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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第5章/第2節/4 

4 多数回受刑仮出獄者の保護観察処遇

 このように,この種対象者に対する保護観察は種々の困難を伴うが,その再犯防止と円滑な社会復帰を促進することが刑事政策上極めて重要であることから,保護観察の処遇活動を一層充実し,その効果を挙げるための努力が傾注されている。その具体的な処遇活動は,保護観察官と保護司との協働態勢に基づき,個々の対象者について,資質,環境等の問題点を的確に把握した上で,その者に最もふさわしい個別的な処遇を行うことが基本となるが,多数回受刑仮出獄者の多くに共通して認められる問題点に関しては,次のような処遇が行われている。
(1) 補導援護
 まず,多数回受刑仮出獄者は高齢者が多く,しかも,心身の障害,家族との折り合い不良,就職困難などの社会生活上の種々の問題がある者が多い。このような対象者に対しては,本人の自発的な更生意欲を助長しながら,就職の援助,家族・縁故者等との融和を図る環境調整,住居や医療の援助など,円滑な社会復帰を図るために必要な補導援護の措置が講じられている。また,必要に応じて,公共職業安定所や福祉事務所などの公的福祉機関と連携をとり,就職のあっせん,職業の補導,生活保護・医療保護の受給,医療・福祉施設への入院等について援助を行うほか,保護司会,更生保護婦人会等の更生保護関係団体や協力雇用主等の民間協力者の協力を求めることが行われている。
(2) 指導監督
 多数回受刑仮出獄者に対して,その問題点を十分に把握した上で,これに相応する適切な指導と援護を行っても,なお本人に更生意欲が乏しく,保護司や更生保護会職員の指導に従わず,遵守事項に違反して行状が不安定になる場合がある。このような問題行動が認められるときは,保護観察官による面接指導や引致状による引致等の強制措置などが迅速かつ厳正に実施され,対象者が問題行動を改め更生に向けて努力するよう適切な方策が講じられている。しかし,このような場合に,もはや保護観察によっては本人の改善更生を期待することができず,しかも,再犯のおそれが強いと認められるときは,時機を失することなく,仮出獄を取り消して再び刑務所に収容する措置を採り,再犯防止を期している。
(3) 更生保護会における処遇
 多数回受刑仮出獄者は,刑務所への入所度数が増えるにつれて更生保護会に帰住する者が多くなるが,更生保護会においては,その職員が対象者と起居を共にしながら,個別的な生活指導のほか集会活動等による集団的な生活訓練を行い,また,就職の援助や親族等に対する環境調整を実施し,本人の更生意欲と自立精神を助長しつつ,円滑な社会復帰に向けての処遇を実施している。更生保護会に帰住する者は,親族から見放された者が多く,しかも,人格特性にも問題があり,処遇が極めて困難な者が少なくないので,補導に当たる職員は,問題点に応じた適切・妥当な補導を行い,処遇効果を高める努力を積み重ねている。一方,保護観察官による対象者との定期的な面接指導や更生保護会職員との処遇についての協議も従来から活発に実施されているが,近年,保護観察官が夕方から夜間にかけて更生保護会に駐在する「夜間駐在」や,宿泊して処遇に当たる「宿泊駐在」が全国的に推進されるなど,更生保護会における処遇態勢を充実し,処遇活動を一層強化する方策が積極的に実施されている。このように,多数回受刑仮出獄者に対する保護観察を効果的に実施するためには,更生保護会における処遇態勢をより一層充実することが極めて重要な課題であると言えよう。