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 平成 8年版 犯罪白書 第1編/第4章/第3節/1 

1 宗教法人解散命令

 宗教法人法(昭和26年法律第126号)は,宗教団体が,礼拝の施設その他の財産を所有し,これを維持運用し,その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため,宗教団体に法律上の能力を与えることを目的(1条)として昭和26年に制定された。その特色としては,宗教法人制度が信教の自由と政教分離の原則に密接にかかわるものであり,国による関与が最小限にとどめられるべきとの考えから,所轄庁の権限が民法の法人の主務官庁に比べて限られていることが挙げられる。宗教法人に対しては,法人税,地方税などでの優遇措置がある。前述したように,教団は,平成元年8月,所轄庁,(東京都知事)の規則の認証を受け,法人登記をした宗教法人であった。
 検察官(東京地方検察庁検事正)及び東京都知事は,平成7年6月30日,それぞれ東京地方裁判所に対し,教団に対する宗教法人の解散命令を申し立てた。申立の理由は,教団によるサリンの生成企図という殺人予備行為が,同法81条1項1号(法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと)及び2号前段(同法2条に規定する宗教団体の,目的を著しく逸脱した行為をしたこと)所定の解散命令事由に該当するとするものである。
 東京地方裁判所は,平成7年10月30日,申立人両名の申立を理由があるものと認め,教団を解散する旨の決定を下した。これに対する教団の東京高等裁判所への抗告が棄却された(7年12月19日)ことにより,同決定は確定し,続く最高裁判所への特別抗告も棄却された(8年1月30日)。これまで,休眠状態の宗教法人に対して,同法81条1項2号後段及び4号を理由として解散を命じた事例はあるが,法令違反・目的逸脱行為を理由に解散を命じたのは,本決定が初めてである。解散命令により,清算人が裁判所によって選任され,教団は清算手続に入った。
 なお,教団によるとされる犯罪を契機として,宗赦法人法改正の論議が高まる中,文部大臣の諮問機関である宗教法人審議会が調査審議を重ねた結果が文部大臣に報告された。政府は,この報告を尊重して作成した法律案を国会に提出し,「宗教法人法の一部を改正する法律」(平成7年法律第134号)は平成7年12月15日に公布された。
 改正の主な点は,2以上の都道府県で宗教活動を行う宗教法人(他の都道府県内に境内建物を備える宗教法人)の所轄庁を文部大臣としたこと(5条2項),信者その他の利害関係人は正当な利益があり,かつ,不当な目的がない場合,宗教法人の備え付け書類,帳簿について閲覧を求めることができるとしたこと(25条3項),宗教法人は収支計算書等作成,備え付け義務のある書類のうち一定のものを定期的に所轄庁に提出しなければならないとしたこと(同条4項),収益事業の停止命令,認証の取消し,解散命令の請求のために所轄庁に報告を求め質問をする権限を付与したこと(78条の2)などである。