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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節 

第2章 最近の累犯者の実態

第1節 概  況

 本節では,昭和50年から61年までの我が国における累犯現象がどのように変化してきたかを各種の統計資料によって見ることとする。
 まず,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員中における再犯者(ここでは,前に犯罪を犯して検挙されたことのある者をいう。)の状況がどうなっているかを,成人,少年別に見ると,IV-1表のとおりである。検挙人員総数は,昭和50年から59年まではおおむね増加傾向にあったが,60年,61年は連続して減少しており,その中の再犯者の比率(再犯者率)は,50年から52年までは34%台にあるものの,その後は30%ないし32%台で推移しており,全体的には横ばい状態にあるものと言える。ところが,これを成人と少年とに分けて見ると,成人では,検挙人員は多少の起伏はあるものの横ばい状態で推移しており,また,再犯者率は,50年から56年までは35%ないし37%台であるのに,57年以降は31%ないし33%台に減少している。一方,少年では,検挙人員は50年から58年まで増加傾向にあったが,その後は減少傾向となり,また,再犯者率は,50年から56年までが27%ないし28%台であるのに,57年以降は29%ないし31%台となって,わずかではあるが増加している。
 このように,成人においては,検挙人員はほぼ横ばい状況であり,再犯者率は減少傾向にあるものと認められるが,それでは,何回も犯罪を繰り返して多くの前科をもつ者の検挙状況はどのようになっているのであろうか。IV-2表は,成人の交通関係業過を除く刑法犯検挙人員について,前科者の犯数別構成比の推移を見たものである。前科者の比率は,昭和50年から56年までは27%ないし29%台であるのに,57年以降は23%ないし25%台に減少している。しかし,前科者の犯数別構成比を見ると,1犯ないし3犯までの者は,いずれも年次の経過に従っておおむね漸減傾向にあるのに対し,4犯の者は余り変化がなく,5犯以上の者はおおむねほぼ一貫して上昇しているのである。すなわち,検挙人員中に占める前科者の比率は減少傾向にあるものの,前科者の中においては,犯数の多い者の占める割合の増加傾向を指摘できるのである。

IV-1表 刑法犯検挙人員における成人・少年別再犯者の推移

IV-2表 成人刑法犯検挙人員の前科犯数別構成比の推移

 次に,刑法犯の通常第一審判決結果によって,有罪人員総数中に占める前科者,累犯者(本節では「刑法上の累犯を犯した者」のことをいう。)等の比率の変化を見ると,IV-3表のとおりである。有罪人員総数は,若干の起伏はあるものの全体的には年次の経過に従って減少傾向にあるが,初犯者と前科者の各比率を見ると,全期間を通じて,初犯者が33.7%ないし37.2%,前科者が62.8%ないし66.3%であり,また,累犯者も20.6%ないし22.9%の間で推移しており,有罪人員総数の変化にもかかわらず,ほぼ一定割合の累犯者が存在していることを示している。そして,累犯者の犯数別構成比については,司法統計年報には,3犯以上の者の内訳区分がないため,累犯者の中の2犯と3犯以上の者の各比率を見ると,2犯の者は50年の59.9%をピークとして年々漸減し,56年にはついに5割を下り,61年には49.3%になっているが,これに対して,3犯以上の者は,55年までは半数に満たなかったのに,56年には50.1%に達し,その後もほぼ過半数の比率を維持し,61年には50.7%になっている。

IV-3表 刑法犯通常第一審有罪人員における初犯者・前科者別人員及び構成比の推移

 次に,昭和51年,56年,61年と5年間隔で,刑法犯により通常第一審で有罪判決を受けた者について,主要な罪名別に,初犯者,前科者及び累犯者の各比率並びに累犯者中に占める2犯と3犯以上の者の各比率を見たのが,IV-4表である。61年において,有罪人員総数中に占める前科者の比率が高いのは,傷害(73.4%),恐喝(69.3%),窃盗(66.9%),詐欺(63.7%)などで,殺人(50.7%),放火(51.0%),性犯罪(52.8%)などは50%台であるが,この傾向は,51年,56年においてもそれほど変化はないものである。次いで,有罪人員総数中に占める累犯者の比率を見ると,窃盗(51年では29.8%,56年では32.5%,61年では30.5%),詐欺(51年では29.2%,56年では32.0%,61年では29.3%),傷害(51年では20.2%,56年では25.6%,61年では25.9%)などが高く,しかもその比率は10年間において大きな変化が見られないのに対し,累犯者の中に占める3犯以上の者の比率は,窃盗(51年では44.9%,56年では51.7%,61年では51.9%),詐欺(51年では51.5%,56年では61.3%,61年では64.5%),傷害(51年では30.2%,56年では42.8%,61年では44.4%)の3罪名で年次の経過とともに上昇しているほか,殺人,強盗などにおいても増加傾向にあり,61年において56年より比率が下がっているのは強盗致死傷,性犯罪などわずかな罪名のみである。つまり,最近においては,多くの罪名において,累犯者中に占める3犯以上の累犯者の比率の増加傾向が顕著に認められるのである。

