前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第1章/第1節/3 

3 更生保護

 戦後の新しい時代に即応した保護体制を確立し,再犯防止を図るための対策として,昭和24年5月に犯罪者予防更生法が公布され,同年7月1日から施行された。この法律は,合議制の行政機関である地方少年(成人)保護委員会が仮釈放の権限を行使することとするとともに,仮釈放を許された者及び非行少年に対する保護観察制度を定めたことを主たる内容とするもので,更生保護の基本法である。
 その後,昭和28年に刑法等の一部を改正する法律が施行され,刑の執行猶予の条件が緩和されて再度の執行猶予が認められ,その猶予中の者は保護観察に付されることとなり,更に,翌29年にも刑法の一部を改正する法律が施行され,初度目の執行猶予者にも裁量的に保護観察に付することかできることとなり,これら執行猶予者にふさわしい保護観察を実施するため,執行猶予者保護観察法が29年7月から施行され,執行猶予者に対する保護観察体制が整備された。また,32年4月から施行されていた売春防止法の一部が翌33年3月に改正され,補導処分の制度が新設されたことに伴い,婦人補導院からの仮退院中の者が保護観察に付されることとなり,保護観察の対象の範囲が成人へと拡大された。
 犯罪者予防更生法が施行された当初にあっては,新たに設けられた保護観察所は,戦前の司法保護事業法による司法保護団体及び司法保護委員の協力の下にその業務を運営してきたが,昭和25年5月に更生緊急保護法及び保護司法が施行され,司法保護事業法は廃止された。更生緊急保護法は,保護観察の対象とされない満期釈放者,起訴猶予者,執行猶予者などが保護を願い出た場合に,身体の拘束を解かれた後6月を超えない範囲内において更生保護を行うことができることなどを規定したものであり,保護司法は,保護観察の実行や犯罪予防のため世論の啓発に当たる保護司について,定数,推薦及び委嘱,任期,服務等を定めたものであって,これら犯罪者予防更生法,更生緊急保護法及び保護司法の施行により,更生保護の制度がほぼ整備された。
 犯罪者予防更生法施行当初の更生保護官署としては,法務府の外局として中央更生保護委員会,その地方支分部局として各高等裁判所所在地に地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会,地方少年(成人)保護事務局の事務分掌機関として各地方裁判所所在地に少年保護観察所及び成人保護観察所がそれぞれ設置された。昭和27年8月に中央更生保護委員会が廃止され,法務省の内局として保護局が置かれ,また,地方支分部局における少年及び成人の機関が統合されて,現行の地方更生保護委員会が設置されるとともに,保護観察所が事務分掌機関ではなくなり,保護観察の実施に当たる地方支分部局となった。その後,地方更生保護委員会においては,沖縄の復帰に伴い,同地における仮釈放審理等の事務を迅速・適正に処理するため,九州地方更生保護委員会の合議体の一つを那覇市に置くこととし,また,保護観察所においても,保護観察所における処遇などを効率的に行うため,八王子市,堺市及び北九州市に支部が置かれ,小田原市ほか21箇所に駐在官事務所が置かれることとなった。
 保護観察所がつかさどることとされている保護観察は,犯罪者や非行少年を実社会内で通常の生活を営ませながら,遵守事項を遵守するよう指導監督し,必要な補導援護を行うことにより,その改善更生を図ろうとするものであって,保護観察官及び保護司が処遇を担当することとなっている。保護観察官は,国家公務員であって,心理学,教育学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づく役割が期待され,保護司は,身分上は非常勤の国家公務員であるが,その実質は民間篤志家であって,地域性・民間性等の特色に基づく役割が期待されており,このような保護観察官と保護司の協働態勢による処遇活動により,その一方のみでは得られない処遇効果を期待することが,我が国の保護観察の大きな特色であるとされている。
 我が国においては,保護観察における処遇に対する保護司の寄与は極めて大きいが,保護観察に対する国の責任性を明確にするとともに,保護観察官と保護司の協働態勢の下における処遇効果を一層発揮するためには,保護観察官の専門的知識に基づく主導的な処遇体制が確立されなければならない。このため,昭和46年10月から分類処遇制度による保護観察が実施されることとなった。分類処遇制度は,交通事件により集団処遇を実施することとされている者を除くすべての対象者について,処遇が困難であると予測される者と処遇がそれほど困難ではないと予測される者とに分類し,地遇が困難であると予測される者に対しては,特に,保護観察官による処遇を積極的に行うこととするものであり,このため,保護観察官の各地域への定期駐在が積極的に行われている。
 しかし,保護観察官の定数が少ないこともあり,保護司による処遇への依存度は依然として高く,その民間性,地域性等の特色による役割が期待されているが,近年,保護司の年齢が次第に高齢化する傾向が見られるので,今後,保護観察の効果を一層高めるためには,更生保護に理解と認識を有する青壮年の篤志家をも保護司に委嘱し,これに対する系統的な研修を実施する体制の確立が必要とされている。
 一方,保護観察対象者のうち適当な住居や職業がないなどのため更生を妨げられるおそれのある者に宿所を提供する更生保護会も,保護観察における処遇上不可欠あ存在である。昭和30年代後半以降,処遇の場にふさわしい施設の近代化が進められているが,最近において,更生保護会を積極的に活用して処遇を実施する施策が検討され,54年4月から長期刑仮出獄者に対する中間処遇が実施されるに至っている。この制度は,長期間にわたる拘禁生活によって社会から隔離されている長期受刑者(無期刑及び執行刑期8年以上の受刑者)の円滑な社会復帰を図るため,長期刑により仮出獄を許された者のうち相当と認めるものについて,3月ないし6月の期間更生保護会に居住させ,生活訓練を中心とした処遇及び職業についての援助を行った上,その円滑な社会生活への移行を図ろうとするものである。このように,更生保護会については,処遇が困難であると思われる対象者や集団処遇を必要と思われる対象者に対する処遇の場として活用することへの期待が高まりつつあるが,今後,経営基盤の強化,施設設備の改善,有能な補導職員の採用などにより,更生保護会の処遇機能を充実することが課題となっている。
 このように,処遇における保護観察官の直接関与の動きが活発化する一方,刑法あるいは監獄法の改正作業に関連し,目下,法務省保護局においては,更生保護関係諸法の統合・整備を内容とする更生保護基本法制定のための準備作業が進められている。