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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/1 

第2節 非行を繰り返す少年の実態

1 概  説

 非行少年の中に,非行を繰り返す少年がどの程度存在するのであろうか。はじめに,非行少年の再犯の状況を非行名と年齢の2つの側面から見てみよう。
 警察庁の統計によれば,平成元年中に交通関係業過を除く刑法犯で検挙された犯罪少年(14歳以上20歳未満)16万5,053人の中で,過去に何らかの非行によって検挙又は補導されたことのある再犯者は4万6,022人である。再犯者が総数に占める比率(以下「再犯者率」という。)は27.9%である。
 再犯者率を非行名別に見たものがIII-42表である。昭和52年から54年までと62年から平成元年までの,それぞれ3年間の平均再犯者率を示してある。再犯者率は,非行名によってかなりの差異がある。まず,最近の状況を昭和62年から平成元年の平均再犯者率で見ると,再犯者率が高いのは,公務執行妨害(65.1%),強盗(61.6%),強姦(60.9%),殺人(52.2%),器物損壊(50.6%)などである。これらの非行は,再犯者が半数以上を占めており,非行歴のある少年によって犯されやすいものであることがうかがえる。このほか,脅迫(49.6%),恐喝(48.7%),傷害(48.1%),放火(44.9%),住居侵入(42.5%),暴行(41.2%)なども,再犯者率の高い非行と見ることができる。これに対して再犯者率が比較的低いのは,占有離脱物横領を含む横領(20.3%),窃盗(26.3%),賍物(27.0%)などであり,これらの非行の大半は,これまでに検挙・補導歴のない,いわゆる初犯の少年によって犯されていることがわかる。なお,窃盗のうちの侵入盗の再犯者率は53.6%と高い。
 次に,この再犯者率を10年前の昭和52年から54年の平均再犯者率と比較して見ると,殺人,傷害致死及び公務執行妨害の再犯者率が,それぞれ10.3ポイントから11.2ポイント上昇している。また,強盗,脅迫,侵入盗,強姦,強制猥褻及び器物損壊も5ポイントから9ポイントの上昇を示している。これらの非行は,再犯者によって犯される割合が高くなっているのである。
 このように,少年刑法犯中に占め名再犯者の割合は,総数では3割に満たないものの,凶悪犯,粗暴犯,侵入盗などでは,5割を超えるものが多く,凶悪,粗暴,悪質な非行ほど過去に非行歴のある少年によって行われる比率が高く,しかも,これらの非行では,10年前と比較して再犯者の占める割合が上昇してきていることが注目される。

III-42表 少年刑法犯検挙人員中に占める再犯者の比率(昭和52年〜54年,62年〜平成元年)

III-17図 一般保護少年の年齢層・前処分回数別構成比(昭和51年〜53年,61年〜63年)

 一方,交通関係業過を除く一般保護少年の再犯の状況を見ると,昭和63年では,一般保護少年13万6,172人のうち,処分歴のある(前処分あり)者は4万5,205人である。総数の約3分の1が過去に非行を犯して処分を受けたことのある少年である。これを年齢層別に見たもめがIII-17図である。前処分回数別の構成比を51年から53年までと61年から63年までのそれぞれ3年間の平均で示してある。61年から63年の平均では,「前処分あり」(前処分1回及び前処分2回以上)の比率は,年少少年が19.8%,中間少年が35.6%,年長少年が48.6%であり,年齢層が高くなるほど処分歴のある再犯者の比率が高くなる。また,51年から53年までの平均と61年から63年までの平均を比較して見ると,「前処分あり」の比率は,10年前と比べて,年少少年では6.2ポイント,中間少年では10.6ポイント,年長少年では12.4ポイントそれぞれ上昇しており,年齢層が高くなるほど上昇の幅が大きくなっている。さらに,前処分回数が2回以上の者の比率を見ると,10年前と比べて年少少年が1.7ポイント,中間少年が5.8ポイント,年長少年が10.2ポイントそれぞれ上昇しており,年長少年における上昇が目立っている。
 10年間の推移の中で,処分歴のある者の比率が上昇し,しかも,前処分回数の多い,いわゆる累犯者の比率が上昇している。この傾向は年長少年に顕著に表れており,初犯者の割合が低下する中で,累犯者によって非行が繰り返される傾向が強くなっていることを示唆している。