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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第3章/第1節/2 

2 少年鑑別所収容少年の特質と背景

 少年鑑別所は,本編第5章第4節で詳しく述べるように,家庭裁判所の観護措置の決定によって送致された少年を,一定期間収容するとともに,家庭裁判所の調査,審判及び保護処分の執行に資するために,少年の資質鑑別を行う施設である。資質鑑別は,医学,心理学,教育学,社会学等の専門知識に基づいて行われ,各少年について詳細な鑑別資料が作成され,鑑別結果通知書や少年簿として各機関に送付される。また,鑑別の結果は,事例記録として保存されているほか,その要約が「鑑別統計カード」に記録されて,統計的に処理されている。このような形で少年鑑別所が整備している事例記録や統計資料は,非行少年を対象として日常業務の中で作成されている資料としては,非常に精度が高く客観性のあるものと認められ,少年鑑別所は,少年非行対策の情報センターとしての機能をも果たしているというべきである。そこで,本節では,少年鑑別所の鑑別・統計資料を用いて,少年鑑別所収容少年の実態を分析し,非行少年の特質やその背景を明らかにしていくこととする。
 平成元年中に全国の少年鑑別所を退所し,資質鑑別を終了した少年は,III-30表に示すとおりである。鑑別終了少年の総数は1万7,015人であり,このうち,本節では,少年鑑別所に初めて入所した少年(以下「初入少年」という。)1万1,730人の中から,14歳以上20歳未満の者1万1,665人(男子9,706人,女子1,959人)を対象として,非行の特徴,環境条件,非行化の要因等を見ていくこととする。

III-30表 少年鑑別所収容少年の年齢・入所回数別人員(平成元年)

 なお,初入少年の年齢層別構成比は,男子では,年少少年が18.4%,中間少年が40.1%,年長少年が41.5%,女子では,それぞれ42.3%,39.5%,18.3%となっている。
(1) 非行の特徴
ア 非行名
 III-31表は,少年鑑別所初入少年について,少年鑑別所に収容されることに至った非行(以下「本件非行」という。)の非行種別による構成比を年齢層別に見たものである。男子では,窃盗が総数の36.3%を占めて最も高く,以下,粗暴犯(20.2%),交通事犯(15.6%),薬物事犯(9.5%),虞犯(7.1%),性犯罪(4.0%),凶悪犯(2.3%)の順となっている。女子では,虞犯の48.2%が最も高く,以下,薬物事犯(22.2%),窃盗(14.1%),粗暴犯(9.5%)の順である。

III-31表 少年鑑別所初入少年の年齢層・非行種別構成比(平成元年)

 非行種別の構成比を年齢層別に見ると,男子では,年齢層が高くなるにつれて上昇するのが,自動車盗を除く窃盗,性犯罪及び薬物事犯であり,逆に年齢層の上昇とともに低下するのが,原動機付自転車盗を含む自動車盗と虞犯である。女子では,年齢層が上がると虞犯の比率が大幅に低下し,これに代わって薬物事犯及び自動車盗を除く窃盗の比率が大幅に上昇する。なお,凶悪犯は,総数に占める割合が低く,年齢層による差異もわずかなものであるが,男女共に中間少年及び年長少年が若干高くなる。

III-32表少年鑑別所初入少年の非行種別・動機別構成比(平成元年)

