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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/3 

3 殺  人

 殺人については,既に述べたように,全体の認知件数は過去25年間減少傾向を示しているが,警察庁の統計によってその内容を検討してみると,家庭内の殺人事件であり,家庭の崩壊を示す一つの指標ともなり得る尊属殺においては,昭和34年から38年の5年間の認知件数が437件であったところ,その後減少傾向を示し,39年から43年の5年間が393件,44年から48年の5年間が385件,49年から53年の5年間には258件となった。ところが,54年から58年の5年間は278件と増加に転じていることが注目される。
 次に,保険金目的の殺人の検挙件数を警察庁の統計によって見てみると,過去10年間の検挙件数は70件であるが,その62.9%に当たる44件は,昭和54年から58年までの最近の5年間におけるものである。保険金目的の犯罪については,次節において詳述するところであるが,金銭的欲求を満たすために,計画的に人を殺害するという凶悪なものであり,これが増加傾向を示していることは今後の警戒を要する点である。
 いわゆる通り魔事件とは,警察庁において「人の自由に通行できる場所において,確たる動機がなく,通りすがりに不特定の者に対し,凶器を使用するなどして殺傷等の危害を加える事件」と定義されているが,そのうちの殺人に限って最近3年間の発生件数を見ると,昭和56年7件,57年13件,58年3件という結果となっており,一応,58年は前年及び前々年に比べて減少している。しかし,この種事犯は,明らかに都市型の犯罪であり,社会の都市化が一層進展を続けていることを考えると,単に58年に減少したからといって安易に楽観は許されない。
 さらに,殺人事犯の凶悪性を結果の重大性の面から見ると,被害者(死者)2名以上の事件は,57年9件,58年12件となっていて,決して安心できる傾向にはない。
 以上見たように,殺人全体の認知件数は減少傾向にあるが,尊属殺の最近における若干の増加傾向,保険金目的の殺人の多発,いわゆる通り魔殺人や多数人殺傷事件などの続発等,質的には,一部に,警戒を要する危険な徴候が見受けられ,今後の動向には予断を許さないものがある。