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 平成 6年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/1 

第3節 更生保護

1 仮釈放

 (1)仮釈放の種類
 仮釈放とは,矯正施設に収容されている者を,収容期間の満了前に一定の条件の下に釈放して,更生の機会を与え,円滑な社会復帰を図ろうとするものである。仮釈放の種類には,次の四つがある。
 [1] 懲役又は禁銅の受刑者に対する仮出獄
 [2] 拘留の受刑者又は労役場に留置中の者に対する仮出場
 [3] 少年院の在院者に対する仮退院
 [4] 婦人補導院の在院者に対する仮退院
 (2)仮釈放の審理
 仮釈放の許否を決定する権限は,地方更生保護委員会(全国に8庁)にある。各委員会は,通常,矯正施設の長からの申請に基づいて,仮釈放の許否を決定するが,この決定は,3人の委員で構成された合議体で行われる。
 合議体においては,[1]仮釈放の適否,[2]仮釈放の時期,[3]特別遵守事項等について検討することとなっているが,これに先立って,指名を受けた委員(主査委員)が原則として本人と面接している。
 なお,特別遵守事項は,本人の生活歴,心身の状況,犯罪又は非行の原因等から見て適切であり,かつ,本人の自由を不当に制限しないものでなければならないとされている。
 (3)仮釈放準備調査制度
 地方更生保護委員会においては,矯正施設の長から仮釈放申請を受理すると,原則として,保護観察官が,主査委員の面接に先立って本人と面接し,必要な調査を行っているが,このほか,仮釈放申請を受理する前であっても,保護観察官が矯正施設に出向いて面接調査を行っており,これが,いわゆる仮釈放準備調査と呼ばれるものである。
 仮釈放準備調査の内容
 [1] 本人の更生に必要な措置に関して矯正施設職員と協議
 [2] 本人との面接によって,本人の資質,釈放後の生活計画,帰住予定地の環境及び適切な仮釈放の実施に関する情報の収集並びに本人の円滑な社会復帰に関する相談・助言
 [3] 上記[1],[2]の結果に関して主査委員や保護観察所への連絡
 仮釈放準備調査制度は,昭和41年10月から実施され,以来,その実施対象施設が徐々に拡充され,少年院については60年4月から,刑務所については平成2年4月から,それぞれ全国の施設すべてにおいて実施されている。5年に同調査を実施した人員は,受刑者(2万3,723人)と少年院在院者(6,806人)を合わせると3万529人であり,これを前年と比べると7.2%増加し,また,昭和59年以降の最近10年間で見ると3.0倍に増加している。
 (4)施設駐在官制度
 仮釈放準備調査を一層効果的に行うため,昭和56年10月から,規模の比較的大きな矯正施設に,地方更生保護委員会の保護観察官が常駐することとなった。その実施対象施設は,府中,横浜,大阪,京都,神戸,名古屋,広島,福岡,宮城及び札幌の計10庁の刑務所である。これらの矯正施設に駐在する保護観察官を,通常,施設駐在官と称している。
 施設駐在官は,仮釈放準備調査に当たるほか,矯正施設が実施する受刑者の新入時や釈放時における教育への協力,矯正施設内の処遇に関する会議への参列,受刑者の環境調整のために行う家族やその他関係者との面接等にも従事しており,平成5年に施設駐在官が面接した受刑者の延べ人員は3,401人であった。
 (5)仮釈放申請受理人員
 II-41図は,昭和49年以降における仮釈放申請受理人員を仮釈放の種類別に見たものである(巻末資料II-14表参照)。仮釈放申請受理人員は,60年以降,平成4年における少年院仮退院者の場合を除いて,全体的に減少傾向にあったが,5年は,仮出獄者の場合,こうした傾向とは異なって,前年と比べ205人増加し,1万3,454人となっている。
 なお,拘留受刑者又は労役場留置者に対する仮出場及び婦人補導院在院者に対する仮退院については,従前から該当者が少なく,平成5年はそれぞれ皆無であった。

II-41図 仮釈放申請受理人員の推移

 (6)仮出獄の運用
 ア 仮出獄の条件
 仮出獄は,少なくとも次のような法定期間が経過した後,許可される。
[1] 有期刑については刑期の3分の1
[2] 無期刑については10年
[3] 少年のとき懲役又は禁錮の言渡しを受けた者のうち,無期刑について
 は7年,10年以上15年以下の有期刑については3年,不定期刑についてはその刑の短期の3分の1
このほか,次のような許可基準があり,上記のような法定期間を経過した後において,これら四つの基準を総合的に判断し,保護観察に付することか本人の改善更生のために相当であると認められたとき,釈放の日,帰住予定地等を指定して,仮出獄が許可される。
[1] 悔悟の情が認められること。
[2] 更生意欲が認められること。
[3] 再犯のおそれがないと認められること。
[4] 社会感情が仮出獄を是認すると認められること。
 イ 仮出獄人員と仮出獄率
 II-42図は,昭和49年以降における仮出獄人員と仮出獄率を示したものである。仮出獄人員は,62年以降,6年間にわたって減少していたが,平成5年では前年に比べ115人増加して1万2,532人となり,また,仮出獄率は,昭和59年以降,55%台ないし57%台で推移するとともに,平成元年,2年,3年と続けて3年間,上昇していたが,4年ではいったん低下し,5年に至って再び上昇して56.9%となっている。

