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 昭和40年版 犯罪白書 第三編/第三章/六/2 

2 保護観察処分少年の保護観察状況

 わが国において,少年に対する,保護観察が国の責任において,行なわれるようになったのは,大正一二年,旧少年法の施行に始まる。その後,昭和二四年,新少年法,犯罪者予防更生法の施行により,現行の,少年に対する保護観察制度が確立された。

(一) 保護観察処分少年

 非行少年やぐ犯少年で,家庭裁判所の「保護観察所の保護観察に付する」処分を受けた者(保護観察処分少年)は,原則として二〇才まで,二〇才に達するまで二年に満たない場合は,二年間,保護観察を受けることになる(例外として,二三才に達するまでの場合もある)。
 この少年に対する保護観察は,前編第三章二でのべたとおり,全国四九の保護観察所が行なうのであるが,昭和二四年以降,保護観察処分少年の受理人員は,前編第三章二のII-3図のとおり,昭和二六年と昭和三五年が二つの頂点をなし,昭和三六年以降は,下降の傾向にある。
 行為別に五年間の受理人員をみれば,III-74表のとおりで,総人員において,昭和三六年以降漸減の傾向にあるなかで,増加,または,横ばい状態にあるものは,刑法犯では,わいせつ,傷害致死,偽造,特別法犯では,道路交通法令違反,暴力行為等処罰に関する法律違反,覚せい剤取締法違反,麻薬取締法違反である。偽造,道路交通法令違反のほかは,いずれも,暴力,または,暴力組織関連の犯罪である。

III-74表 保護観察処分少年の行為別受理人員(昭和34〜38年)

 年令別構成の推移をみれば,III-9図のとおりで,一六才未満のいわゆる低年令層の増加が目だつ。年令を行為種別との関連においてみれば,III-75表のとおりで,一六才未満には,ぐ犯や単純財産犯(窃盗)が多く,一八才未満には,暴力的財産犯,性犯罪が多く,一八才以上には,暴力犯,暴力組織関連犯,知能的財産犯,道路交通法令違反が多い。

III-9図 保護観察処分少年の年令別構成の推移

III-75表 保護観察処分少年の年令別行為種別人員(昭和38年)

(二) 保護観察の実施状況

 保護観察について一部は,すでに前編第三章二でのべているので,ここでは,保護観察の実施上,特に重要と思われる若干の事項をとりあげるにとどめる。

(1) 保護観察所への出頭

 仮釈放者の場合とことなり,保護観察の開始にあたって,保護観察所長は,保護観察処分少年について,言渡裁判所の意見を聞くほか,保護観察官の意見,ならびに本人および保護者の申立などを参考にして,保護観察期間中遵守すべき特別遵守事項を定め,これを法定の一般遵守事項とともに,少年に指示して理解させ,これらのことを遵守することを誓約させなければならない。この手続は,仮釈放におけるように,事前に,少年の身上や環境を知る段階がないだけに,言渡機関である家庭裁判所から,執行機関である保護観察所への,円滑な,しかも有機的なバトンタッチが特に必要である。
 保護観察開始当初のこの手続を適正迅速に行ない,その後の保護観察がスムースに行なわれるためには,まず,保護観察処分言渡し直後において,少年の保護観察所への出頭を確保することが,最も重要なことである。
 その出頭状況を一〇年間についてみると,III-76表のとおり,出頭率は,ゆるやかではあるが,上昇傾向にあり,昭和三三年以降九〇%以上を示しており,昭和三八年には,やや上昇の度を高めている。また,不出頭者のなかで,正当な理由のない者が,昭和三八年には,二・五%と相当の減少を呈している。それにしても,なお,五六五人の正当な理由のない不出頭者がいることは,注目に値しよう。

III-76表 保護観察処分少年の出頭状況(昭和29〜38年)

