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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第3章/第3節/2 

2 外国人犯罪者の変貌

(1) 来日外国人凶悪犯の動向

 来日外国人の数は近年増大の一途をたどっており,それに伴って来日外国人の凶悪犯罪の検挙人員も増加傾向にある。5―3―3―95―3―3―10図は,昭和55年以降の来日外国人の凶悪犯罪における検挙人員と構成比である。検挙人員で見ると,殺人,強盗とも昭和62年以降平成5年までは増加傾向にあったが,殺人はそれ以降横ばい傾向となり,強盗は横ばいとなった後の平成10年以降激増し,14年には9年の2.7倍となっている。検挙人員中に占める来日外国人の構成比で見ると,殺人・強盗とも昭和60年代から上昇傾向となり,平成4,5年ころから増減がありつつも横ばいとなっている。

5―3―3―9図 殺人・強盗における来日外国人検挙人員の推移

5―3―3―10図 殺人・強盗における来日外国人検挙人員比率の推移

 また,来日外国人の凶悪犯罪の被害者が同国籍・異国籍・日本人のいずれに属するかに関する変化の有無について見たのが,5―3―3―115―3―3―125―3―3―135―3―3―14図である。最近10年間を前半(平成5〜9年)と後半(平成10〜14年)とに分けて対比して見ると,殺人では同国籍人が被害者である場合が過半数を占め,全体の被害者数は減少気味であるものの,日本人の割合が増加傾向にあり,前半と後半とを比べると11.1ポイント上昇している。強盗では,日本人が7割以上を占め,全体の被害者数とともに日本人被害者数も増加している上,前半と後半とを対比すると割合で見ても7.4ポイント上昇しており,より日本人が強盗の被害に遭う可能性が高くなっている。

5―3―3―11図 来日外国人凶悪犯罪の被害者(殺人)

5―3―3―12図 来日外国人凶悪犯罪の被害者(強盗)

5―3―3―13図 来日外国人凶悪犯罪の被害者(殺人)構成比

5―3―3―14図 来日外国人凶悪犯罪の被害者(強盗)構成比

(2) 来日外国人強盗犯の国籍別・在留資格別動向

 近年,来日外国人による強盗が急増しているが,平成5年以降10年間の国籍別検挙人員の推移(10年間合計で上位8か国を表示した。)を見たものが,5―3―3―15図である。中国国籍を有する者とブラジル国籍を有する者の増加が顕著であり,11年以降は常に両国で全体の7割以上を占めるに至っている。
 来日外国人全体と,近年増加が著しい中国とブラジルの国籍を有する来日外国人による強盗について,平成8年以降の在留資格有無別検挙人員の推移を見たのが,5―3―3―165―3―3―175―3―3―18図である。全体を見ると,在留資格のある正規滞在者が急増しており,不法入国者は増加後減少,不法残留者はほぼ横ばいである。中国国籍者を見ると正規滞在者や不法残留者が増加傾向で,不法入国者は大量検挙の有無に左右されるという事情もあって,急増後減少しているものの,相当な割合を占めていることが分かる。これに対して,ブラジル国籍者の場合には,ほとんどが正規滞在者であって,不法残留者や不法入国者はほとんどいないという特徴がある。同じ来日外国人強盗犯といっても,そのよって立つ生活基盤や社会的背景には相当な違いがあることがうかがわれるところである。

5―3―3―15図 国籍別来日外国人検挙人員(強盗)

