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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第6章/第3節/2 

2 少年司法制度

(1) 最近の立法動向

 少年司法制度は,1998年犯罪及び秩序違反法(Crime and Disorder Act)により抜本的に改革され,その後も,1999年少年司法及び刑事証拠法(Youth Justice and Criminal Evidence Act),2000年刑事裁判所権限(宣告手続)法(Powers of Criminal Courts(Sentencing)Act),2000年刑事司法及び裁判所業務法(Criminal Justice and Court Services Act),2003年反社会行動法(Anti-socialBehaviour Act),2003年刑事司法法(Criminal Justice Act)等により,変革され続けている。

(2) 少年司法制度の概要

 1998年犯罪及び秩序違反法は,少年司法制度の最も重要な目的は少年による犯罪の防止でなければならないと定めている。他方,1933年児童少年法(Children and Young Persons Act)は,裁判所は取り扱う少年の福祉を考慮しなくてはならないと定めている。さらに,少年に対する処分の決定に際しては処分と犯罪の重大性との均衡も求められている。
 近年,非行の初期段階における対処が重要であるとして,様々な施策が導入されてきた。例えば,許容行動契約(acceptable behaviour contract),反社会行動命令(anti-social behaviour order),子供安全命令(child safety order)がある。許容行動契約は,今後反社会行動を行わないこと等を明記した書面による契約であり,反社会行動をした者が警察等との間で締結する。反社会行動命令は,治安判事裁判所が,警察等の申立てに基づき必要であると判断した場合に発する民事命令であり,更なる反社会行動を行うことを禁ずるものである。子供安全命令は,治安判事裁判所内の特別な裁判所である家事手続裁判所(family proceedings court)が,地方自治体の申立てに基づき,子供が刑罰法令に触れる行為又は反社会行動に相当する行為を行った場合等に発する民事命令であり,子供をソーシャルワーカー又は少年犯罪チーム(Youth Offending Team)の監督下に置くものである。
 警察は,検挙した少年がそれ以前に有罪認定を受けたことがなく,その犯罪の程度が比較的軽度の場合には,それ以前に譴責(reprimand)及び警告(warning)を受けたことがない少年に対しては譴責を与え,それ以前に譴責を受けたことがある少年等に対しては警告を与える。警告を受けた少年が警告後2年以内に犯罪を犯した場合には,必ず訴追される。
 警察が逮捕した者について,以前は,警察が訴追決定を行っていたが,2003年刑事司法法により,原則として検察官が訴追決定することとされた。訴追決定は,有罪を立証できる十分な証拠があるかどうか,また,訴追が公共の利益に適合するかどうかという二つの観点から判断される。
 訴追された少年の事件は,正式起訴犯罪の事件であっても,その多くは,治安判事裁判所内の特別な裁判所である少年裁判所(youth court)において審理される。少年裁判所においては,治安判事3人以下の合議体又は地方判事単独で審理される。少年裁判所における審理は,一般には公開されず,裁判関係者,報道機関の代表,その他少年裁判所が特に許可した者のみが出席できる。少年裁判所における手続等に関しては,原則として,その手続に関係するすべての少年(訴追された少年に限られない。)について人定が可能になる事項及び写真の報道が禁止されているが,例外的に裁判所がその禁止を解除することができる場合がある。
 訴追された事件が殺人その他重要犯罪(grave crime)である場合等には,刑事法院に事件が移送され得る。
 裁判所が有罪と認定した少年に対して宣告し得る処分としては,絶対的免除(absolute discharge),条件付免除(conditional discharge),罰金(fine),社会更生命令(community rehabilitation order),監督命令(supervision order),社会処罰命令(community punishment order),社会処罰及び更生命令(community punishment and rehabilitation order),出頭所出頭命令(attendance centreorder),外出禁止命令(curfew order),賠償命令(compensation order),修復命令(reparationorder),行動計画命令(action plan order),薬物治療及び検査命令(drug treatment and testingorder),委託命令(referral order),拘置及び訓練命令(detention and training order),謀殺等に対する不定期拘置(detention at Her Majesty’s pleasure),重要犯罪に対する拘置,危険な犯罪者(dangerous offender)に対する終身拘置(detention for life),公衆保護のための拘置(detention forpublic protection)及び延長刑(extended sentence)等がある。また,裁判所は,有罪認定した犯罪に対する処分とは別に,反社会行動を禁ずる命令を宣告できる場合がある。
 さらに,裁判所は,有罪認定した少年の親権者に対して,養育命令(parenting order)を宣告し,カウンセリング又は指導プログラムへの参加等を命ずることができる。
 裁判所が有罪認定時18歳以上21歳未満の者に対して宣告し得る特別な処分としては,謀殺等に対する終身拘禁(custody for life),青少年犯罪者施設への拘置(detention in a young offenderinstitution)がある。