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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/2 

2 凶悪事犯の動向

 II-46表は,過去25年間における凶悪事犯の認知件数の推移を見たものである。殺人では,昭和34年の2,683件を最高に以後おおむね減少を続け,58年は1,745件となっている。強盗では,34年の5,192件から53年の1,932件まで減少したが,その後増加傾向を示しており,58年には2,317件となっている。強姦では,39年の6,857件を最高に以後急激に減少し,58年は最低の1,970件となっている。放火では,34年の1,662件から若干の起伏を示しつつも減少傾向にあって44年には1,304件となったが,その後増加に転じ,57年には過去25年間で最高の2,291件に達し,58年は前年より減少したものの,2,102件と高い水準にある。

II-46表 凶悪事犯の認知件数(昭和34年,39年,44年,49年,54年,57年,58年)

 II-47表は,1982年における殺人,強盗,強姦及び放火の認知件数,発生率等を我が国及び欧米4か国について示したものである。認知件数で見ると,各罪名ともアメリカが圧倒的に多く,我が国は,強盗,強姦及び放火で最も少なく,殺人では二番目に少なくなっている。発生率(人口10万人当たりの認知件数)では,我が国は欧米4か国に比べて各罪名とも最も低い。これを罪名別に我が国との対比で見ると,殺人では,アメリカは6.1倍,ドイツ連邦共和国は3.3倍,フランスは3.1倍,イギリスは2.0倍,強盗では,アメリカは122.1倍,フランスは44.6倍,強姦では,アメリカは16.8倍,ドイツ連邦共和国は5.5倍,放火では,イギリスは17.4倍,などとなっている。このように,我が国における近時の暴力犯罪の水準は,欧米4か国と対比した場合,その発生率はかなり低いことが明らかである。
 なお,検挙率についても,我が国はすべて最高である。特に,強盗は,被害者と面識のない犯人による場合がほとんどであることから検挙が困難であると言われているが,我が国の検挙率は74.8%であり,フランスの22.4%,イギリスの22.0%,アメリカの25.2%,ドイツ連邦共和国の50.3%に比べ,際立って高い。
 以上のところを見ると,我が国における凶悪事犯の動向は,全体として一応安定的傾向を示し,欧米先進諸国のそれと比較してもかなり良い状態にあると言えよう。しかし,子細に観察するとこれら凶悪事犯の中にも現代的特質が顔をのぞかせているように見受けられ,今後,社会的,経済的,文化的諸条件の変化に伴って,急激に欧米諸国のような深刻な犯罪情勢に転じるおそれがないとは言い切れない。
 そこで,以下において,凶悪事犯の動向を,殺人,強盗,その他の現代型凶悪犯の三つに分けて検討してみる。

II-47表 凶悪事犯の国際比較(1982年)