前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和35年版 犯罪白書 第三編/第二章/一/2 

2 受刑者の数

(一) 刑名別にみた受刑者

 受刑者は,刑の種類によって,三つに分けられる。懲役受刑者,禁錮受刑者および拘留受刑者である。III-2表は,過去五年間における年末人員数を示すもので,五年間を平均して,受刑者の九九・九三パーセントが,懲役受刑者である。そして,禁錮受刑者の数のいちじるしく少ないことが目だつ。

III-2表 刑名別受刑者年末人員

(二) 刑期別にみた受刑者

(1) 刑期別人員

 受刑者のほとんどすべてにあたる懲役受刑者について,その刑期がどのくらいかをみよう。III-3表は,最近一〇年間における新受刑者の刑期別人員の百分率をあげている。

III-3表 懲役新受刑者の刑期別人員の百分率

 これによると,比較的短い刑期のものが多く,刑期一年以下のものが,全体の五五・五パーセントで,これに一年をこえ二年以下のものを加えると,じつに八五・五パーセントになる。短期受刑者の処遇が矯正の当面する大きな問題であることがわかる。

(2) 短期受刑者

 刑期の点でまず問題があるとされているのは,短い刑期の者つまり短期受刑者である。およそ,受刑者の処遇は,その各人に関する人格調査つまり分類と,その分類にもとづくふさわしい処遇方法と,ゆきとどいた釈放の準備との三つの基本的な段階を経なければ,十分なものとはいえない。短い刑期では,とうていこのような組織だった処遇ができず,受刑者に拘禁の悪影響をおよぼすだけで,ふたたび社会にだすことになるわけである。かようなわけで,いわゆる短期自由刑の問題は,短期自由刑が受刑者の矯正には役だたないばかりか,むしろこれを悪化させるおそれがあるというところに,その核心をもっているのであるが,他面において,また,短期間の自由剥奪では,犯罪を抑制するという一般予防上もさほど役だたないであろう,ともいわれている。要するに,短期自由刑は刑事政策的に望ましくない,とふるくから一般にいわれてきているのである。それは,国際会議でもしばしば指摘され,今年の八月にロンドンで予定されている国際連合の犯罪予防および犯罪者処遇に関する第二回国際会議も,これを議題の一つにとりあげている。
 わが国の短期受刑者の数をみても,刑務所に関するかぎり,戦前の昭和七年から昭和一〇年にかけて新受刑者総数の二〇・二パーセントをしめていた刑期六月以下のものが,最近の一〇年間においては,その約半分にあたる一二パーセントを示し,とくに,三月以下の者の減少がいちじるしいのは,短期自由刑を避けようという趣旨にそったものかどうかは問題であろうが,とにかく注目すべきことである。

(3) 長期受刑者

 他面において,長期の自由刑によるいわゆる刑務所化(プリゾニゼーション)が受刑者の社会復帰をさまたげるのではないかというので,長期刑にもまた問題がある。III-4表は,比較的長期の受刑者がどのくらいいるかを,戦前および戦後の各一〇年の平均についてみたものである。これによると,戦後一〇年間におけるほうが,戦前のそれにくらべて,その実数においても,割合においても,ふえていることがわかる。

III-4表 長期受刑者の刑期別人員と千分率

 つぎに,このような比較的長期の受刑者の再入状況がどうかを,こころみに,行刑統計年報により,昭和三三年中の再入受刑者のうち前刑が懲役刑のものについてみてみると,総数二七,一〇三人のうち,前刑の刑期が五年をこえ一〇年以下のものが四八四人,一〇年をこえ一五年以下のものが四三人,一五年をこえ二〇年以下のものが四人,無期であったものが一四人となる。「無期であったもの」というのは,無期受刑者であったのが仮釈放で釈放されたものである。ついでながら,この前刑が無期であった者の再犯期間をみると,一四人のうち三人が仮釈放後三月未満の期間内に,二人が三月以上六月未満の期間内に,おなじく二人が六月以上一年未満の期間内に,四人が一年以上二年未満の期間内にそれぞれ再犯し,その他の三人は,二年以上三年未満,三年以上四年未満および四年以上五年未満の期間内に,各一人ずつが再犯したことになる。しかし,他面において,一四人のうち一人を除いては,みな五年以下の刑をうけている。ふたたび無期刑を科された者はない。

(三) 罪名別にみた受刑者

 受刑者がどのような罪で入っているかな昭和三三年末現在でみると,III-5表のように,窃盗が圧倒的に多く,全体の約五四パーセントをしめ,これを含めた財産犯は,じつに約八一パーセントに達している。また,殺人や傷害などいわゆる身体犯も約二八パーセントと,かなりの高率をみせている。

III-5表 罪名別性別受刑者数(昭和33年末現在)