5―3―3―16図 来日外国人資格別強盗検挙人員

5―3―3―17図 来日中国人資格別強盗検挙人員

5―3―3―18図 来日ブラジル人資格別強盗検挙人員

(3) 東京における来日外国人強盗犯の実態

 強盗は,大都市圏に集中して発生する傾向があり,特に東京には,最近5年間の平均で見ると,全国の認知件数の17.4%,検挙件数の16.8%,検挙人員の16.3%が集中している。来日外国人による強盗に焦点を当てると,その傾向は更に際立ち,全国の検挙件数の31.2%,検挙人員の29.2%が東京に集中している状況にある(警察庁刑事局の資料による。)。従って,東京の来日外国人強盗犯の特徴を探ることにより,来日外国人強盗犯の特徴の一端を明らかにすることができるものと思われる。そこで,今回,平成10〜14年の5年間に,東京地裁で有罪判決を受けた来日外国人が関与した強盗事犯231件を対象として(以下,「対象事件」という。),その実態を調査したところ以下のような結果が得られた。
[1] 対象事件においては,被害者が死亡,又は負傷している事件の比率は5年間の平均で45.7%であるのに対し,強盗全事件の死亡・負傷者(重傷と軽傷)の平均比率は50%程度であり大きな差はない。
[2] 共犯率は,対象事件では,5年間の平均が85.6%と高く,5年間の推移を見ると,5―3―3―19図のとおり,年々集団化が進行しており,特に4人以上の共犯率は平成14年には76.6%の高率となっている。強盗全般の共犯率が最近5年間を見ると,成人で20.9〜25.6%,少年で66.5〜75.1%,4人以上の共犯率が成人で4.2〜6.9%,少年でも23.1〜30.5%であるのと比べると,共犯率,多数共犯率とも著しく高い。
[3] 対象事件を,外国人単独犯,外国人のみの共犯,日本人と来日外国人の共犯の別に分類してその比率を見ると,順に,16.9%,67.2%,15.9%となっており,外国人のみの共犯事件が最も多いものの,日本人との共犯事件が外国人単独事件と拮抗するほどの数になっていることが注目される。
[4] 対象事件の被害者数と共犯者数の関係を見たのが5―3―3―20図である。被害者が1人の事件を3人以上の共犯で行った犯行が62.5%,被害者2人の事件において4人以上の共犯で行った犯行が63.0%と高率を示し,多数の共犯によって少数の被害者を襲う事例が認められる一方で,4人以上の共犯による被害者が4人以上の,集団による集団に対する強盗事件も相当数に上ることがうかがわれる。
[5] 犯行時間帯について見たのが,5―3―3―21図である。夜間時間帯(午後6時から午前6時まで)が62.6%と多いものの,昼間時間帯も37.4%を占めており,強盗全事件の昼間時間帯が最近5年間の平均が3割程度であるのと比較するとやや昼間時間帯が多い。
[6] 犯行場所は,5―3―3―22図のとおり,9割近くが屋内であり,強盗全体の犯行場所は屋内が4割弱程度にとどまるのに比べると,対象事件は屋内への集中ぶりが際立っている。また,最近5年間の推移を見ると,同じ屋内でも居宅が65.6%から31.4%へと低下し,その一方で店舗・事務所が18.8%から58.8%へと上昇し,犯行のターゲットとして居宅ばかりでなく店舗・事務所も狙われ,それが拡大していることが分かる。
[7] 現金被害額を,外国人単独,外国人のみの共犯,日本人と外国人の共犯のグループに分けて,その平均値を見たところ,5―3―3―23表のとおり,共犯事件でより多くの現金強取に成功している。
[8] 計画性の有無について見てみると,5年間の平均では,90%以上が計画性のある犯行であった。
[9] 被告人ごとに何件の強盗を行ったかを集計(ただし共犯事件は重複集計を避けるため主犯格のみについて集計)したところ,5―3―3―24表のとおり,1件が多いものの,2件以上が134人中38人,5件以上も6人存在し,連続強盗を行う者も少なくないことが判明した。
 以上のような調査結果から,調査対象となった東京地裁で有罪判決を受けた来日外国人強盗犯関与事件は,比較的多数の共犯者から構成されていること,居宅ばかりでなく店舗・事務所にも狙いを定めて敢行され,被害者が多い事件も少なくないこと,計画的であることなどの特徴が見られることが分かった。さらに,外国人と日本人とが連携した犯行や連続強盗も少なくない。また,年を追って,店舗・事務所を犯行場所とする事件の割合が多くなっていく傾向がある。共犯者の多いこのような来日外国人の関与する事件が増加することにより,被害者数,被害額とも増加していく危険性がうかがわれるところである。

5―3―3―19図 東京地裁係属来日外国人強盗犯関与事件の共犯別構成比

5―3―3―20図 東京地裁係属来日外国人強盗犯関与事件の被害者数と共犯者数の関係

5―3―3―21図 東京地裁係属来日外国人強盗犯関与事件の犯行時間帯別構成比

5―3―3―22図 東京地裁係属来日外国人強盗犯関与事件犯行場所別構成比

5―3―3―23表 東京地裁係属来日外国人強盗犯関与事件の現金被害と犯行形態

5―3―3―24表 東京地裁係属来日外国人強盗犯一人当たりの関与事件数

(4) 来日外国人による強盗犯罪増加の背景

 5―3―3―25図は,正規の手続を経て入国した来日外国人と外国人登録者数の推移を見たものであるが,そのほかに正規な手続によらず不法入国する者が多数おり,入管法違反として検挙された人員も5―3―3―26図のとおり相当多数にのぼる。そのほかに暗数となっている不法入国者も多数存在するものと思われる。こうした新規入国者の増加とともに,検挙人員中に占める不法残留者等の増加(退去強制の手続を執った不法残留者等の7割以上が不法就労目的と認定されている。法務省入国管理局の資料による。)が来日外国人強盗犯罪者増加の背景事情の一つとなっている。不況による就業困難化による経済的困窮も少なからぬ影響を及ぼしているものと思われる。
 東京で検挙された来日外国人強盗犯の調査で明らかになったが,来日外国人と日本人との共謀による強盗事件が相当な割合になる事態が生じている。これは,来日外国人が増加し日本人との交際や生活をともにする機会が増加したことのみによるものではなく,来日外国人の強・窃盗団と暴力団の連携による組織的連続強盗犯が発生していることにも一因があるものと思われる。このような来日外国人と暴力団との連携による強盗は,犯罪集団組織同士の国際的な結合というこれまで見られなかった新たな危険な傾向を示唆するものであって,今後警戒を要するところである(詳しくは第5章参照)。

5―3―3―25図 外国人新規入国者数及び外国人登録者数の推移

5―3―3―26図 来日外国人入管法違反態様別検挙人員の推移