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 昭和46年版 犯罪白書 第三編/第一章/五/3 

3 処遇の概要

(一) 教科指導

 昭和四五年の少年院新収容者中,義務教育未修了者は,三七八人,新収容者総数中の九・五%にあたる(前掲III-78表参照)。
 少年院においては,義務教育未修了の収容少年に対し,義務教育修了者の資格を得させることを目的として,初等少年院を中心に,教育関係法令に準拠した中学校課程の教科指導を実施している。初等少年院のうち,とくに九庁は教科指導専門施設に,また他に二庁はこれに準ずる教科指導重点施設に指定され,教科に重点をおいた効率的な指導が行なわれている。
 少年院の長は,教科を修了した者に対して,学校教育法により設置された各学校の長が授与する卒業証書と同等の効力を有する修了証明書を発行できることとなっている。矯正統計年報により,教科指導の実施状況をみると,義務教育未修了者で教科指導を受けた者の修了証明書授与率は逐年高まり,昭和四五年においては約八七%となっている。
 なお,義務教育修了者に対しても,中学校課程の教科指導により,学力の補足を行ない,あるいは高等学校進学予定者に対する補習,高等学校通信教育が行なわれるほか,低能力者に対する特殊教育課程による指導も行なわれ,収容者の特質に応じた多様な教科指導がはかられている。

(二) 職業補導

 少年院に新たに収容する少年のうち無職の者は例年約半数を占めている(昭和四五年の新収容者のうち無職の者はその総数の四九%,1,九四四人である。前掲III-79表参照)。また,収容少年の職業歴をみると,転職を繰り返している者や職業生活に安定できるような知識・技能に欠ける者が多い。このような収容者に対して,労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養わせ,職業生活に必要な知識・技能を授けることを目的として,職業補導が行なわれている。
 昭和四五年一二月末現在実施しているおもな職業補導の種目別人員は,III-83表のとおりである。在院者総数(四,八六〇人)の約八一%,三,九四六人が職業補導を受けており,補導人員の多い種目には農業関係(農耕,園芸,畜産),木材加工関係(木工),金属加工関係(機械,仕上,板金,溶接),サービス関係(理・美容,家事サービス,事務,和文タイプ)等があり,その実施施設数も多い。

III-83表 職業補導種目別実施状況(昭和45年12月31日現在)

 中等少年院および特別少年院では,一般に職業補導を重視しているが,このうち,とくに九庁については職業訓練専門施設と指定され,職員,設備の重点的な整備のもとに,技能士の資格取得のための効率的な職業訓練が行なわれている。これらの施設では,一定の技能習得能力があり,技能の習得によって更生する可能性が高いとみられる者を対象とし,職業訓練法にのっとって,一般公共職業訓練所と同内容の職業訓練が行なわれ,訓練を修了した者に対しては,労働省職業訓練局長から職業訓練履修の証明書が交付されている。昭和四五年における証明書の取得者数はIII-84表のとおりであり,総数四一八人となっている。このほか,電気工事士,自動車整備士,理容師,美容師を養成する学校を設けている施設が一二庁あり,それぞれ担当大臣の指定を受けて,指導が行なわれている。

III-84表 職業訓練履修証明書取得状況(昭和45年)

 少年院では,このように,各種の資格,免許の取得の機会を少年に与えているが,昭和四五年におけるその取得状況はIII-85表のとおりで,取得者の総数は,四,一二六人に及んでいる。その中では,珠算,自動車運転が多いが,近年溶接工の増加が目だっている。このほか,自動車,電気工事,簿記,英語,ラジオなどの講座について,通信教育が実施されており,昭和四四年四月から昭和四五年三月までの受講者総数は一,九三三人となっている。

III-85表 資格・免許取得状況(昭和45年)

(三) 生活指導

 少年院における生活指導の目標は,少年の反社会的な考え方や行動様式などを除去して健全な社会性を発達せしめることにある。このため入院当初には日常生活における基本的な行動様式を身につけさせることを主眼とした指導を行ない,期間の経過にしたがって漸次必要な社会的生活訓練を与え,最後に退院にあたっては出院後の生活設計をたてさせるように指導している。
 具体的な指導方法としては,学級活動,社会教育講座,教育相談,クラブ活動の指導,篤志面接委員による面接などであるが,その他余暇時間におけるレクリェーション場面など収容生活のあらゆる場面で職員による個別指導が行なわれており,また道徳教育も正課に組み入れられている。
 法務省矯正局の調査によれば,昭和四五年中のクラブ活動においては,総数六,六六六人が,各種のクラブ合計五二四に所属し,延べ一八,三七一回の活動に参加している。このうち,美術・工芸,音楽,書道,文芸などの文化系統のクラブ活動は,所属人員三,二三九人で実施回数も一〇,一四九と最も活発に行なわれているが,野球,バレーボール,卓球などの運動系統の活動や,珠算,簿記,孔版などの職業技能系統の活動も広く行なわれている。
 民間の篤志家の助言指導に期待する篤志面接委員制度は,少年院においても活発に実施されており,法務省矯正局の調査によれば,昭和四五年一二月末日現在で,六六二人の委員が委嘱を受けて面接指導を行ない,面接回数は,八,五七三回に及んでおり,その内容は,精神的はんもん,職業相談,家庭相談,教養相談などとなっている。
 性格のかたよりの著しい少年に対しては,個別・集団カウンセリング,心理劇療法,精神筋肉運動療法など各種の心理療法が実施されかなりの効果を収めているが,この種の専門技術者の数が少ないため,一部の在院者に実施されるにとどまっている。なお,生活指導に関する分野の知識・技術の高度化,専門化に伴い生活指導専門職員の充実が進められている。
 少年院における生活は,他の在院者にとり囲まれた集団生活であり,同年齢層の少年間の影響は大きい。とりわけ,夜間,休日などの学寮生活場面においてその相互影響は大きい。そこで,最近,集団相互作用を利用した処遇がとくに重視され,たとえば,学寮生活集団における公式的な係組織の編成による集団活動や,夜間における討議集会活動などが活発に行なわれている。