 これら不出頭者のなかには,当初から,保護観察をうけて,更生しようとする意欲に欠けている者のあることが考えられるが,そのほかに,保護観察所には,家庭裁判所支部に対応する支部がないため,言渡人員の三分の一以上をしめる支部言渡しの少年は,地理的,時間的,経済的事情などのため,保護観察所に出頭できない場合もあることが考えられる。
 この不出頭を防ぐための一つの対策として,年来,保護観察所支部,または,これに類似の出頭場所の設置の必要性を指摘してきたのであるが,これについて,鹿児島県名瀬の外に,昭和三八年七月から,全国にわずか八か所ではあるが,保護観察官の駐在事務所が設けられた。その活動状況は,前編第三章二で述べたとおりで,この活動が,昭和三八年における出頭率の向上,理由のない不出頭率の低下という好結果をもたらしていると思われる。したがって,この制度が,出頭の確保をも含めて,家庭裁判所からのバトンタッチの円滑化,保護観察処遇の迅速,適正化に寄与し,保護観察の効果をあげるものとして,今後の活動が期待される。

(2) 所在不明者

 保護観察所への出頭を確保し,保護観察への導入をうまく行なっても,その後所在不明となり,保護観察から離脱したのでは,せつかくの保護観察も,効果をあげることはできない。
 所在不明の状況を,昭和二四年以降についてみれば,III-77表のとおりで,所在不明率は,途中若干の起伏はあるが,上昇傾向にある。ことに,昭和三四年には,それまでの四%台から五%となり,以後,昭和三七年まで累年増加している。

III-77表 保護観察処分少年の所在不明人員と率(昭和24〜38年)

 次に,所在不明の割合を,大都市管轄の保護観察所と,その他の保護観察所との別に比較すれば,III-78表のとおりで,神戸を除く大都市において高い。また,所在不明人員では,大都市管轄庁が昭和三七年以降,全体の過半数を占めている。

III-78表 大都市管轄保護観察所とその他の観察所における保護観察処分少年の所在不明状況(昭和34〜38年)

 所在不明になる原因については,たとえば,更生意欲欠如の問題や,経済事情,雇用関係などによって生ずる移動の活発化から,ひんぱんに住所を変えるうち,保護観察から離脱していくことなど,いろいろ考えられるが,いずれにしても,所在不明者は,法定遵守事項によって一定の住居に居住すべきことが義務づけられており,転居または長期の旅行をするときは,あらかじめ許可を求めることになっているにもかかわらず,その履行を怠ったものである。しかも再犯の危険性が強いと考えられる。
 保護観察処分少年の所在不明について,法務省保護局が,昭和三六年七月一日から昭和三七年六月三〇日までの間に所在不明となり,昭和三七年七月三一日現在なお所在不明のものから四二三件を抽出して,その実態を調査したものがある。所在不明者に存在する特徴として,職業,交友,前歴(家出),家族構成などに問題があるとし,その総括的意見として,一旦所在不明になった者の発見は,なかなか困難であるので,所在不明に対処する第一の要諦は,その発見よりも,その事前防止にあるといわねばならないであろうといっている。
 これらのことから,保護観察所としては,保護観察開始時の出頭の確保はもちろん,平素の保護観察や,転居の際の諸手続に,一段と綿密な配慮をして,所在不明を未然に防止するとともに,所在不明者については,関係機関と緊密な連けいを保ちつつ,継続して所在発見に努める必要がある。

(3) 保護観察処分少年の成績と保護観察の終了

 保護観察の成績良好な者に対する保護観察の停止,または解除の措置,成績不良者に対する呼出し,引致状による引致,家庭裁判所への通告など,保護観察の実施状況については,前編第三章二で述べたところである。
 最近五年間の保護観察の終了状況は,III-79表のとおりである。成績良好による保護観察の解除は,二〇%前後である。満令,または期間満了によるものは,六六%前後であり,その内訳をみると,成績「良」「やや良」は漸増の傾向にあり,「不良」は漸減の傾向にある。しかし,成績がはなはだ悪く,家庭裁判所への通告や,再犯等のため,家庭裁判所で保護観察処分の取消しを受けた者が,相変わらず一四%前後の横ばい状態を続けていることは,家庭裁判所との連けいや,保護観察の実施方法について,一段の工夫が必要であることを示唆するものといえよう。

III-79表 保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員の累年比較(昭和34〜38年)