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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第5章/第2節/3 

3 保護観察の概況

 それでは,多数回受刑仮出獄者に対する保護観察は,どのように行われているのであろうか。以下,調査対象者に対する保護観察の概況を見ることとする。
(1) 保護観察期間
 保護観察期間について,入所度数別に見たのがIV-63表である。これによると,入所度数5度以下の者では,保護観察期間1月以内の者は2.4%,1月を超え2月以内の者も21.6%であり,3月以内の累計で見ても42.4%にとどまっている。これに対して,入所度数6度以上の者である調査対象者の場合には,1月以内の者は5.0%であるが,1月を超え2月以内が52.2%と約半数を占め,3月以内の累計では78.6%と約8割にも達しており,入所度数5度以下の者と比べると,保護観察期間の短い者が著しく多くなっている。一方,これを入所度数別に見ると,入所度数が多い者ほど保護観察期間の短い者の比率が高くなっており,例えば,入所度数10度以上の者については,2月以内の累計では69.4%,3月以内の累計では90.2%にも達している。
 多数回受刑歴を有する者については,社会復帰上の問題点が多いのにもかかわらず,保護観察の期間が2月ないし3月という短期間の者の占める割合が極めて高く,保護観察の処遇効果を挙げるために必要な期間がいまだ十分に確保されていないと言えよう。

IV-63表 多数回受刑仮出獄者等の入所度数別保護観察期間の構成比

(2) 引受人
 仮出獄者を引き受けこれを援助する立場にある引受人は,仮出獄者の改善更生の上で重要な役割を担うものである。そこで,多数回受刑仮出獄者の引受人の種類について,入所度数別にその構成比を見たのがIV-64表である。
 これによると,引受人が配偶者(内縁関係を含む。)である者は18.5%,父・母である者は6.7%にすぎず,これらの親族を合計しても34.2%と3割強にとどまり,逆に,更生保護会は59.7%と約6割にも達している。これを入所度数別に見ると,入所度数が多くなればなるほど,引受人が親族である者の比率は低下し,逆に,更生保護会に帰住する者の比率が上昇しており,多数回受刑仮出獄者に対する保護観察を実施する上で,更生保護会の果たす役割が極めて大きいことを示している。

IV-64表 多数回受刑仮出獄者の入所度数別引受人の種類の構成比

(3) 就職状況
 仮出獄者の社会復帰の第一歩は,職業に就くことであるが,調査対象者の就職状況はどうであろうか。
 まず,調査対象者のうち,指定帰住地が更生保護会である者(718人)とそれ以外の者(485人)とに区分して,就職した者の比率を見ると,前者が80.8%(580人),後者が66.2%(321人)であり,更生保護会帰住者の方が就職した者の比率が高くなっている。また,就職した者について,就職までの期間別の構成比を見ると,1週間以内に就職した者は,更生保護会帰住者が71.7%(416人),その他の者が47.0%(151人)であり,更生保護会帰住者は出所後比較的早い時期に就職している者が多くなっている。
 次に,調査対象者の生活の基盤とも言うべき職業は,どのような状況にあったのであろうか。この職業の状況について,調査対象者のうち,保護観察が期間満了で終了した者(1,053人)及び昭和62年6月30日現在で保護観察が継続中の者(34人)について,期間満了時又は調査時点において定職に就いていたか否かなどを調査した。
 まず,定職に就いていた者は35.4%(385人)と約3分の1であり,暫定的であっても就職していた者は35.1%(382人)で,この両者を合わせても約7割にとどまっている。その他は,失業中の者が2.3%(25人),無職の者が22.0%(239人),不明の者が5.2%(56人)となっており,無職の者や職業の安定性を欠く者が多いのが実状である。なお,就職している者(767人)について職業の種類を見ると,最も多いのは,土木・道路工事の作業員の39.0%(299人)であり,その他,食堂等のサービス業従事者10.3%(79人),技能・生産工程作業員10.2%(78人),建築作業員8.3%(64人)などとなっており,比較的単純な作業に従事する者が多い。
(4) 保護観察の成績
 調査対象者に対する保護観察の成績は,どのような結果を示しているのであろうか。
 まず,保護観察の終了事由から見てみると,昭和62年6月30日までに保護観察が終了した者1,169人のうち,遵守事項違反や再犯によって仮出獄を取り消された者は113人で,終了人員中に占める比率は9.7%となっている。一方,61年中に保護観察が終了した仮出獄者の総数1万7,781人についての仮出獄取消率は7.2%(1,280人)であるので,入所度数の多い調査対象者の方が仮出獄取消者の占める割合が若干ながら高くなっている。
 次に,調査対象者全員について,保護観察の成績はどうであるかを見ることとする。IV-65表は,調査対象者について,昭和62年6月30日までに保護観察が終了した者(1,169人)は終了時における成績を,同日現在において保護観察が継続中である者(34人)は同日における成績を,それぞれ構成比で示したものである。
 これによると,調査対象者全員のうち成績が良好であった者は13.6%(164人)であり,その比率は,昭和61年中に保護観察が終了した仮出獄者総数(1万7,781人)中における期間満了時の成績良好者の比率(29.7%)の2分の1以下の低い数値となっている。逆に,成績不良(本節においては,終了時又は調査時の成績評定が不良である場合のほか,仮出獄を取り消された場合及び所在不明又は身柄拘束中である場合を含む。)であった者は17.3%(208人)である。この比率は,上記の61年終了者総数中の成績不良者の比率(9.6%)と比べると,約2倍の高率となっている。

