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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第3章/第3節/1 

1 一般非行少年と少年鑑別所収容少年との比較

(1) 一般非行少年に占める少年鑑別所収容少年の割合
 一般非行少年の中で,少年鑑別所に収容される少年はごく少ない。すなわち,昭和63年における交通事犯を除く一般非行少年(家裁)の総数において,少年鑑別所収容少年が占める割合は,初入少年と再入少年とを合わせても7.5%にすぎない。ただし,非行名によってその割合は大きく異なり,殺人,強盗などの凶悪な事犯では一般非行少年の50%以上が少年鑑別所に収容されるが,窃盗や横領などの事犯で収容される少年は5%に満たない。
 (以上,本章第1節1参照)
(2) 非行名別構成比
 まず,少年鑑別所初入少年の非行名別構成比は,一般非行少年と比べて窃盗の占める比率が低く,虞犯,傷害,恐喝などの比率が高い。すなわち,昭和63年の交通事犯を除く一般非行少年(家裁)の非行名別構成比を見ると,窃盗が62.9%と大半を占め,以下,詐欺・横領10.2%,毒物及び劇物取締法違反9.9%,傷害4.5%,恐喝2.6%,虞犯1.6%の順となっているが,少年鑑別所初入少年(交通事犯を除く。)では,窃盗の比率が37.5%に下がり,以下,虞犯16.1%,傷害12.6%,毒物及び劇物取締法違反9.6%,恐喝5.7%,覚せい剤取締法違反3.8%,強姦2.9%の順となっている。
 次に,少年鑑別所再入少年(交通事犯を除く。)の再入時の非行名別構成比を見ると,窃盗が41.8%を占め,以下,虞犯15.8%,毒物及び劇物取締法違反9.6%,傷害9.4%,恐喝6.6%,覚せい剤取締法違反5.0%,強盗1.7%の順である。初入少年と比べて,傷害,強姦の比率が下がり,窃盗,恐喝,覚せい剤取締法違反の比率が高くなっている。
 なお,少年鑑別所再入少年について,再入率(昭和61年中に少年鑑別所を退所した18歳未満の初入少年のうち,平成元年末までに少年鑑別所へ再入所した者の比率)の相違を非行名別に見てみると,総数では33.8%(男子36.8%,女子22.1%)であるが,初入時に,虞犯並びに毒物及び劇物取締法違反の非行名であった者の再入率が男女共に高く,男子ではそれぞれ50.9%,50.3%で,女子ではそれぞれ24.8%,26.0%である。このほか,男子では詐欺・横領(47.1%)及び窃盗(39.3%),女子では恐喝(25.9%)の再入率が高いことが認められた。
 (以上,本章第1節12(1)ア第2節2(1)及び(4)参照)
(3) 共犯者関係
 一般非行少年と比べて,少年鑑別所初入少年には共犯者のある者が多い。すなわち,平成元年の一般非行少年(検察)のうち,共犯者のある者の比率(共犯者率)は49.9%であるが,少年鑑別所初入少年(虞犯を除く。)の共犯者率は,男子では68.8%,女子では77.5%であり,男女共にかなり高い比率となっている。
 共犯者のある者について,犯行時における本人の役割別構成比を見ると,一般非行少年(検察)では,「主犯」15.5%,「従犯」12.8%,「同列」71.7%となっており,他方,少年鑑別所初入少年では,「主導」18.0%,「雷同」20.0%,「従属」13.7%,「共同」48.3%となっている。役割の分類項目が若干異なってはいるものの,両者共に,主導的な役割を果たしている者が比較的少なく,主従の関係のない同列又は共同の役割の者が多数を占めていることがわかる。同列・共同的な役割関係による犯行は,リーダーがいないところから集団心理に動かされやすく,時には歯止めが利かなくなる場合があるが,このような形態の犯行が多いことが,少年非行の特徴の一つと見られる。
 (以上,本章第1節2(1)ウ及び第2節2(5)ア参照)
(4) 非行歴