イ 非行の動機
 III-32表は,本件非行の動機を非行種別に分けて見たものである。総数で見ると,男子では,金銭欲・物欲が23.4%を占めて最も高く,以下,遊び・好奇心(14.2%),車に乗りたい(12.6%),かっとなって(10.7%),誘われて(9.0%)の順である。女子では,遊び・好奇心が33.5%を占めて最も高く,金銭欲・物欲(12.5%),うさ晴らし(11.3%),誘われて(8.6%)の順である。
 これを非行種別で見ると,財産犯では,金銭欲・物欲(48.7%)がほぼ半数を占め,車に乗りたい(19.0%)という動機もかなり多い。粗暴犯では,かっとなって(44.0%)が最も高く,金銭欲・物欲(17.0%)や目立ちたい・突っ張りたい(14.8%)がこれに続いている。凶悪犯では,金銭欲・物欲(32.1%),誘われて(16.7%),かっとなって(16.4%),うさ晴らし(8.9%)の順である。薬物事犯では,遊び・好奇心(36.5%),うさ晴らし(25.1%),誘われて(11.4%)が主な動機であり,また,交通事犯では,車に乗りたい(32.8%),遊び・好奇心(23.3%)によるもののほかに,目立ちたい・突っ張りたい(17.9%)ために行う犯行が多い。一方,虞犯は,犯罪行為ではなく不良交遊など犯罪を犯すおそれがあると認められる行状であり,犯行の動機で分類するのは適切ではないが,そのような行状に陥る心理的要因を犯行の動機に準じて見てみると,遊び・好奇心(39.3%)によるものが特に多く,嫌なことから逃避(10.4%),うさ晴らし(10.3%),反発したくて(8.6%)というものも少なくない。
 なお,少年鑑別所の鑑別終了者(再入少年を含む。)について,昭和61年からの非行動機の推移を見ると,男子では,かっとなってが61年の8.4%から平成元年の10.1%(初入少年では10.7%)へ,女子では,うさ晴らしが同じく8.1%から11.1%(同11.3%)へ逐年漸増していることが注目される。
ウ 共犯者
 III-7図は,虞犯を除く本件非行について,犯行時の共犯者数を見たものである。男子では,単独犯が31.2%,共犯者のある者が68.8%,女子では,それぞれ22.5%,77.5%であり,男女共に大半が共犯者のある者である。共犯者数では,2人又は3人の比率が高く,なかでも女子の2人が40.8%を占めているのが目立つ。また,男子では,4人以上や不特定多数などの共犯者数の多いものが32.2%に上る。

III-7図 少年鑑別所初入少年の共犯者数別構成比(平成元年)

 なお,作表はしていないが,非行名と共犯者数の関係を見ると,単独での者が多いのは,男子の強制猥褻(単独犯が80.2%),放火(同78.8%),女子の放火(同77.8%),殺人(同71.4%),暴行(同66.7%)などである。これに対して,共犯者のある者が多いのは,男子では,強盗(共犯者のある者が76.7%),道路交通法違反(同76.5%),自動車盗(同75.1%),恐喝(同73.7%),強姦(同73.7%),傷害(同73.3%),女子では,傷害(同96.4%),恐喝(同89.5%),強盗(同87.7%),覚せい剤取締法違反(同85.0%),毒物及び劇物取締法違反(同77.4%)などである。
 III-33表は,共犯者の種類を男女別に見たものである。共犯者の種類別の構成比は,男子では,地域仲間(51.6%),暴走族(22.8%),学校仲間(12.2%),暴力組織(3.8%),職場仲間(3.8%)の順に高く,女子では,地域仲間(45.5%),愛人(19.0%),学校仲間(15.6%),暴力組織(5.7%)の順となっている。男女共に地域仲間を共犯者とすることが多いが,男子では暴走族,女子では愛人の比率が高いのが目立っている。

III-33表 少年鑑別所初入少年の共犯の種類別構成比(平成元年)

 III-8図は,共犯者のある者について,共犯者との関係の中でどのような役割を果たしているかを見たものである。男子では,「共同」が48.4%,「雷同」が20.2%,「主導」が18.7%,「従属」が12.7%であり,女子では,「共同」が47.6%,「従属」が21.4%,「雷同」が18.5%,「主導」が12.5%となっている。男女共に,共犯者との関係の中で主導的な役割を演じる者は比較的少なく,主犯者が不明確である共同的な役割関係が多いのが特徴であり,「共同」がほぼ半数を占めている。

III-8図 少年鑑別所初入少年の共犯関係における役割別構成比(平成元年)

III-34表 少年鑑別所初入少年の年齢層・問題行動歴別構成比(平成元年)

(2) 非行歴
ア 問題行動歴
 少年鑑別所に初めて入所した少年とはいっても,本件非行が初めての非行である者は少なく,過去に種々の非行歴,問題行動歴をもつ者,あるいは既に何らかの処分を受けている者が多い。そこで,初入少年の問題行動歴について,「なし」,「数度以内」及び「常習」の3区分に分けて見たのが,III-34表である。家出は,男子の45.0%,女子の86.1%の者に経験があり,特に女子においてその比率が高く,女子の46.4%が家出の常習者である。また,年齢層が低くなるほど家出の経験のある者が多くなり,女子の年少少年では92.6%に上る。

