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 昭和40年版 犯罪白書 第三編/第三章/五/2 

2 少年院における処遇

(一) 少年院入院者とその特質

 少年院は,家庭裁判所が保護処分のひとつとして行なった少年院送致の決定を受けた少年を収容し,これに矯正教育を施す国立の施設であって,法務省の所管に属し,現在五八の本院と三つの分院がある。少年院には,心身に著しい故障のない一四才以上おおむね一六才未満の者を収容する初等少年院,おおむね一六才以上二〇才未満の者を収容する中等少年院,犯罪的傾向の進んだおおむね一六才以上二三才未溝の者を収容する特別少年院および心身に著しい故障のある一四才以上二六才未満の者を収容する医療少年院の四種別がある。
 昭和三八年に少年院送致決定を受けた少年は七,六四四人であって,これを最近五か年間の傾向でみるとてい減の一途をたどっている。さらにIII-53表によって少年院種別ごとに五か年間の傾向をみると中等少年院が実数においても構成比率においても減少がいちぢるしいことが注目される。これに対して初等および医療少年院がやや増加の勢いを見せている。

III-53表 少年院送致少年の少年院種別ごとの人員と率(昭和年34〜38年)

 少年院送致となった者を年令別にみると,III-54表のとおり,ここ数年間注目されてきた一四才および一五才の低年令層の増加の勢いはやや弱まってきているが依然として注意される。これに対して一七才以上の年令層の減少傾向が認められる。しかし一六才の者については前年比四%近く急増している。

III-54表 少年院送致少年の年令別人員の率(昭和34〜38年)

 次に少年院送致となった者の行為別の比率をIII-55表でみると,昭和三八年には,窃盗が四九・二%で一位を占め,恐かつ一二・一%,ぐ犯九・九%,強かん七・六%などの順となっている。これを五か年間の傾向でみると,増勢にあるものは強盗,強かん,ぐ犯などで,窃盗および粗暴犯はおおむね横ばい状態である。

III-55表 少年院送致少年の行為別人員の率(昭和34〜38年)

 次に最近五か年間における少年院新収容者について少年院収容経験の有無を調べてみると,III-56表のように約二〇%のものが以前に収容された経験を持っており,この率は五か年間をつうじてほぼ一定している。

III-56表 新収容者の収容度数別人員(昭和34〜38年)

 III-57表は昭和三四年以降五か年間の少年院新収容者の学歴別人員を百分比で示したものであるが,中学校および高等学校在学中の少年が増加してきていることがとくに注目される。これに対して小学校程度の学歴しか有しないものが全般的に減少している。

III-57表 新収容者の学歴別人員の率(昭和34〜38年)

 なお,昭和三八年の少年院新収容者について,その知能指数分布をみると,知能指数九〇〜一〇九(普通知能)のものが全体の三七%を占めてはいるが,八〇〜八九(準普通)のものが二七・八%,七〇〜七九(限界知)のものが一七・九%,七〇未満(精神薄弱)のものが一三・七%となっており,知能指数の分布は低知能者の方に著しく片寄っている。
 III-58表は少年院種別ごとの退院,仮退院別平均在院期間について昭和三四年以降五か年間の推移を示したものであるが,昭和三四年以降短くなってきていた平均在院期間が昭和三六年ごろからふたたび長くなってきていることが注意される。とくに中等少年院の場合にいちぢるしい。なお,特別少年院と医療少年院の平均在院期間が長いことは,その収容少年の特性からしてけだし当然のことであろう。

III-58表 少年院種別ごとの退院,仮退院別平均在院期間(昭和34〜38年)

 退院,仮退院別にみると,一般に仮退院者の方が退院者よりも平均在院期間が長くなっている。これは仮退院の場合には受け入れ環境を調整するためにかなりの日数を必要とすることを示すものとみられる。なお,医療少年院の場合のみは退院者の平均在院期間が仮退院者のそれよりも長くなっているが,これは収容少年の特性からみて,保護環境が複雑で仮退院が困難な事例が多いことを示しているものと考えられる。

(二) 少年院収容者の教育,医療衛生,給養

イ 教科教育
 昭和三八年の少年院新収容者中,義務教育未修了者は二,〇八〇人であって,これは同年の全新収容者の二七・二%にあたる数である。かれらに対しては義務教育修了の資格を得させることを目的として,義務教育の課程を授けている。しかし少年院に収容される者の多くは学習意欲に欠け,学力の程度もまちまちであり,加えて入院時期が一定でないため少年院における教科教育の効果的な実施に困難な条件下にある。少年院長は教科を修了した者について修了証明書を発行し,または少年の出身校,施設所在地の学校と連絡の上教科修了または卒業の資格を与えているが,昭和三八年には小学校修了二人,同卒業七人,中学校修了二一七人,同卒業一,一五四人が証明書を得ている。
 なお,義務教育修了者に対しては,社会生活に必要な知識,技能の補修教育を施すことを主眼とした教科教育を実施しているが,矯正局の調査によれば,昭和三九年三月三一日現在で学級編入人員は二,五八九人で,学級数は一三六となっている。ちなみに同日現在で教員免許状を取得している職員の数は四七〇人である。
ロ 職業補導
 矯正統計年報によれば,少年院の新収容者の五一%は収容前は無職で,また,職に就いていた者の多くは単純労働であって,なんらかの職業的技能を有する者はきわめて少ない。かれらに対して労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養わしめ,職業生活に必要な知識と技能を授けることを目的として,少年院ではそれぞれの実情に応じた職業補導を行なっている。
 現在少年院で実施されている職業補導の種目および補導を受けている少年の数はIII-59表のとおりである。男子では,農耕,園芸,竹細工,金工,畜産,木工,謄写印刷などの補導種目が多く,女子では,洋裁,手芸,事務,家政,編物などが多い。

