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 昭和40年版 犯罪白書 第三編/第三章/五/3 

3 少年刑務所における処遇

(一) 少年受刑者の処遇

 少年受刑者の処遇の最も基本的なものとして,少年法並びに監獄法令は,収容場所の特設主義を掲げている。すなわち少年法は,懲役または禁錮の言渡しを受けた少年(一六才以上二〇才未満)に対しては,特に設けた監獄または監獄内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行することを規定し,また,監獄法はこれに対応して,少年受刑者は特設の監獄(少年刑務所)または監獄(成人刑務所)内の特に分界を設けた場所(少年区)に拘禁して,そこで,特に教養訓練に重きをおくため特別の措置をなすべきことを規定しているのである。これは少年受刑者の心身の被影響性および教育可能性(可塑性)が大きいことなどから,まず成人受刑者からの分離による悪影響の防止と,更には,少年に対する教育,訓練の徹底を図る趣旨にほかならない。なお,少年受刑者が二〇才に達したときも直ちに成人刑務所に移すことは,それまで継続してきた少年に対する特別処遇の効果を害するおそれがあるので,少年が満二〇才に達した後でも,その者の心身の状況などによって,そこでの処遇を適当と認めた場合は,最高満二六才に達するまで執行を継続することが許されている。
 このような少年受刑者を収容する少年刑務所は,昭和三九年一二月末日現在九か所で,男子少年のためのものである。女子少年は,女子の成人刑務所の特に分界された「少年区」に収容され,そこで特別処遇つまり少年処遇が行なわれるのである。
 少年処遇は,監獄法令上成人受刑者の処遇一般に対する特例として規定されており,一般処遇に比べて,より教育的,保護的であるのを特色とする。
 まず少年処遇の前提である組織規定をみると,成人の刑務所が管理部,その下に保安課,作業課をおいているのに対し,少年刑務所においては,補導部を設けて,その下に補導課,職業訓練課,教育課をおいている。このような分課組織は,まさしく少年の職業教育や生活指導などの矯正教育を重視した配慮に基づくものであろう。ちなみに,昭和三九年一二月末日現在,定員一〇五名(刑務所,拘置所および少年刑務所を通じて)の法務教官のうち,六五名が九か所の少年刑務所に重点的に配置されているのである。
 次に少年の可塑性にかんがみての教育的な面からみると,
(イ) 少年受刑者に作業を課する際は,一般に斟酌すべき事項に加えて,特に教養に関する事項を考慮すべきものとされているほか,各就業者について相当の作業科程を定めることができることになっている。
(ロ) 少年受刑者には毎日四時間以内その教育の程度に応じて相当の教科を施行することになっているが,更に小学校または中学校の課程を修了していないものにつき,特に必要があると認めるときは,四時間を越え小学校または中学校において必要とする教科を授けることもできることになっている。
(ハ) 家族などとの面会や信書の発信については,教化上必要と認めた場合には,制限を緩和して,その回数を増加することができることになっている。
(ニ) また受刑者の改しゅんを促し,その発奮努力の程度に従って処遇を緩和し,受刑者をして漸次社会生活に適応させることを目的とする累進処遇のその審査にあたっては,(1)作業の勉否と成績,(2)操行の良否,(3)責任観念および意志の強弱の各項のほかに,少年受刑者の場合には,「学業の勉否と成績」の一項を加えて審査すべきことが定められている。更に集会,競技,遊技,運動会につき一般累進制上の制限によらないで,集会や競技を行なわせることかできることになっている。
 次に少年の身体的,精神的特性にかんがみて保護的な面からみると,
(イ) 独居拘禁の期間は原則として六月以上継続して行なうことができないことになっている(成人については最長二年)。また独居拘禁者については少なくとも三〇日ごとに一回健康診断を行なうことになっている(成人は三月ごとに一回)。
(ロ) 護送時も他の在所者とは区分すべきものとされているほか,病気にかかったときは,その他の者と治療時間および病舎における居室を異にすべきものとされている。
(ハ) 給養面では,収容者食料給与規定によって,給与する主食の等級が,その従事する労働別,性別,年令別に定められており,少年には成人に比べておおむね一等級うえの級の主食が給与されることになっている。副食も成人の五〇〇カロリーに対して少年に六〇〇カロリーが確保され,一日あたりの副食費は昭和三九年一二月末日現在,成人の二七円九〇銭に対して,少年は三一円九〇銭で,少年が心身発達の途上にあることが考慮されている。
(ニ) また右の趣旨から懲罰につき減食罰の適用から少年は除外されている。
(ホ) その他,衣服についても,成人に着用させる衣類の色があさぎ色に定められているのに対し,少年には,別に定める衣類を着用させることができるように定められている。
 以上述べたように種々の点で,少年は成人と違った,より矯正教育を重視した処遇がなし得るよう配慮されているのである。