(四) 賞罰

 在院者が善行をなし,成績を向上し,または一定の技能を習得した場合には,少年院の長は賞を与えることができることとなっている。この賞には,賞状,記章などの賞票の授与と,特別外出,特別帰省または外泊などの殊遇がある。法務省矯正局の調査によれば,昭和四五年にこれらの賞を与えられた人員は延べ一一,〇八四人である。これを事由別にみると,善行によるもの五三四人(総数の約五%),成績向上によるもの八,五八七人(同約七七%),技能の習得によるもの一,九六三人(同約一八%)となっている。また,賞の種類別にみると,そのおもなものは,賞票授与七,三五一人(総数の約六六%),殊遇による特別外出二,三八九人(同約二二%)である。
 他方,在院者が紀律違反をした場合,少年院の長は,[1]厳重な訓戒を加えること,[2]成績に対して,通常与える点数より減じた点数を与えること,[3]二〇日をこえない期間,衛生的な単独室で謹慎させること,の範囲で懲戒を行なうことが許されている。法務省矯正局の調査によると,昭和四五年における懲戒人員は延べ七,〇六六人で,このうち約七〇%は謹慎させられた者である。これらの紀律違反行為は,けんか・暴行等の少年間の粗暴行為が最も多く,そのほか,不正物品所持,喫煙,逃走,自傷行為(入れ墨を含む。),物品窃取などである。
 在院者はすべて,なんらかの形で,一般社会の秩序を乱し,または,乱すおそれが多く,その矯正を目的として少年院に送致されたものである。したがって,入院後もにわかに少年院の紀律ある生活になじめず,少年院における生活にも,またそこで行なわれる生活指導にも,意識的に,または無意識的に心理的抵抗をもつものがあることはやむをえない。さらに,さきに示したように,初入院者の約七二%は,すでに家庭裁判所におけるなんらかの処分を受けている者である。また,資質に問題をもつ者も多い。そのうえに,少年として心身の発達段階上の特質もかかわり,院内の集団生活において,その紀律を乱し,各種の教育活動や指導場面において,その円滑な進行を妨げる行動をする場合はけっして少なくない。法務省矯正局の調査によれば,昭和四五年の在院者中,逃走,乱暴・暴行,ボス的傾向,反則の繰り返しなどをおもな内容とする,このような集団処遇の困難な者は,一,三七九人,総数の二八・六%,やや困難な者一,四二五人,総数の二九・六%で,この両者を合わせれば,集団処遇上問題のある者は在院者の半数をこえ(五八・二%)ている。処遇困難者についてみると,最も高率なのは,男子にあっては医療少年院(医療少年院在院者総数の四〇%),女子にあっては特別少年院(特別少年院在院者総数の四六・七%)となっている。
 在院者に対し,賞が,善行,成績の向上,技能の習得について与えられることは,それらの少年に教育の目標を具体的に示し,自発的な学習意欲を促進・強化することである。これに対し,懲戒は,紀律違反者に対して,いわば応急的抑止的な処置であり,真の対策は,違反行為の原因や背景となる問題を追求し,再発のみならず,これを未然に防止することにある。さきに述べた処遇困難者を含め,在院者の処遇上の問題解決策は,それぞれの少年の特質に対応してたてた矯正についての計画に従って,すでに述べたような院内のすべての処遇が統合され,その目標達成をはかることにあることはいうまでもない。

(五) 医療衛生と給養

 少年院においては,在院者の健康の確保,傷病の予防・治療などを主とする医療および衛生関係の業務が各施設において行なわれているが,さらに心身に著しい故障のある者については,医療少年院にこれを収容し,専門的治療を施している。また軽度の精神薄弱者に対する専門施設も設けられている。
 矯正統計年報によれば,昭和四五年中の出院者(五,二八四人)のうち,休養患者(一般の入院患者にあたる。)の総数は,一,七一四人で,休養患者一人あたりの休養日数は,二一日となっており,非休養患者(一般の通院患者にあたる。)の総数は五六七人である。病名では,消化器系疾患と非伝染性の呼吸器系疾患(その大部分は急性鼻咽頭炎―かぜひき―である。)が最も多く,前者にあっては,休養患者総数の二二・九%,非休養患者総数の一八・三%を,また後者にあっては,休養患者総数の二九・三%,非休養患者総数の一二・九%を,それぞれ占めている。
 矯正施設では収容者の健康管理には細心の注意が払われ,なかでも伝染病の予防については,上下水道やし尿処理設備の改善など,格別の配慮がなされている。
 収容者の日常生活に必要な衣類,寝具,学用品などは,貸与または給与することになっている。ただし,紀律や衛生に害がないかぎり,自弁品の使用が許される場合がある。
 食糧の給与は,ひとり一日三,〇〇〇カロリーであって,昭和四五年度のひとり一日当たりの主食費は,六六・七三円,副食費は,四六・三五円である。その他,心情安定食二・九四円のほか,年一回の誕生日菜や年一一回の祝祭日菜(それぞれ二五円)が認められ,国民一般の慣習に近づけるよう努力がつづけられている。