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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/三 

三 死刑確定者の処遇

 死刑の判決が確定した者は,死刑の執行が行なわれるまで拘置監に拘禁され,特別の規定に基く処遇を除き,未決拘禁者に準じて処遇される。それは,死刑という極刑に直面する者に対する思いやりから,受刑者の場合よりもゆるやかな未決拘禁者の処遇規定を準用しているのである。しかし,死刑確定者は,もはや未決拘禁者ではなく,その拘禁の目標は,死刑の執行と,それに至るまで身柄を確保することにある。そして,そのためには,可能なかぎり死刑に直面する人間の苦悩と恐怖とをとり除き,本人がしよく罪の観念に徹し,安心立命の境地に立って,死刑の執行をうけ得るように,また,社会一般に対しては,その者の拘禁について,いささかの不安も与えることのないように,あらゆる努力を尽くすことが要請される。したがって,未決拘禁者ないし受刑者に比し,より以上に,その心情の微妙な動きを的確には握し,適正な処置をとること,また,死を迎えるための人生観の確立のための教育的措置を講ずることが必要とされるわけである。
 死刑確定者が,死刑の判決確定があってから執行をうけるまでの期間は,原則的には六か月以内とされている(第二編,第二章,三「1 死刑の執行」参照)が,これは,判決確定後,直ちに死刑を執行することによって,再審,非常上告または恩赦による救済の機会を封じてしまう危険を避けるとともに,長期間にわたって死刑確定者に苦悩に満ちた不安定な生活をさせておく弊を除こうとしたのである。しかし,実際には,上訴権の回復,再審の請求,非常上告または恩赦の出願や申し出がなされ,その手続が終了するまでの期間,および共同被告人であったものに対する判決が確定するまでの期間は,前記の六か月以内という期間には算入されないことになっていること,また,心神喪失の状態にあるときは,その状態が回復するまで,女子が懐胎しているときは出産の日まで死刑の執行が停止されるが,拘禁そのものは解除されないことなどの理由から,相当長い期間拘禁されているものがある。
 そこで,死刑確定者を収容している施設(III-28表)では,とくに専任の職員を配置し,個別処遇を行なっているほか,篤志面接委員制度,宗教教かい師制度の活用,あるいは,運動,文芸,美術などの余暇活動の善用を図っているが,既に冒頭でも触れたように,法律上,未決拘禁者の処遇規定を準用するという規定しかないために,なお,その処遇においては不十分な点が少なくない。たとえば,死刑確定者に対しては,異常な条件下におかれているかれらの情緒的な安定をはかるのに,もっとも有効であると思われる心理療法の導入などについては,まだ,ほとんど計画的な配慮がなされていない。また,特に,死刑に直面しているという理由で,未決拘禁者に準じて緩和されている処遇についても,一定の基準がなく,そのために実際の処遇について問題を生じた事例もまれではない。

III-27表 死刑確定者入出所および一日平均収容人員(昭和33〜37年)

III-28表 施設別死刑確定者新収容および執行人員(昭和37年)

 以上のような状況にかんがみ,死刑確定者の処遇については,その身柄の確保および社会不安の防止の見地から,その義務を明確化し,さらに拘禁中に,死刑確定者が罪を自覚し,安静な精神状態のもとに死刑の執行をうけるに必要な処遇の方法を具体的に規定する法の制定が望まれる。そして,そのような法の制定は,他方死刑確定者とその処遇についての科学的な研究を可能ならしめ,最近における死刑廃止をめぐる論争に対しての,また,強盗殺人等の凶悪犯人に対しての,貴重な資料を提出することとなるであろう。