III-35表 少年鑑別所初入少年の入所時年齢・初発非行年齢別構成比(平成元年)

 万引きは,男子の48.6%,女子の62.5%の者に経験があり,これも女子の経験者の割合が高い。万引きについても,年齢層が低くなるほど経験者が多くなる。
 シンナー等の有機溶剤の濫用は,男子の54.6%,女子の74.9%に濫用歴があり,女子の49.9%が常習の濫用者である。有機溶剤濫用は,男子では年齢による違いは少ないが,女子では年長少年の濫用者の割合が比較的低い。
 覚せい剤の使用歴のある者は,男子の2.4%,女子の13.1%である。男子と比べて女子の比率が高いことが目立ち,女子の年長少年では35.5%の者に覚せい剤使用歴がある。
 暴走行為は,自動車やバイクで暴走したり,そのような行為に参加したりすることを指すが,男子の41.1%,女子の19.7%に暴走行為の経験がある。女子では年齢による違いは少ないが,男子では中間少年と年長少年に暴走行為の経験者が多くなる。
 飲酒は,男女共にほぼ半数が常習の者であり,年少少年でも,ほぼ3割以上が常習の者である。
 文身(入れ墨)については,「なし」,「いたずら程度」及び「本格的」の3区分で見ている。本格的な文身を入れている者は,男子の1.8%,女子の0.3%と極めて少ないが,いたずら程度の文身を含めると男子では5.7%,女子では7.7%になる。
イ 初発非行年齢
 初入少年が初めて非行を犯した年齢(初発非行年齢)を見たものが,III-35表であり,少年鑑別所入所時の年齢ごとに,初発非行年齢別の構成比を示してある。ここでいう初発非行年齢は,警察補導歴等の公的記録及び少年や家族等の供述を基に推定されたものである。男女共に13歳から15歳までの中学生の年代の初発非行が目立ち,男子では入所時年齢15歳及び16歳の少年の70.4%から77.7%が,女子では同じく14歳及び15歳の少年の81.4%から87.1%が,この年代に最初の非行を行っている。また,年長少年では,中学生の年代に初発非行がある者が多いほか,18歳又は19歳になって初めて非行を行う者も少なくない。
 ところで,初発非行年齢が12歳時以前の者は,いわゆる早発型の非行少年と見られる者であるが,年少少年については早発型の比率が高く,男子では,14歳の36.8%,15歳の22.0%,女子では,14歳の18.7%,15歳の12.4%が早発型である。男子について見ると,中間少年や年長少年でも9.0%から15.9%が12歳時以前の早期に非行を行っている。第2節で述べるように,初発非行年齢が低い者ほど非行を繰り返しやすいものであり,中学生に対する非行対策はもとより,小学生に対する非行予防の重要性が示唆される。
ウ 在宅保護歴
 III-36表は,初入少年が過去にどのような在宅保護歴を有するかを見たものである。これまでに警察補導,児童相談所係属又は保護観察等の在宅保護処分を受けたことのある者は,男子の91.3%,女子の85.0%に上っている。男女共に約80%が警察補導を受けたことがあり,また,男子の24.O%,女子の6.7%が保護観察処分に付されている。年齢層別に見ると,男女共に年少少年では17%前後が児童相談所に係属した経歴がある。中間少年,年長少年では,審判不開始・不処分の決定を受けたことがある者及び保護観察に付されたことがある者が多い。保護観察に付されたことがある者は,男子では,中間少年の24.2%で,年長少年の30.4%であり,女子では,それぞれ8.0%,14.2%である。

III-36表 少年鑑別所初入少年の年齢層・在宅保護歴別構成比(平成元年)

