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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第一章/三/2 

2 麻薬中毒者の特性

 昭和三七年に警察によって,その所在が確認されている六,四二八人について,まず,その地域別の分布状況をみると,IV-4表に示すように,近畿地方と関東地方が他を引き離して多くなっており,九州がこれに次いでいる。これは,これらの地方が神戸,大阪,横浜,東京,福岡などのいわゆる「麻薬主要府県」を含んでいることによるものであって,この五府県がけでも全国の中毒者の六七%強が居住していることとなっている。

IV-4表 確認麻薬中毒者地域別分布(昭和37年)

 中毒者の国籍は,日本が八八・〇%で最も多いことは当然であるが,朝鮮八・五%,中国本土二・三%,台湾一・一%などがみられることも注意されなければならない。これら外国人の中毒者は前記の五府県に多くみられる。
 次に年齢は,三〇才代が最も多く,二〇才代がこれに次いでいる。IV-5表によってみると,二〇才代の中でも,二五-二九才の層に片寄っていることが特色であり,さらに二〇才末満の少年が,少数ではあるがみられていることは注意すベきであろう。

IV-5表 年齢別・地域別麻薬中毒者数(昭和37年)

 これを「麻薬主要府県」と「その他の府県」に分けて考察すると,「麻薬主要府県」では二〇―四〇才が八三・六%であるのに対して,「その他の府県」は三〇才以上が八七・一%となっており,「麻薬主要府県」の働き盛りの青壮年が多く中毒者になっていることを示している。
 男女の比率は,男七四対女二六であって,これを地域的にみると麻薬主要府県以外において女子の割合がやや高くなっていることが特徴である。ここで注意すべき事柄は,女子中毒者の特性であり,とくに全国刑務所の麻薬使用受刑者中に占める女子の構成比率は二六%であって,他の犯罪を含めた全受刑者中の女子受刑者の構成比率二・六%をはるかに上まわっている。このことは,女子は一般に犯罪者となる割合が低いにもかかわらず,麻薬事犯とくに麻薬使用事犯では大幅に犯罪者化しているという事情を物語っている。
 女子受刑者に対する調査結果では,女子は使用開始の動機も,男子に比して病気治療のためという理由が多く,職業も出売春または類似の職種が三分の一以上で,家出中または単身生活者が多く,麻薬の使用方法も自宅でひじなどの目だたない部位にひそかに注射し,注射器もよく消毒して化のうを防いでいるが,一般に禁断症状に苦しむ傾向がつよく,その期間もかなり長い傾向がみられている。このことは,女子が一般に男子に比して少量でも中毒化するのか,または禁断症状に対する耐性に乏しいことを意味するのか明瞭ではないが,いずれにせよ,女子中毒者の持つ諸特性は,男子の場合と,かなり異質的なものがうかがわれ,いつそう進んだ検討が必要であると考えられる。
 次に中毒者の職業についてみると,厚生省薬務局の調査によれば,IV-6表に示すように,昭和三七年にあらたに発見された中毒者の職業は,無職がもっとも多く四七・四%であり,職業のある者の中では,接客婦,労務者などが多く,俸給生活者,運転手などという者もかなりみられている。とくに医療関係者の中毒者が五七人みられることは注意すべきである。最近四年間の推移をみると,構成比率の上では無職者が減少して,なんらかの職業を持っている中毒者が漸増している。とくに接客婦および運転手が数の上でも構成比率の上でも,逐年増加してきていることは注目される。

IV-6表 中毒者の職業別人員(昭和34〜37年)

 次にIV-7表によって無職者の生活方法むみると,昭和三七年の新発見者では家族の補助がもっとも多く三一・五%であるが,密売を生活手段とする者がこれに次いで二〇・〇%を占めていることは寒心に耐えない。とくに,最近四年間の傾向では,これら密売を生活手段とする者が三五年以降増加の一途をたどっており,恐かつ,窃盗,詐欺などの犯罪によって生活資金を得る者も漸増の傾向がみられることは,麻薬中毒者が犯罪者に転落する過程を示唆するものとして,注目に値する現象である。

IV-7表 無職中毒者の生計手段(昭和34〜37年)