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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第5章/第5節/4 

4 保護観察の実施状況

(1) 保護観察開始時の状況

 保護観察開始時には,遵守事項を誓約させるが(第2編第5章第3節参照),その誓約書の使用言語を見たものが,IV-53表である。約30%が日本語以外の言語で誓約している。

IV-53表 「誓約書」の使用言語

 分類処遇制度に基づくA分類率(第2編第5章第3節参照)について,平成11年に受理した一般群と比較すると,保護観察処分少年7.5%(一般群6.7%),少年院仮退院者25.7%(同28.4%),仮出獄者11.7%(同22.7%),保護観察付き執行猶予者25.4%(同11.3%)となっており,保護観察付き執行猶予者では調査対象者の方がA分類率が高く,仮出獄者では低くなっている(法務省保護局の資料による。)。

(2) 家庭状況

 IV-54表は,引受人の状況を見たものである。親が引受人である場合が最も多く,引受人と同居している者は80%を超えている。また,国籍が「本人と同国」又は「その他の国」の者について日本語能力を見ると,日常会話及び読み書き双方が「日常生活上支障なし」と評価された者は約18%にとどまり,日常会話又は読み書きのいずれかが「できない」と評価された者は約30%となっている。

IV-54表 引受人の状況

 居住状況について,同居者がいない単身者の割合は3.7%(一般群4.5%)と低く,また配偶者がいる者の割合は23.3%で,その国籍は「本人と同国」(58.3%)が過半数を占めている。

(3) 交友関係

 保護観察開始時の友人の有無について,日本人の友人がいる者の割合は45.7%,同国人の友人がいる者は51.0%であったが,「不明」の割合も30%前後見られ,交友関係の把握が困難であることがうかがえる。交友関係は,IV-50表で見たように不良交友の場合も考えられるが,日常生活上の交流も,ある程度は存在することが分かる。

(4) 日本語能力及び意思疎通方法

 外国人が我が国で生活していく上で,日本語能力に支障があると,日常生活上種々の面で制約を受ける可能性が高い。まして保護観察対象者の場合,我が国の保護観察制度を理解し,保護観察官及び保護司と意思疎通を図る上で,日本語の日常会話,読み書きの双方の能力が要求される場面が予想される。
 保護観察開始時の日本語能力について,日常会話及び読み書き双方が「日常生活上支障なし」と評価された者は約40%いるが,日常会話又は読み書きのいずれかが「できない」と評価された者も約26%に上っている。この「できない」と評価された者のうち,保護観察終了時において向上が認められた者は,日常会話で約29%,読み書きで約11%であった。
 日本語能力に支障がある対象者を処遇するに当たっては,裁判所やその他関係機関から通訳人を紹介してもらったり,日本語のできる親族・知人等を活用している例が多く見られた。

(5) 就労状況

 IV-55表は,職業について,保護観察開始時と終了時とを比較したものである。職種では,保護観察開始時・終了時ともに「技能工,採掘・製造・建設作業者及び労務作業者」が最も多い。「無職者」に注目すると,保護観察開始時にはほぼ半数の者が無職であったが,終了時には半減しており,多くの者が保護観察期間中に就労したことが分かる。これを一般群と比較すると,保護観察開始時(一般群58.7%),保護観察終了時(同27.6%)ともに,調査対象者の方がその割合はやや低くなっている。

IV-55表 職業の変遷

(6) 保護観察処遇上の問題点

 IV-76図は,保護観察処遇上の問題点を分野別に見たものである。発生した割合が高い問題点は,言葉に関わる問題,就労・収入が不安定であること,生活実態の把握が困難であること,交友関係・不良集団に係る問題があること,毎月定期的に処遇者と接触をするという約束を遵守しないなどの問題であった。

IV-76図 保護観察処遇上の問題点

 これらのうち,外国人保護観察対象者特有の問題点として認識されたものは,多い順に「言葉の問題」,「就労・収入上の問題」,「海外旅行・帰国の問題」,「生活実態の把握の問題」,「司法制度,文化・価値観,生活習慣等の違いに基づく問題」等となっている。これらの問題点に対して工夫した内容としては,「外国語のできる保護司を指名した」,「保護観察官の直接担当とした」,「本人と同国の者が多くいる職場を活用した」,「難民相談員に協力を求めた」,「BBS会のともだち活動を実施した」,「日本語や日本の生活習慣を教えた」等が見られる。