(3) 家庭環境
ア 保護者
 III-9図は,一般保護少年(家庭裁判所における一般保護事件の終局総人員),少年鑑別所初入少年及び少年院新収容者について,保護者別の構成比を見たものである。実父母がそろっている少年の割合(実父母率)は,一般保護少年が69.6%,少年鑑別所初入少年が55.2%,少年院新収容者が47.8%である。また,III-10図は,同じ対象者について,保護者の生活程度を見たものである。生活程度が普通以上の者の割合は,一般保護少年が87.8%,少年鑑別所初入少年が79.1%,少年院新収容者が68.7%となっている。家庭裁判所で扱う一般保護少年の段階から,少年鑑別所初入少年,少年院新収容者へと対象者が絞られてくるにつれて,保護者が実父母である者,保護者の生活程度が普通以上である者の比率が順次低下しており,保護環境の条件が厳しくなってきていることがわかる。

III-9図 非行少年の保護者別構成比(昭和63年)

III-10図 非行少年の保護者の生活程度別構成比(昭和63年)

 なお,少年鑑別所新収容者(再入少年を含む。)について,資料のある昭和57年からの実父母率の推移を見ると,57年の58.8%から逐年下降しており,60年が55.2%,62年が52.9%,平成元年が52.7%となっている。ちなみに,一般保護少年の保護者について見ると,実父母率は,昭和57年の74.8%から63年の69.6%まで逐年低下しており,保護者が実父のみ又は実母のみの比率が上昇している。
イ 養育態度
 III-37表は,鑑別担当者が鑑別資料に基づいて判定した親の養育態度を,男女別に父親と母親とに分けて見たものである。まず,男子について見ると,養育態度が「普通」とされたのは,父親の21.5%,母親の29.6%であり,本表には示していないが,父親,母親の双方が「普通」であるのは15.6%である。「普通」以外は,いずれも問題のある養育態度と見られるものであり,その中では,父親についても,母親についても,「放任」の比率が高いことが目立ち,父親の37.0%,母親の30.6%がこれに該当する。このほかは,父親では,「厳格」が11.0%,「一貫性なし」が8.4%,「溺愛」が2.9%,母親では,「溺愛」が9.4%,「一貫性なし」が7.9%,「過干渉」が7.8%という比率になっている。

III-37表 少年鑑別所初入少年の親の養育態度別構成比(平成元年)

 次に,女子について見ると,養育態度が「普通」の割合は,男子と比べてかなり低く,父親が13.3%,母親が20.4%である。父親,母親のいずれもが「普通」であるのは8.2%にすぎない。問題のある養育態度の中では,女子の場合も「放任」が最も高く(父親34.0%,母親34.6%),これに「一貫性なし」(父親12.6%,母親13.4%)が続き,以下,父親では,「厳格」(11.9%),「溺愛」(3.8%),「拒否」(3.3%),母親では,「過干渉」(8.2%),「厳格」(5.1%),「溺愛」(4.0%)の順となっている。
 ところで,親の養育態度は,時代とともに変化するものであろうか。III-11図は,少年鑑別所収容少年(再入少年を含む。)の親の養育態度について資料のある昭和53年から約10年間の変化を見たものであり,53年から55年までと62年から平成元年までの,それぞれ3年間の養育態度別構成比の平均値を示してある。これによると,男子と女子,父親と母親とにかかわりなく,10年前と比較して,親の養育態度における「普通」の割合が低下し,「溺愛」の割合が約半分に下がり,「過干渉」も若干下降する一方で,「放任」の比率が大幅に上昇している。また,女子少年の母親の場合を除けば,「厳格」の比率も下がってきている。

III-11図 少年鑑別所収容少年の親の養育態度の推移(昭和53〜55年,62年〜平成元年)

 このように,普通,溺愛,過干渉,厳格の親が減り,反対に子どもの養育を放任する親が増えていることは,親が子供に愛情を注がず,子供の養育にかかわらなくなってきていることを示しているといえる。現代社会の風潮の一つと見られる人間関係の希薄さが,家庭の中にまで浸透してきているということなのであろうか。
ウ 現在の家族の問題
 III-12図は,鑑別の結果,少年の現在の家族の問題として,鑑別担当者が評定(重複選択)した項目の頻度を見たものである。家族の問題が認められなかった少年は,男子の11.3%,女子の4.5%と極めて少なく,大部分の少年が何らかの家族の問題を抱えている。そこで,問題として取り上げられた項目を見ると,「指導力不足」が男子では52.3%,女子では55.0%の者に,「しつけ不足」が男女共に約35%の者について指摘されている。指導力不足に次いで多いのが「交流不足」(男子36.1%,女子46.6%)であり,「本人疎外」は女子の場合に18.8%と高い。交流不足や本人疎外は,少年と家族との心理的・情緒的な結び付きの希薄さを示すものであり,しつけ・指導力のぜい弱さと並ぶ非行少年の家族の大きな問題であるといえる。また,「離婚」,「父母葛藤」,「家族不和」など,家庭内の不和・葛藤に悩む少年も多く,女子は,いずれの項目においても,男子と比べて高い比率を示している。