(二) 少年受刑者の特徴

 昭和二四年に新少年法と少年院法が施行され,保護処分として少年院に収容される者が多くなるにつれて,少年受刑者の数は減少した。III-63表は昭和二〇年以降の少年受刑者と少年院収容者の年末現在員の推移を示したものであるが,少年受刑者数は昭和二三年の六,三五三人(受刑者総数の六・三%にあたる)を頂点として,漸次減少している。特に注目すべき点は,昭和二六年に少年法の一部改正で,少年年令が一八才から二〇才に引きあげられたため,少年院収容者は二四年に比べて二六年には約三倍に急増したのに対して,反対に,少年受刑者の数は,二四年に比べて二六年には一,四一三人の減,遂に二七年には二,六八三人の減,つまり二四年の人員の半分以下に急減するに至ったことである。そこで当局はこの事実にかんがみ,昭和二八年に,従来全国に一二施設あった少年刑務所を,九施設(川越,水戸,松本,姫路,奈良,岩国,佐賀,盛岡,函館)に減じ,今日に至っているのである。

III-63表 少年受刑者,少年院収容者の年末現在員(昭和20〜38年)

 昭和三八年一二月末日現在の少年受刑者数は,一,三八六人(うち女子は二人)で,これは同時期の受刑者総数五三,八八八人の約二・五%にあたる。これら少年受刑者(少年法五六条により刑の執行を受ける者すなわちD級受刑者)の大部分のものは,前記九施設の少年刑務所に収容されている。ただ少年受刑者の減少に伴い,水戸,姫路,盛岡および函館の各少年刑務所においては,少年受刑者のほかに,成人の若年受刑者すなわちE級(おおむね二三才未満で特に処遇上少年に準じて取扱う必要のあるもの)や,G級(二五才未満で性格おおむね正常で改善容易と思われるもの)をも併せ収容し,事実上青少年刑務所化している。
 III-64表は昭和三四年から昭和三八年まで五か年間の新に入所した少年受刑者の罪名別人員であるが,新少年受刑者の総数は昭和三五年を頂点として漸次減少している。罪名では,各年とも,窃盗,詐欺,横領などの財産罪の比率が全新受刑者のそれに対して低いが,強盗,恐かつ,殺人などの暴力犯罪や強かん等の性犯罪の比率は少年受刑者の方がかなり高い。また,少年院送致少年の行為別人員と比較してみると,少年受刑者は窃盗の比率が低く,強盗,傷害,殺人などの比率が高い(III-55表およびIII-64表参照)。

III-64表 20才未満新受刑者の罪名別人員と率等(昭和34〜38年)

 次に少年受刑者の犯歴についてみるとIII-65表に示す通りで,九八・五%が初入者であり(成人の初入者は四〇・九%である),二入以上のものは一・五%にすぎない。しかし少年院収容経験者は多く,昭和三五年の犯罪白書によると約半数とされているが,昭和三六年の新少年受刑者では三九・七%,昭和三八年の新少年受刑者では三二・五%と減少している。しかし少年受刑者の約三分の一が少年院収容経験者であることは注意しなければならないことであろう。

