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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/4 

4 未決拘禁者処遇上の問題点

 未決拘禁者は,すでに述べたように,受刑者と異なった処遇を受ける地位を与えられているため,その権利と義務の面で,施設側が強制する保安と規律との間に問題が残されているばかりでなく,未決とはいっても,裁判あるいは将来に対する不安,身柄を拘束されている現状にともなう不満,自己の犯罪またはその容疑についての感情の動揺などから,心身にいろいろの影響がもたらされる。
 その一つの現われに,懲罰をうけるような反則行為がある。III-25表は,昭和三七年中に,受刑者以外のもので,懲罰をうけたものの事犯別内訳および所内の行為によって起訴された事件の調査である。したがって,未決拘禁者のみの調査ではないが,「受刑者以外のもの」の約九六%は未決拘禁者であるから,この表に計上された懲罰事犯の,ほとんど全部が未決拘禁者によるものであるといってよいであろう。

III-25表 未決拘禁者等の懲罰事犯

 懲罰事犯のうち,「たばこ所持」(二八・五%)を除いて,多いのは「被収容者に対する殺傷,暴行」(一八・四%),「職員に対する殺傷,暴行,抗命」(一〇・七%),「器物の毀棄」(七・三%)など,人や物にあたりちらす暴力的行為であって,このような傾向は,のちにも述べるように,受刑者にも共通に見られるものである。
 次に,これらに対する処置は,III-25表(ロ)および(ハ)に示すように,起訴されるもの(五六人)もあるし,懲罰としては軽へい禁(一定の居室に収容して,必要のあるとき以外には居室から外に出ることを許さず,居室内では反省黙居を強制される罰,現在おこなわれている罰では,もっとも重いものである)が,最も多く,未決拘禁者としての特権である自弁衣類が具の着用や自弁食の停止をうけるものも少なくない。
 未決拘禁者には,自殺あるいは自傷を試みるものがある。昭和三七年の自殺者は一〇人(昭和三八年は五人),自傷で懲罰をうけたものは一一六人を数えている。また,昭和三七年中に自殺または自傷のため医師の診断治療を受けた人員は,受刑者などを含めた総数(二一二人)の約半数(一〇三人)は,未決拘禁者であった。
 また,拘禁の影響は,拘禁性精神病や拘禁性精神反応を誘発し,消化器系,循環器系などに医学的反応をもたらすことは,すでに知られているところで,III-26表のとおり未決拘禁者では受刑者よりも,それらのり病率が高い。

III-26表 被収容者主要傷病状況比較(昭和37年)

 医療衛生の面からは,前述したような,拘禁という急激な環境の変化にともなう心身の影響のみならず,外部から伝染病をもちこむ危険性も少なくないため,入所時の厳重な身体検査,自弁または差入れられる食糧,が具,衣類などの衛生的配慮,出廷,面会などの場合の衛生上の処置など,万全を期さなければならない。
 しかし,もっとも重要な問題は,拘禁が,たとえ刑罰ではないにしても,被拘禁者の心身に重大な影響を与えている事実を直視し,被拘禁者の当面する生活に対し,科学的に,適応性を与えるための配慮にもとづく,真に未決拘禁者にふさわしい処遇の体系化を図ることにあるといわなければならない。このような配慮が加えられることによって,懲罰事犯として,とりあげられているような問題行為の発現や拘禁性の心身の異常の発現を予防し,あるいは,発現しても,その発現のしかたをより軽度のものとすることができるからである。現在,当局によって企図されている監獄法の改正案には,このような方針が明示されるものと期待される。