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 平成 5年版 犯罪白書 第1編/第1章/第4節 

第4節 諸外国の犯罪動向との対比

 本節においては,我が国の犯罪動向の特徴を見るために,入手し得た公的資料の範囲内で,諸外国の犯罪の動向について概観する。
 今回,比較対象国として選定したのは,アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。),連合王国(ただし,イングランド及びウェールズに限る。以下「イギリス」という。),ドイツ連邦共和国(1990年10月3日にドイツ民主共和国を編入したが,犯罪統計では,1991年から,ドイツ民主共和国に相当する地域で生じた犯罪を含めるようになった。以下「ドイツ」という。),フランス共和国(以下「フランス」という。)及び香港の4か国と1地域(以下,便宜上,これらをまとめて「5か国」という。)である。
 我が国とこれら5か国それぞれにおける,主要な犯罪の認知件数の合計,人口10万人当たりの主要な犯罪の認知件数の比率(発生率)及び認知件数に占める検挙件数の比率(検挙率)を対比してみることとする。
 言うまでもなく,犯罪の発生率及び検挙率のみによって犯罪動向を即断することは相当でないほか,我が国とこれら各国(地域)においては,それぞれ犯罪とされるものの範囲や犯罪構成要件を異にし,また,統計の取り方も同一ではないため,正確な比較は困難であるが,我が国の犯罪動向の一応の位置付けをするために,各国の犯罪動向を概括的に把握するとともに,我が国と各国の統計数値を比較することは,なお有益であると考える。
 I-28図は,1982年から1991年までの10年間について,各国の公的資料に掲載された主要な犯罪の認知件数の合計数の推移を見たものである。
 1982年の認知件数を100とする指数で1991年の認知件数を見ると,イギリスが164,ドイツが124,アメリカが115,我が国が112,フランスが110,香港が105となっている。なお,ドイツについては,旧ドイツ民主共和国の編入に伴い,1991年から同地域における犯罪の認知件数を統計に加えるようになったので,この指数によって他の国と比較することは困難である。

I-28図 主要な犯罪の認知件数の推移 (1982年〜1991年)

 I-29図は,1990年と1991年の各国の主要な犯罪の発生率及び検挙率を見たものである。これらの統計数値によれば,我が国の発生率は,5か国の中では最も低く,我が国の検挙率は,1991年においては,アメリカ,イギリス及びフランスよりは高い水準にあるが,香港及びドイツよりもやや低くなっている。

I-29図 主要な犯罪の発生率及び検挙率 (1990年,1991年)

 I-3表は,1989年から1991年までの3年間における各国の殺人罪の認知件数,発生率及び検挙率を見たものである。各国によって殺人罪の構成要件に多少の差異があるが,この罪名を前提として統計数値を見る限り,我が国は,その発生率において,他の5か国より低い。検挙率は,我が国は96%前後の高い水準で推移しており,他の5か国より高い。ドイツ,イギリスも高い水準にある。

I-3表 殺人事犯の認知件数・発生率及び検挙率(1989年〜1991年)

 I-4表は,1989年から1991年までの3年間における各国の窃盗罪の認知件数,発生率及び検挙率を見たものである。窃盗罪については暗数が少なくないものの,これらの数値を単純に比較する限りにおいては,我が国は,その発生率において,アメリカ,イギリス,ドイツ及びフランスよりかなり低く,香港よりは高い。1991年の検挙率は,我が国が32.8%と最も高く,ドイツ,香港,イギリスがこれに次いでいる。

I-4表 窃盗事犯の認知件数・発生率及び検挙率(1989年〜1991年)