III-12図 少年鑑別所初入少年の現在の家族の問題別構成比(平成元年)

(4) 学校・職場
ア 教育程度
 III-13図は,昭和55年からの10年間について,少年鑑別所収容少年(再入少年を含む。)の教育程度を中学在学中,中学卒業及び高校中退に分け,総数に占める各比率の推移を見たものであり,併せて高校以上に進学した者の比率を示してある。男子では,中学在学中の比率は10%前後でほぼ横ばいである。中学卒業は55年の41.8%から62年の52.3%までほぼ逐年上昇し,平成元年は50.3%である。高校中退は昭和55年の35.3%から62年の27.3%まで逐年下降し,平成元年は27.7%である。女子については,中学在学中が30%前後を占め,中学卒業は昭和55年から58年までは34%前後で横ばい,59年から上昇し62年に42.7%に達し,平成元年は39.1%である。高校中退は昭和55年の29.7%から60年の21.8%まで低下し,その後はほぼ横ばいで,平成元年は23.2%である。
 中学卒業と高校以上進学の比率は,男女共に昭和57年までは高校進学が中学卒業を上回っているが,58年以降はこれが逆転し,高校以上進学の比率がかなり下がってきており,男子では55年の50.0%から平成元年の38.1%へ,女子では同じく37.8%から30.7%へ,それぞれ低下していることが注目される。

III-13図 少年鑑別所収容少年の教育程度(昭和55年〜平成元年)

イ 就業状況
 III-14図は,昭和57年からの少年鑑別所収容少年(再入少年を含む。)の学生・生徒,有職者及び無職者別の割合を見たものである。有職者の比率は,男子では,57年の44.8%から下降し,61年には37.2%に下がるが,63年には40%台に戻り,平成元年は41.7%(初入少年では41.1%)となっている。女子では,昭和57年の19.9%から63年までほぼ逐年下降し,平成元年は若干上昇して17.7%(同15.3%)となっている。一方,無職者の比率は,男子では,昭和57年の37.6%から上昇を続け,62年には46.7%に達するが,その後は下降し,平成元年は41.3%(同36.2%)となっている。女子も,ほぼ同様の推移を示し,元年は48.0%(同45.7%)である。女子では,無職者の比率が有職者を大幅に上回り,男子も,昭和59年以降無職者の比率が常に有職者を超えているが,平成元年には無職者と有職者がほぼ同じ割合となっている。

III-14図 少年鑑別所収容少年の就業状況の推移(昭和57年〜平成元年)

(5) 非行化の要因
ア 資質面の要因
 少年鑑別所では,鑑別の結果に基づいて,個々の少年の非行化要因(負因)を資質面と環境面に分け,資質面については6種類の,環境面については5種類の領域を設定して評定し,鑑別統計カードに記録している。そこで,この評定結果に基づいて,対象少年の非行化の要因を見ていくこととする。
 なお,一般に,少年の非行化要因は,資質面と環境面とに単純に分けられるものではなく,資質,環境両面の多様な問題がふくそうして非行化の直接の要因を形成したり,間接的に非行化を促進する要因となっていると考えられるが,ここでは非行化に関係する要因を概観するために,試みに資質面,環境面それぞれに特定の領域を設定し,各領域について非行化の要因を評定しているものである。ここで取り上げた領域の問題が非行化要因のすべてではないことは,いうまでもないことである。
 まず,資質面の要因については,意志,感情,行動,社会意識,知能及び思考の6領域について,非行化の要因とされる問題が認められるかどうかを評定している。III-38表は,非行化要因が認められた領域数別に,男女別,年齢層別の構成比を見たものである。これによれば,資質要因が認められなかった者は,男子では5.9%,女子では5.3%であり,年齢層の低い者ほどその比率が低下する。一方,資質要因が認められた者について見ると,6領域のうち4領域以上に非行化要因があるとされた者が,男女共にほぼ60%を占めており,多岐にわたる非行化要因を抱えた少年が多いことを示している。
 III-39表は,資質要因が認められた領域の組合せを,男子の人員の多い順に見たものである。「意志・感情・行動・知能・思考」の5領域に非行化要因が認められた者が最も多く,男子の20.4%,女子の24.1%を占めている。以下,頻度の高い10位までの組合せを見ると,意志,感情及び行動の3領域が非行化とのかかわりが大きいものであると見ることができる。そこで,この3領域について,それぞれの問題の内訳を見たのが,III-15図である。まず,「意志」の領域においては,男子では「持続意志の薄弱」と「被影響性」を,女子では「被影響性」を,それぞれ非行化要因として評定される少年が多い。