III-59表 少年院職業補導種目別人員(昭和38年12月末日現在)

 収容少年が,在院中になんらかの職業に関する資格や免許を取得することは,出院後の就職を容易にし,また自己の知識や技能に自信を持たせる意味で,その更生上きわめて意義あることは明らかであって,少年院ではでき得る限り資格・免許の取得のための機会を少年に与えている。III-60表は資格・免許の取得人員と合格者率を前年と対比して示しているが,受験者も合格者も増加している。種目別には珠算が大半であるが,汽缶士,電気工事士,電気溶接士なども活発化していることは注目される。

III-60表 資格免許の取得人員と合格率等(昭和38年)

 教科教育および職業補導に関連して,公費による通信教育制度がある。矯正局の調査によれば,昭和三八年度における受講者の総数は三,一七〇人であって,講座別には自動車,孔版,洋裁,簿記,ラジオ,テレビ等が多く,この制度を活発に利用するための努力がなされている。
ハ 生活指導
 少年院における生活指導の目標は,少年の反社会的な考え方や行動様式などを除去して健全な社会性を発達せしめることにある。このため入院当初には日常生活における基本的な行動様式を身につけさせることを主眼とした指導を行ない,期間の経過にしたがって漸次必要な社会的生活訓練を与え,最後に退院にあたっては出院後の生活設計をたてさせるように指導している。
 具体的な指導方法としては,社会教育講話,余暇活動,篤志委員面接,集団ならびに個別心理療法などが利用されているほか,収容生活のあらゆる場面で職員による個別指導が行なわれている。
 余暇活動のおもなものはクラブ活動であってIII-61表に示すように昭和三八年には延一一,二四七人の少年がクラブに所属して二三,五三六回の活動に参加している。とくに盛んなクラブ活動は卓球,野球,ソフトボールなどのスポーツと,音楽(声楽,器楽),美術(絵画,版画,工芸,書道),文学(文芸,短歌,俳句)などである。

III-61表 クラブ活動所属人員と実施回数(昭和38年)

 矯正施設の収容者に対して民間の篤志家の助言指導に期待する篤志面接委員制度は少年院においても活発に実施されており,昭和三八年一二月末日現在で五五七人の委員が委嘱をうけて面接指導を行なっている。矯正局の調査によればその面接相談の内容は精神的はんもんが最も多く一,四五三件で,ついで職業相談一,二三九件,家庭相談一,一八四件などの順となっており,収容少年の悩みの一端を示している。
 性格のかたよりの著しい少年に対しては心理技官等の専門職員によって,個別ならびに集団のカウンセリング,精神分析,心理劇療法,遊戯療法などが実施されており,かなりの効果を収めているが,この種の専門技術者の数がすくないため一部の少年に実施されるにとどまっている現況である。
ニ 医療衛生,給養
 心身に著しい故障のある者を収容し,これに治療を施す専門の施設である医療少年院および少年院付設医療センターおよび専門施設はIII-62表のとおりであって,昭和三八年中にこれらの施設を出院した少年は七〇〇人(同年中の全出院少年の八・五%)である。その他の少年院にもそれぞれ診療機関が設けられており,収容少年の医療関係の業務が行なわれている。矯正局の調査によれば昭和三八年一二月末日現在,医師七七人,薬剤師七人,レントゲン技師三人,栄養士一七人,衛生検査技師二人および看護婦(人)の資格を有する者六三人がこの種業務に従事している。

III-62表 少年関係医療センター(昭和38年12月未日現在)

 患者については,矯正局の調査によれば昭和三八年一〇月末日現在,休養患者(一般の入院患者にあたる)二八一人,非休養患者(一般の通院患者にあたる)一,七一三人であって,これを病名別にみると,精神病などの精神障害が最も多く(二一・三%),ついで消化器系の疾患(一八・〇%),神経系及び感覚器の疾患(一四・一%),伝染病及び寄生虫病(一二・九%)などの順に多い。
 矯正施設では衛生管理,とくに伝染病の予防について細心の注意がはらわれており,各施設とも上下水道,し尿処理設備の改善,衛生教育,予防接種の励行,検便などを行なうよう努力している。
 収容少年に与えられる食事はひとり一日三,〇〇〇カロリー(主食二,四〇〇カロリー,副食六〇〇カロリー)であって,収容少年ひとり一日あたりの副食費は昭和三九年一二月末日現在三一円九〇銭である。