III-65表 新受刑者の入所度数別人員と率(昭和38年)

 III-66表は昭和三四年以降五年間の少年受刑者の刑名,刑期別人員とその率を示すものである。懲役刑についてみると,昭和三四年は二年を越え三年以下のものの人員が最も多かったが,昭和三五年以降はこれが一年を越え二年以下の方へ移行してきている。しかし全新受刑者の刑期別人員の率で最も多いのは一年以下であることに比べると少年受刑者は一般に刑期が長いといえる。

III-66表 20才未満新受刑者の刑名,刑期別人員と率等(昭和34〜38年)

(三) 少年受刑者の教育

 少年受刑者はいまだ身心の発達途上にあり,可塑性が豊かであるので,将来の更生のための基礎的な教科教育,職業教育,生活指導等のいわゆる教育的処遇が考慮されている。教科教育についてみると,義務教育未修了者はもちろんのこと,その他のものに対してもそれぞれの教育程度に応じた教育を実施している。
 矯正統計年報によると,新受刑者のうちの不就学者の比率は昭和三四年以降を例にとってみると,三四年,一・九七%,三五年,一・七三%,三六年,一・七%,三七年,一・四三%,三八年は一・四九%と年々減少していることはよろこばしいことである。また川越,松本,奈良,岩国,佐賀の五施設についての法務省矯正局の調査によれば,昭和三九年一二月末日現在の収容人員一,九四七人(準少年および青年受刑者若干を含む)のうち不就学者は僅か五人で比率は〇・二五%である。しかし小学校の未修了者は四五人,中学校の未修了者は二一四人となっており,義務教育を修了していないものは三一三人で収容人員に対する比率は一六・〇%にあたる。
 さて,次に前記五施設における昭和三九年一二月末日の教科教育実施人員は四七三人で,収容人員に対する比率は二四・一%でである。
 このように少年刑務所では多くの少年に教科教育を行なっているが,少年院と異なり教科の修了者に修了の事実を証明する証明書を発行できる制度がないため,それに代る方法が渇望されていたが,昭和三〇年四月から松本少年刑務所内に松本市立旭町中学校の分校が設立され,この問題が解決されたことはよろこばしいことである。松本少年刑務所付設旭町中学校桐分校は中学二年の課程を終ったが,三年が未修了である少年受刑者を全国の少年刑務所から毎年三月に集め,一年間の授業を行なう。学課の修了者には旭町中学校長の修了証書が交付されている。ここには毎年二五人前後の少年が集められ,昭和三九年は一〇回目である。卒業生は昭和四〇年三月までに二四三人の多きに達している。
 通信教育は,少年受刑者に対して,教育の門戸を開放するとともに,その能力に応じ,知的教養の向上をはかることを目的として,昭和二五年にはじめて少年刑務所において試行されたものであるが,各施設とも少年にこの制度の活用を奨励している。すなわち,受講を希望するものについては,講座の内容,修学期間や本人の心身の状況,残刑期,学力,行状等を考慮して,適当と思われる者を選抜して一般社会の通信教育をうけさせているのである。通信教育受講の費用は公費によってまかなわれるが,私費による受講も許されている。法務省矯正局の調査によれば,昭和三九年一二月末日の前記五施設における通信教育受講者数は二九五人で,その内訳は簿記六〇人,自動車技術二三人,ラジオ,テレビ,電気工学等五八人,孔版一一人,書道,ペン習字,美術,音楽等五五人,建築五人,英語二五人,高校五八人である。
 少年刑務所における刑務作業は出所後の更生に役だつ職業能力を身につけさせることならびに作業を通じて人格のとうや,責任感,勤労精神のかん養等を重視して運営されていることは勿論であるが,最近特に職業訓練の拡大強化に重点がおかれている。ちなみに奈良,函館両少年刑務所は,昭和三九年に総合職業訓練刑務所に指定されている。III-67表は昭和四〇年三月末日における前記五施設の業種別人員である。職業訓練人員は収容者に対し約二〇%で,まだ少数であるが訓練人員は年を追って増加する傾向にある。所内の職業訓練は職業訓練法による教課内容と同一基準によって組織的に実施されている。したがって同法による技能検定を受験する資格を取得することができ,労働省の好意的理解によって,職業訓練局長から,総合訓練施設に指定されている前記奈良,函館の木工,建築大工,左官,機械,板金,洋服,製靴,活版印刷の種目について,職業訓練履修証明書が交付されており,少年受刑者の更生に役立っていることはよろこばしいことである。