IV-4表 刑法犯通常第一審有罪人員における初犯者・前科者別の罪名別構成比の推移

 それでは,確定判決により毎年刑務所に入所してくる新受刑者の状況はどのように変化しているのであろうか。IV-5表は,昭和50年から61年までの新受刑者について入所度数別人員とその構成比の推移を見たものである。新受刑者総数は,50年から56年にかけては多少の起伏を示しつつも増加傾向にあったが,57年以降はおおむね横ばい状態にある。そして,刑務所入所歴2度以上の者の総数中に占める比率は,常に約6割前後であり,年次の経過による変化はほとんど認められないのである。このうち,入所度数6度以上の者について見ると,その総数中に占める比率は,55年までは14%台でほとんど変化がないものの,56年に15.0%に達した後は漸増傾向に転じ,61年には15,7%を占めるに至っている。そして,その実数を見ると,50年(3,830人)以降ほぼ一賞して増加し,60年には4,857人,61年には4,809人となっているのであり,最近約10年間で約1,000人(50年の実数の約27%増)の増加であって,入所度数6度以上の多数回の刑務所入所歴を有する者の実数は,確実に増えているのである。

IV-5表 新受刑者の入所度数別構成比の推移

 次に,昭和51年,56年,61年の5年間隔で,新受刑者中の入所度数6度ないし9度及び10度以上の者について,年齢層別に構成比を見ると,IV-6表のとおりである。総数で見ても,年次を経過するにつれて,全体として年齢層が高くなっていく傾向がうかがえるが,この傾向は入所度数が多くなるにつれて顕著となる。入所度数6度ないし9度の者についても高齢化の傾向は明らかであるが,特に入所度数10度以上の者については,構成比が最も高い年齢層は,51年,56年では40歳代であるのに,61年では50歳代となっているのであり,また,50歳以上の高齢者の占める比率は,51年では45.9%であるのに,56年では55.8%,61年では68.9%と急激な増加傾向を示しているのであって,この高齢受刑者の増加傾向は今後更に加速されるものと予想される。

IV-6表 新受刑者の年齢層別構成比の推移

IV-7表 新受刑者の入所度数・罪名別構成比  (昭和61年)

 IV-7表は,昭和61年の新受刑者について,入所度数別に,本件入所罪名別の構成比を見たものである。総数で構成比が高いのは,覚せい剤取締法違反(28.0%),窃盗(26.9%),詐欺(6.7%)などであるが,この3罪名については,入所度数2度ないし5度の者では,覚せい剤取締法違反(34.2%),窃盗(27.0%),詐欺(5.3%)の順,入所度数6度ないし9度の者では,窃盗(39.4%),覚せい剤取締法違反(24.8%),詐欺(8.0%)の順であるのに,入所度数10度以上の者では,窃盗(49.5%),詐欺(19.8%),覚せい剤取締法違反(10.5%)の順となっており,覚せい剤取締法違反は,入所度数が多くなるに従ってその占める比率が低下しているのに対して,窃盗,詐欺は,逆にその比率が高くなっている。しかし,覚せい剤取締法違反は40年代後半から急増し,60年以降,新受刑者総数中に占める比率が最も高くなったものであり,最近では同法違反の累犯者も増加傾向にあることから,今後は入所度数の多い者の中に占める比率も高くなることが予想される。なお,入所度数10度以上において,上記の3罪名に次いで構成比が高いのは,傷害(4.0%),暴力行為等処罰法違反(3.2%),住居侵入(3.2%)であり,また,その占める比率はわずかであるものの,殺人,強盗等の重大な犯罪も含まれていることは注目すべきことである。