 一般非行少年と比べて,少年鑑別所初入少年には非行歴のある者が多い。すなわち,平成元年の一般非行少年(検察)のうち,以前に道路交通法違反事件以外の事由で検察庁を経由して家庭裁判所に送致されたことのある少年は25.2%であり,また,犯行時保護観察中又は試験観察中であった者は合わせて4.4%である。これに対して,少年鑑別所初入少年では,以前に家庭裁判所に送致されたことのある者は46.8%で,保護観察中又は試験観察中であった者は合わせて14.2%である。また,問題行動歴について見ると,シンナー等の薬物を濫用したことがある者は,一般非行少年(検察)では16.1%であるが,少年鑑別所初入少年(虞犯を除く。)では58.0%(男子54.6%,女子74.9%)に上っている。
 なお,一般非行少年については対比できる資料がないが,少年鑑別所初入少年について家出及び万引きの問題行動歴を見ると,男子では家出をしたことがある者が45.0%で,万引きをしたことがある者が48.6%であり,女子ではそれぞれ86.1%,62.5%となっている。これらの問題行動と再入率とは密接な関連があり,家出の常習者及び万引きの常習者の再入率は,男子ではそれぞれ51.8%,50.8%で,女子ではそれぞれ25.8%,27.5%であり,いずれも高い比率を示している。
 非行歴に関連して,少年鑑別所初入少年の初発非行年齢を見ると,13歳から15歳の中学生の年代に初発非行があった者が最も多く,男子では61.2%を,女子では65.5%をそれぞれ占めている。また,再入率が高いのは,初発非行年齢が12歳以前の者である(男子46.6%,女子29.2%)。
 (以上,本章第1節2(2)及び第2節2(5)イ参照)
(5) 家庭環境
 一般非行少年と比べて,少年鑑別所初入少年は,実父母がそろっている者の比率,生活程度が普通以上の者の比率がいずれも低い。すなわち,昭和63年における一般非行少年(家裁)の保護者の状況を見ると,実父母がそろっている者が69.6%を,生活程度が普通以上の者が87.8%をそれぞれ占めているが,少年鑑別所初入少年では,実父母がそろっている者は55.2%で,生活程度が普通以上の者は79.2%である。少年鑑別所再入少年では,これらの比率は更に下がり,実父母がそろっている者が49.2%,生活程度が普通以上の者が73.7%となる。
 なお,家庭の養育機能に関する資料は,親の養育態度等を評定する項目や基準が異なっているため,一般非行少年と対比することができないが,少年鑑別所初入少年について見ると,親の養育態度が普通である者の割合は男子では15.6%,女子では8.2%にすぎず,このほかの者は放任や一貫性のない指導など,親の養育態度に問題のある者である。また,親の指導力不足が男子では52.3%の,女子では55.0%の少年にそれぞれ認められるほか,家族間の情緒的・心理的交流が不足している者がかなり多い(男子36.1%,女子46.6%)。また,少年鑑別所の鑑別担当者が評定した,家庭に関する非行化要因を見ると,初入少年のうち,「家族間葛藤」を非行化要因とする者が男子では28.2%を,女子では44.2%を占めている。
 (以上,本編第2章第2節1第3章第1節2(3),(5)イ第2節2(5)工及びオ参照)
(6) 教育程度
 一般非行少年と比べて,少年鑑別所初入少年には教育程度が中学卒業までの者及び高校中退の者が多い。すなわち,教育程度別構成比を見ると,平成元年の一般非行少年(検察)では,中学在学中30.6%,中学卒業18.9%,高校在学中34.5%,高校中退11.3%となっており,一方,少年鑑別所初入少年(虞犯を除く。)では,中学在学中10.9%,中学卒業42.6%,高校在学中7.2%,高校中退31.9%となっている。一般非行少年では,中学在学中と高校在学中の合計が65.1%で,中学卒業と高校中退の合計が30.2%であるのに対して,少年鑑別所初入少年では,中学在学中と高校在学中の合計は18.1%にすぎず,中学卒業と高校中退の合計が74.5%にも上っている。また,少年鑑別所初入少年のうち,義務教育を修了した者の中に占める高校進学者の割合は,51.3%であり,元年の我が国の高校進学率が94.1%に達しているのと比べて,かなり低い比率であるといえる。
 なお,鑑別担当者が評定した,学校に関する非行化要因を見ると,初入少年のうち,「学業脱落(遅滞)」を非行化要因とする者が,男子では54.9%を,女子では52.2%をそれぞれ占めている。
 (以上,本編第2章第2節2第3章第1節2(4)ア及び(5)イ参照)