III-67表 少年刑務所における刑務作業別人員(昭和40.3.31現在)

 職業訓練生の選定は心身の状況,能力,職業適性,職業興味,職歴等について厳重な選考を経てきめられる。昭和四〇年三月末日における前記五施設で実施中の訓練種目と種目別人員はIII-68表の通りである。

III-68表 少年刑務所における職業訓練種目と人員(昭和40.3.31現在)

 次に所内で職業訓練を終了したものは職業訓練法,理容師法その他法令にもとづいた公式の技能検定をはじめ各種の試験を受けることができ,その合格者は公認された職業上の資格,免許を取得することができる。現在,少年刑務所ではできるだけこの種資格や免許をうることができるように配慮している。III-69表は昭和三九年中に前記五施設での資格,免許の検定の受験人員とその合格人員を種目別に示したものである。

III-69表 少年刑務所における各種資格および免許検定受験および合格人員(昭和39会計年度)

 このほか函館少年刑務所では,戦前に行なわれていた少年受刑者の船舶乗員訓練を再開し,昭和三九年には,鋼鉄新造船が同所に配置され,訓練の成果の見るべきものが増加しつつある。この関係の各種技能検定の受験およびその合格者をみると,無線通信で一八人が受験し,一四人が合格しているほか,乙種二等航海士で六人,丙種船長で四人,内燃機関丙種機関長で四人がおのおの受験し,全員が合格している。また,奈良少年刑務所では昭和三九年以降国際技能競技大会の国内予選に訓練を終了した受刑者を送り,奈良県代表として,技能オリンピック国内大会に板金,木工の種目に出場し立派な成績をおさめた(板金二五人中八位,木工二一人中一八位)ことはよろこばしいことである。
 所内における生活指導は集団生活のあらゆる面で積極的に行なわれている。少年刑務所においては,共同生活に必要な訓育および秩序ある生活態度と遵法精神のかん養のためオリエンティションを行なうほか余暇時間の指導につとめ,少年が自主的な活動をとりうるようなクラブ活動を盛んに行なわせている。すなわち,一級者,二級者の月例集会や所内誌の作成,短歌,俳句,書道,絵画等の趣味の会合,読書会,討論会,所内放送設備を利用した放送コンクール等が各種の運動競技とともに余暇時間の活用として行なわれている。
 カウンセリング活動も積極的に行なわれ,少年の情緒的障害に対しての治療的処遇として盛んである。また昭和二八年に発足した篤志面接委員制度の活用も活発である。前記五施設には五八名の委員が依嘱され,昭和三九年中におけるその面接指導件数は一,六四四件である。III-70表はその内容別件数を示したものである。

III-70表

 刑務所では受刑者の情操や教養を高め,社会的知識を広めるため,各方面の名士や学識経験者などに依頼して少なくとも月一回講演を行なっている。少年刑務所ではこの種活動は成人刑務所に比して一段と活発である。
 また,宗教的情操や信仰心を深めることにも意をもちいている。すなわち信仰心を持つ希望者のため,民間の宗教家の来訪をあおいで,これら教誨師による,グループ別または個別の宗教教誨を受けさせており,信仰座談会や仏典,聖書などの研究会も定例的に催されている。昭和三九年中の前記五施設における教派別の宗教教誨回数は神道一〇〇,仏教六四三,キリスト教二一七,諸教一三四で合計一,〇九四回であった。