II-42図 仮出獄人員及び仮出獄率の推移

 ウ 仮出獄申請の棄却率
 最近3年間における仮出獄申請の棄却率を,刑の種類別,刑期別,入所度数別に示したのが,II-28表である。棄却率は,無期刑の者の30%台を除けば,極めて低く,総数では,平成3年が2.7%,4年が3.1%,5年が2.2%と続き,4年はいったん上昇したものの,5年は若干低下している。最近3年間を通じた傾向として,[1]刑の種類別では,無期刑の者が有期刑の者に比べ,[2]刑期別では,刑期の長い者が短い者に比べ,[3]入所度数別では,入所度数の多い者が少ない者に比べ,それぞれ棄却率が高いことが見受けられる。

II-28表 刑の種類・刑期・入所度数別仮出獄許否状況

 エ 仮出獄者に対する刑の執行率
 II-43図は,平成5年に仮出獄を許可された受刑者(不定期刑受刑者及び無期刑受刑者を除く。)について,刑の執行率(執行すべき刑期のうち,仮出獄する日までに執行された刑期の比率)を累犯・非累犯者別及び刑期別に示したものである。累犯・非累犯者別に見ると,非累犯者は累犯者に比べ刑の執行率が低く,また,刑期別に見ると,例えば刑の執行率が90%以上の者の占める割合は,刑期の長い者が刑期の短い者に比べて高い傾向にある。

II-43図 仮出獄者の累犯・非累犯者,刑期別に見た刑の執行率

 オ 長期刑受刑者の仮出獄
 矯正施設に長期にわたって収容される者は,一般的に,凶悪・重大な犯罪を犯しているため厳しい社会的批判を受けており,また,性格特性や環境条件等の面で問題のある者が少なくない。このため,地方更生保護委員会では,長期刑受刑者の仮釈放審理に当たっては,本人の心身の状況,被害者の感情をはじめ,関係事項について特に周到な調査と審理を尽くすとともに,本人に対する指導・助言,帰住予定地の環境調整等に格別の配慮をしている。
 特に,昭和54年4月からは,長期刑受刑者に対する新たな施策が実施され,無期刑受刑者及び執行すべき刑期が8年以上の長期刑受刑者の仮出獄審理においては,保護観察官の準備調査をできるだけ早期に開始し,かつ,これを定期的に継続するとともに,主査委員による複数回の面接や複数委員による面接を行うなどして,慎重を期している。さらに,こうして仮出獄を許可された者のうち,地方更生保護委員会が相当と認め,かつ,本人から同意が得られた場合,施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行を目的として,仮出獄当初の一定期間(1か月間)を更生保護会に居住させるいわゆる中間処遇を計画的・集中的に行っている。
 この中間処遇の実施対象者は,本制度が一部改正された昭和61年6月1日から平成5年12月31日までの7年余の間に,870人に達している。
 II-29表は,最近3年間において仮出獄を許可された無期刑受刑者について,刑務所における在所期間別人員を見たものである。平成5年では,在所期間が14年を超え20年以内の者が81.3%となっている。

II-29表 無期刑仮出獄者の刑務所在所期間別人員

 (7)帰住予定地の環境調整
 保護観察所においては,矯正施設に収容されている者の社会復帰を円滑にするため,本人が矯正施設に収容されている間に,家族その他の引受人と協議等を行って,引受人の家庭,近隣,交友関係,被害弁償,釈放後の生計の見込み等を調査するとともに,問題点の調整を図っている。これを帰住予定地の環境調整といっている。
 環境調整は,本人が矯正施設に収容された後,速やかに開始され,釈放時まで通して行われるが,環境調整の経過や結果を記載した報告書は,定期的に,地方更生保護委員会及び本人を収容する矯正施設に送付され,仮釈放審理や矯正処遇の資料となっている。平成5年において,保護観察所は,受刑者(2万6,226人)と少年院在院者(4,724人)を合わせた3万950人について環境調整を新規に実施し,同年12月31日現在,3万6,983人について環境調整を実施中である。