III-38表 少年鑑別所初入少年の年齢層・非行化資質要因の領域数別構成比(平成元年)

III-39表 少年鑑別所初入少年の非行化資質要因の組合せ別人員(平成元年)

 「感情」の領域では,男女共に感情の「不安定」を非行化要因として取り上げられる者が多く,男子の21.8%,女子の40.1%を占めている。
 「行動」の領域では,「衝動性」が,男子の28.6%,女子の33.8%に非行化要因として指摘されている。
 III-15図に見られるように,資質面の非行化要因に関しては,男女間では,女子の場合に感情面の問題が若干多いことを除けば,大きな差異はないといえる。

III-15図 少年鑑別所初入少年の資質要因別構成比(平成元年)

イ 環境面の要因
 環境面については,家庭,友人,学校,職場及び近隣の5領域を取り上げて,非行化要因を評定している。III-40表は,非行化の環境要因が認められた領域数別に,男女別,年齢層別の構成比を見たものである。環境要因が認められなかった者は,男子の7.3%,女子の2.9%であり,女子においてその比率が特に低くなる。環境要因が認められない者の比率は,年齢層が低くなるほど下がるが,この比率の低下は,先に見た資質面の場合よりも顕著である。また,環境要因についても,単一領域だけの要因を評定されている者は少なく,2又は3領域の非行化要因が認められる者が男子では54.1%を,女子では62.8%を占めている。

III-40表 少年鑑別所初入少年の年齢層・非行化環境要因の領域数別構成比(平成元年)

 III-41表は,環境要因が認められた領域の組合せを,男子の人員の多い順に見たものである。「家庭・友人・学校」の3領域が組み合わさった非行化要因をもつ者が多く,男子の15.8%,女子の31.2%を占めている。このほか,男子では「友人・学校」,女子では「家庭・友人」の組合せを非行化要因とする者が多い。そこで,家庭,友人,学校の3領域について,問題の内訳を見たものが,III-16図である。「家庭」の領域では,「家族間葛藤」を非行化要因とする者が多く,男子の28.2%,女子の44.2%を占めており,年齢層が低い者ほどその比率が高くなる。このほか,女子では「本人を疎外」が21.8%の者に指摘されている。「問題を認めない」者の比率は,女子では25.2%であり,男子の50.3%と比べて非常に低い。

III-41表 少年鑑別所初入少年の非行化環境要因の組合せ別人員(平成元年)

 「友人」の領域では,不良交友からの影響などの「不良感染」を非行化要因とする者が圧倒的に多く,男子では76.8%を,女子では78.8%をそれぞれ占めている。
 「学校」の領域では,「学業脱落(遅滞)」が,男子では54.9%の,女子では52.2%の者に非行化要因として挙げられている点が注目される。なお,年齢層の低い者ほど,教師や学友から疎外されたことを罪行化要因とする者の比率が高くなる。

III-16図 少年鑑別所初入少年の環境要因別構成比(平成元年)

 前項で見た資質面の要因に関しては,男女による違いは小さかったが,環境面の要因に関しては,男女による要因の差が大きく,女子については,家庭の問題を非行化要因として評定される比率が非常に高くなっている。女子は,男子以上に環境要因,特に家庭の問題を重く背負っているということができる。