),再犯者の約5割が6か月未満のうちに再犯に及んでいる(6-4-3-2-7図CD-ROM参照)。

次に,男女別で見ると,女子は,罰金処分者の36.7%を占めており(本節1項(1)P271参照),その割合は全対象者における女子の割合(20.3%。本章第2節1項P266参照)と比べて高いだけでなく,窃盗の起訴人員における女子比(平成23年は16.1%)と比べても顕著に高い(6-2-3-4図CD-ROM参照)。罰金処分者に占める万引き事犯者の割合は,女子(97.2%)の方が男子(80.0%)よりも高く(6-4-3-1-13図P278参照),前科のない者の割合も女子(79.0%)の方が男子(64.3%)よりも高かった(6-4-3-1-7図P275参照)。

女子の罰金処分者は,50歳以上の者が過半数を占めており,男子の罰金処分者と比べて年齢層が高い(6-4-3-1-1図P271参照)。家庭環境では,女子は,自宅を住居とする者が95.4%と圧倒的に多く(6-4-3-1-2図P272参照),大半の者が同居人を有している(6-4-3-1-3図P272参照)。また,婚姻歴のある者がほとんどであり,現に婚姻継続中の者が過半数を占めている(6-4-3-1-4図P273参照)。就労状況では,主婦・家事従事の割合が最も高く,無職者の割合は男子に比べて顕著に低い(6-4-3-1-5図P273参照)。また,無職者であっても,就労の必要がないことが無職理由である割合が最も高く,その割合は男子に比べても顕著に高い(6-4-3-1-6図P274参照)。経済状況においても,配偶者の収入を含め安定収入のある者が約9割を占め,資産のある者が大半であり,その割合は男子と比べても高く,借金・債務のない者が8割近くを占めている(本節1項(2)オP274参照)。他方,精神疾患の既往歴がある者の割合が男子よりも高く(本節1項(2)カP274参照),無職者の無職理由においても,精神疾患が無職理由である割合は男子に比べて顕著に高い(6-4-3-1-6図P274参照)。このように女子の罰金処分者は,一見すると,比較的安定した生活環境にあると思える者が多い印象であるが,精神疾患を含む心理面に何らかの不安定要素を抱えている者が少なくないものと思われる。このことは,犯行に至った動機・背景事情においても現れており,女子は,男子に比べて,「節約」を動機とする者の比率が顕著に高いほか,「ストレス発散」や「盗み癖」を動機とする者の比率も低くない(6-4-3-1-15図<1>P280参照)。背景事情においても,女子は,男子に比べて,「体調不良」や「摂食障害」といった心身の状態を背景事情とする者が目立つほか,「配偶者等とのトラブル」や「親子兄弟等とのトラブル」,「近親者の病気・死去」といった家庭的要因や対人関係の問題を抱えている者が目立つのが特徴である(6-4-3-1-15図<2>P280参照)。女子の罰金処分者の再犯率は29.5%であり(6-4-3-2-1図CD-ROM参照),再犯者のうち約5割が6か月未満のうちに再犯に及んでいるが(6-4-3-2-7図P286参照),男子の再犯者と比べると,3か月経過後に再犯に及ぶ者が増える傾向にある(6-4-3-2-8図P286参照)。また,女子の罰金処分者では,高齢者の再犯率(33.8%)が最も高く,その割合は,男子高齢者の再犯率(19.4%)と比べても高い(6-4-3-2-2図P283参照)。

これに対し,男子の罰金処分者は,50歳以上の者が5割近くを占める一方で,若年者も少なくなく,若年者の割合は女子に比べて顕著に高い(6-4-3-1-1図P271参照)。家庭環境では,自宅を住居とする者が大半を占めているものの(6-4-3-1-2図P272参照),単身居住者が4割近くを占めており(6-4-3-1-3図P272参照),住居不定の者や交流のある近親者もいない単身居住者の割合は,女子に比べて顕著に高い(本節1項(2)イP272参照)。また,現に婚姻継続中の者は25.0%にとどまり,大半が婚姻歴のない者や配偶者と離別・死別した者であった(6-4-3-1-4図P273参照)。就労状況では,無職者が約6割を占めており(6-4-3-1-5図P273参照),また,無職者のうち就職難や勤労意欲のないことが無職理由である者は約4割を占め,その割合は女子に比べて顕著に高い(6-4-3-1-6図P274参照)。経済状況においても,男子は,資産のない者が過半数を占めている(本節1項(2)オ(イ)P274参照)。犯行に至った動機・背景事情では,男子は,女子に比べて,「空腹」を動機とする比率が比較的上位にあり,また「家族と疎遠・身寄りなし」を背景事情とする者のほか,「無為徒食・怠け癖」といった性格的要因や「住居不安定」,「辞職・退学」,「就職難」といった経済的要因を背景事情とする者が目立つ(6-4-3-1-15図P280参照)。このように,男子の罰金処分者は,生活環境の面において社会的に孤立していると思われる者のほか,就労や経済面で不安定要素を抱えている者が多いのが特徴である。男子の罰金処分者の再犯率は26.6%であり(6-4-3-2-1図P282参照),再犯者のうち約3割は3か月未満のうちに再犯に及んでおり,女子の再犯者と比べると,再犯期間が短い傾向にある(6-4-3-2-7図P286参照)。

犯行に至った動機として,男女共に共通する特徴は,若年者以外の年齢層において「軽く考えていた」が比較的上位にあり,全ての年齢層において「節約」が上位にあることである(6-4-3-1-15図<1>P280参照)。「軽く考えていた」はもちろんのこと,「節約」についても財産犯である窃盗に向けられた動機付けとしては比較的弱く,安易な気持ちで窃盗に及んでいると評価し得る。罰金処分者の手口の大半を占める万引きは,窃盗の中でも比較的軽く受け止められがちな風潮のある手口であるが,万引きという犯罪を大したことがないと考えて安易に犯行に及んでいる者が少なくないことがうかがえる。

最後に,罰金処分者の前科・前歴の有無と再犯状況との関連性について概観する。前記のとおり,罰金処分者の約7割は前科のない者であるが,そのうち,前歴もない者は約1割にとどまり,大半が窃盗前歴のある者であり(6-4-3-1-10図CD-ROM参照),窃盗の微罪処分歴のある者が過半数を占めている(6-4-3-1-12図CD-ROM参照)。窃盗の前科前歴の有無によって再犯率の違いを見ると,窃盗前歴のない者は,窃盗前歴のある者や窃盗前科のある者と比べて,窃盗再犯率が低く(6-4-3-2-4図P284参照),窃盗の微罪処分歴の有無でも同様の傾向にある(6-4-3-2-6図P285参照)。次に,前科のある罰金処分者について見ると,男子の方が女子よりも前科のある者の割合が高く,窃盗の懲役前科を有する者も少なくない(6-4-3-1-7図P275,6-4-3-1-8図P275参照)。また,前科の有無によって再犯率の違いを見ると,男子は,前科のない者の方が前科のある者よりも再犯率が低く(6-4-3-2-3図P284参照),窃盗前科の有無でも同様の傾向にある(6-4-3-2-4図P284参照)。