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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第3章/第3節/1 

第3節 暴力団と外国人犯罪者の変貌

1 暴力団犯罪者の変貌

(1) 凶悪犯罪における暴力団関係者の動向

 5―3―3―15―3―3―2図は,凶悪犯罪における暴力団関係者の検挙人員及び罪名別総検挙人員に占めるその比率の推移を見たものである。昭和48年から61年までは殺人・強盗とも増減はあったもののほぼ横ばい状態で,常に殺人が強盗を上回りつつ推移してきたが,殺人は急激に減少した後の平成3年からは横ばい,9年からはやや増加傾向となっている。強盗は,平成元年まで減少した後反転して増加傾向を示し,2年に殺人の検挙人員を超えてからは増加が著しく,14年には2年の1.8倍となり,14年で比較すると,殺人の2.2倍に達している。また,暴力団関係者の比率で見ると,殺人では,昭和48年から61年までやや上昇傾向で,その後低下傾向となり,平成8年からは横ばいないしわずかに上昇傾向にある。強盗は,昭和48年から30年間,若干の上下の動きはあるが,ほぼ横ばいである。

5―3―3―1図 暴力団構成員等の殺人・強盗検挙人員の推移

5―3―3―2図 殺人・強盗検挙人員に占める暴力団構成員等の比率の推移

 ちなみに,暴力団関係者の恐喝・窃盗・詐欺検挙人員及び罪名別総検挙人員に占めるその比率を見ると,5―3―3―35―3―3―4図のとおりである。これによると,検挙人員では,恐喝は,昭和48年から63年までは増減を繰り返していたが,その後減少傾向となり,平成14年には,昭和48年の38.1%減となった。詐欺は,ほぼ横ばいないし緩やかな増加傾向にある。窃盗は,昭和61年まで増加した後減少傾向にあったものの,平成6年以降は漸増して14年には6年の37.7%増になっている。他方,比率では,恐喝は,昭和53年をピークとしてその後低下傾向になり,平成14年にはピーク時の17.4ポイント減となっているのに対して,詐欺は上昇を続けて14年には昭和48年の10.2ポイント増に,窃盗は平成14年には昭和48年の0.7ポイント増となっている。
 従来,暴力団関係者の犯す典型的刑法犯としては暴力団の組織力や威力を背景にした殺人・恐喝等が挙げられていたが,検挙人員では殺人・恐喝が大幅に減少して,その代わりに強盗・詐欺・窃盗が増加しており,比率では殺人・恐喝が大幅に低下し,強盗が横ばい,窃盗・詐欺が上昇しており,暴力団関係者の行う犯罪の傾向に微妙な変容が生じていることがうかがわれる。なお,この点につき付言すると,暴力団対策法による金品等要求行為の中止命令が活用されるのに伴い,これまで市民に対して不安と困惑を与えてきた金品等要求行為とその延長線上にある恐喝が影響を受けて減少してきた可能性も考えられるところである。
 前記のとおり,恐喝は減少しているものの,その一方では,不況下において,暴力団関係者が利益につながる金融や不動産に関連する犯罪を始めとする様々な犯罪に手を広げつつあるという事情もあり,財産犯に限って見ると,従来型の暴力団の威力を背景とする狡猾な恐喝から,より安直ないし暴力的な強盗・窃盗等奪取犯へ,また,その一方で,逆に,更に高度な知能犯へとシフトする兆しが出てきているのではないかと思われる。

5―3―3―3図 暴力団構成員等の恐喝・窃盗・詐欺検挙人員の推移

5―3―3―4図 恐喝・窃盗・詐欺検挙人員に占める暴力団構成員等の比率の推移

(2) 凶悪犯罪に関与する暴力団関係者の質的変化

 5―3―3―55―3―3―6図は,凶悪犯罪における暴力団関係者の地位別検挙人員の推移を見たものである。殺人について見ると,組員と幹部は,昭和48年から増減を繰り返し,60年代からは急激に減少し,これに代わって準構成員は増加を続けて平成4年には,組員と幹部を超え,その後も増加傾向を続けている。強盗では平成2年に準構成員が組員を超えてその後も急激な増加を続けている。地位別に見るといずれも準構成員が凶悪犯罪の担い手の大きな部分を占めるに至っており,特に強盗の増加に関しては,大半が準構成員による犯行の増加によるものであることが分かる。このように,暴力団関係者,特に準構成員による殺人や強盗が増加傾向にある背景には,第1編第2章第1節で明らかにした,暴力団対策法施行下において,暴力団が構成員を減らす一方で準構成員を増やし,いわば社会の中に潜在化する傾向が出ているという事情がその一つとして挙げられよう。

5―3―3―5図 暴力団構成員等の地位別殺人検挙人員の推移

5―3―3―6図 暴力団構成員等の地位別強盗検挙人員の推移

 5―3―3―75―3―3―8図は,青少年(14〜29歳)暴力団関係者の平成元年以降の凶悪犯罪の検挙人員の推移を見たものである。殺人は,未成年者はごくわずかで,20歳代の青年層は,数は少なくないもののほぼ横ばいである。強盗は,未成年者も青年層もともに増加傾向であり,平成元年と比べると,14年では未成年者で1.6倍,青年層で2.8倍となっており,暴力団関係者の中でも若年者による強盗への関与が強まっていることが認められる。

5―3―3―7図 暴力団構成員等(青少年)の殺人検挙人員の推移

5―3―3―8図 暴力団構成員等(青少年)の強盗検挙人員の推移