IV-65表 多数回受刑仮出獄者の入所度数別保護観察成績の構成比

(5) 成績不良者の問題行動
 それでは,調査対象者のうち,成績不良であった者(208人)は,保護観察期間中にどのような問題行動を行っていたのであろうか。成績不良者について入所度数別に各問題行動の構成比を示したのがIV-66表である。
 まず,成績不良者の全員について見ると,保護司や更生保護会の職員の指示を忌避し,その指導に従わない者が45.2%(94人)と最も多く,成績不良者の半数近くを占めている。次いで,勤労意欲の欠如(35.6%),飲酒(29.3%)と生活の不安定に結び付く行動が続き,以下,放浪(19.2%),浪費(9.1%),ギャンブル(4.8%),薬物の使用(3.4%)と再犯の危険性を表す重大な問題行動が示されている。
 次に,保護観察期間中に所在不明となったため,刑期の進行を停止する保護観察停止決定を受けた者の比率は,調査対象者の全体では10.9%(131人)である。また,保護観察停止決定を受けた者について,指定帰任地が更生保護会である者とそれ以外の者とに区分してその構成比を見ると,前者が16.7%(120人),後者が2.3%(11人),であり,更生保護会帰住を指定された者が,その他の者に比べて,保護観察停止決定を受けた者の占める比率が圧倒的に高い結果となっている。

IV-66表 多数回受刑仮出獄者中の成績不良者の入所度数別問題行動の構成比

(6) 更生保護会帰住者の状況
 更生保護会を指定帰住地として仮出獄を許可された者718人のうち,実際には更生保護会に帰住しなかった者5人を除いた713人について,更生保護会における状況を概観することとする。
 まず最初に,この更生保護会に帰住した者たちについて,これまでの更生保護会への入会回数(今回の入会を含む。)を入所度数別に見たのがIV-67表である。
 これによると,更生保護会帰住者の全員については,更生保護会への入会が初めての者はわずか20.3%であり,大多数の者はかって更生保護会に入会したことのある者で占められている。なお,入会回数2回目の者は,総数中に占める割合(23.6%)が最も高く,以下,入会回数が増えるにつれて,その割合は急減している。
 また,刑務所への入所度数別にその入会回数を見ると,初めて更生保護会に入会した者の比率は,入所度数6・7度の者が24.6%,同8・9度の者が17.8%,同10度以上の者が12.7%と,入所度数が増えるにつれて,初回入会者の比率が低下している。また,入所度数が多い者ほど入会回数が多くなる傾向が見られる。

IV-67表 多数回受刑仮出獄者中の更生保護会帰住者の入所度数別入会回数の構成比

 次に,更生保護会にどのくらいの期間,宿泊保護を受けたのであろうか。この宿泊保護期間別の構成比を入所度数別に見たのがIV-68表である。まず,更生保護会帰住者の全員について見ると,宿泊保護期間が最も短い1月以内の者は30.6%(218人)を占めており,1月を超え2月以内の者は41.9%(299人)と最も多く,この両者を合わせた2月以内の累計では72.5%と約7割にも達している。2月を超える者については,その期間が長くなるにつれて人員は逓減している。
 これを入所度数別に見ると,入所度数が10度以上の者は,他の者と比較して,宿泊保護期間が1月以内の者及び1月を超え2月以内の者の各比率が高く,宿泊保護期間が短い者が多くなっている。
 更生保護会帰住者については,保護観察所長から更生保護会に対して宿泊保護の委託が行われるが,その委託の終了事由について,入所度数別にその構成比を見たのがIV-69表である。
 まず,更生保護会帰住者の全員について見ると,種別異動(例えば,仮出獄期間中には犯罪者予防更生法の規定による救護の措置として,宿泊保護の委託が行われるが,保護観察が終了しても,なお宿泊保護を継続する必要が認められる者については,本人の申出に基づき,改めて,更生緊急保護法の規定による更生保護としての委託を行い,引き続き更生保護会に宿泊保護を行う場合がある。このような委託種別の変更を委託の「種別異動」という。)が37.9%と最も多く,次いで,自立に向けた円満退会者が33.8%であり,以下,無断退会が17.4%,再犯による逮捕等の事故退会が4.6%などとなっている。また,円満退会者241人と事故等による退会者(勧告退会者,無断退会者及び事故退会者をいう。)167人との合計人員408人中に占める両者の各比率を見ると,円満退会者が59.1%,事故等による退会者が40.9%となっている。なお,昭和61年中に更生保護会への委託が終了した刑務所出所者総数についての円満退会者と事故等による退会者の合計中に占める両者の各比率は,円満退会者が79.8%(1,765人),事故等による退会者が20.2%(446人)であり,これと比べると,調査対象者の場合は,円満退会者の比率が約20ポイント低い結果となっている。

IV-68表 多数回受刑仮出獄者中の更生保護会帰住者の入所度数別更生保護会宿泊保護期間の構成比

 また,調査対象者について入所度数別に委託終了事由を見ると,種別異動の比率が高いのは,入所度数10度以上の者(44.8%)であり,以下,同89度の者(39.0%),同6・7度の者(34.7%)の順となっている。このことは,入所度数の多い者ほど,保護観察が終了した後においても,なお継続して宿泊保護の委託を実施する必要がある者が多いことを示している。

IV-69表 多数回受刑仮出獄者中の更生保護会帰住者の入所度数別委託終了事由の構成比

(7) まとめ
 以上,多数回受刑仮出獄者に対する保護観察の実状を見てきたが,これらの者は,疾病,老衰等の身体上の問題や知能の低さ,性格の偏奇等の精神上の負因を有している者が多く,また,本人を取り巻く環境は,本人の度重なる犯罪のため家族が刑務所からの引受けを拒否したり,出所後の就職が困難になるなど,環境の面でも多くの問題点を抱えているのが実状である。さらに,保護観察の期間が2か月ないし3か月と短い者が多く,保護観察の処遇効果を挙げることが一層困難となっている。