 つぎに,このような罪名別の戦後の推移を概観すると,まず,昭和三三年中に入所した新受刑者の罪名別構成は,III-2図のとおりであり,また,その主要な罪名について昭和二一年以降四年おきにその推移をみたのが,III-3図から同5図までの各図である。終戦後の推移としてうかがわれる傾向は,窃盗のしめる比率がしだいに減少していること(III-3図),詐欺も,昭和三三年は,昭和二九年にくらべて一七パーセントの減少を示しているが,これに対して,傷害,殺人,猥褻,姦淫および放火は,一様に増加しており(III-4図),また,おなじ財産犯でも,強盗,恐喝のようないわゆる粗暴犯がふえているなどである。

III-2図 罪名別新受刑者数の百分率(昭和33年)

III-3図 窃盗新受刑者数の率

III-4図 詐欺・強盗・恐喝新受刑者数の率

III-5図 傷害等新受刑者数の率

(四) 年齢別にみた受刑者

 受刑者の年齢を昭和三三年末現在でみると,III-6表のとおり,二〇才台の者がもっとも多く,総数の五四パーセントをしめ,つぎが三〇才台の二八パーセント,さらに,四〇才台の一一パーセント,五〇才台の六パーセント,二〇才未満の一パーセントという順になっている。

III-6表 年齢別受刑者数(昭和33年末現在)

 この年齢別人員の戦後における推移をみると,III-6図(年齢構成を四つの段階に分け,百分率によって,昭和二一年以降四年おきに比較したもの)のように,二〇才未満のしめる割合がしだいに減少している。これは,昭和二四年の新少年法と少年院法との施行によって少年犯罪者に対する保護処分が活用され,昭和二六年からは少年年齢の引き上げが実現したのにともない,少年受刑者数が減少したのによるものであろう。なお,昭和二九年と昭和三三年のあいだには,年齢構成のうえで変化はほとんどみられない。

III-6図 年齢別新受刑者数の率

 受刑者の年齢に関連して注目すべきは,罪名別にみた若年受刑者である。III-7図には,昭和三三年にあらたに入所した二五才未満の者につき,その罪名別の構成を示した。全収容者の罪名別の比率についてのIII-2図とこれとをくらべると,窃盗がやはり全体の約六〇パーセントで第一位であることはかわりないものの,強盗,傷害および恐喝のいわゆる身体犯は,詐欺と入れかわって上位をしめ,その比率もかなり高いことが一つの特徴といえる。

III-7図 罪名別25才未満新受刑者数の率(昭和33年)

 III-8図は,強盗,恐喝および傷害について,毎年あらたに入所した三〇才未満の受刑者を対象として,昭和二一年以降四年おきにその推移をみたものである。終戦後の状況を通じてうかがわれる傾向は,傷害のしめる比率が一様に上昇し,また,強盗と恐喝も,昭和三三年には,昭和二九年にくらべてかなり増加していることである。

III-8図 強盗・恐喝・傷害の30才末満新受刑者数の率

(五) 性別にみた受刑者

 昭和三三年中にあらたに入所した者について受刑者の性別の割合をみると,総数四六,三九二人のうち,女子は一,〇四一人で,二・二パーセントにすぎない。III-9図は,昭和二一年から昭和三三年までの女子の新受刑者数の消長をグラフにしてみた。これによると,昭和二三年をピークとして,以後しだいに減少してきたが,昭和三〇年には第二のピークを示し,以後ふたたび減少の傾向をたどっている。

III-9図 女子新受刑者数

 女子受刑者の罪名をみよう。III-10図は,窃盗および詐欺について,昭和二一年以降,四年おきの推移をみたものであるが,これによると,昭和二一年と昭和二五年とには,それぞれ,約七五パーセントと八五パーセントとをしめた窃盗と詐欺との比率が,昭和二九年には五三パーセント,昭和三三年には六〇パーセントと,大幅な減少をみせている。これは,昭和二六年に覚せい剤取締法が,昭和二八年に麻薬取締法が,それぞれ施行されたことにより,覚せい剤および麻薬に関する犯罪が,女子犯罪に大きく入りこんできたのによるものとおもわれる(III-11図参照)。

III-10図 窃盗・詐欺の女子新受刑者数の率

III-11図 覚せい剤・麻薬の女子新受刑者数の率

(六) 犯数別等からみた受刑者

(1) 初犯者と累犯者

 昭和三三年中にあらたに入所した者について受刑者の犯数別人員数をみると,行刑統計年報によれば,初犯者が一九,七四五人,累犯者が二六,六四七人で,その百分率は,四三対五七である。戦後におけるこの両者の割合の推移をみると,第一編第一章で述べたように,終戦直後にきわめて多かった初犯者の数は,その後年ごとに減少し,昭和二六年には累犯者の数にいちじるしく接近し,昭和二七年には,逆に,累犯者数を下回る状況となり,その後もおなじ傾向をつづけている。このように新受刑者中にしめる累犯者数の優位の傾向は,最近七年間のいちじるしい特徴で,III-12図にあるように,戦前にもあまりみなかったことである。

III-12図 初犯・累犯別新受刑者数

 つぎに,昭和三三年における初犯者と累犯者との割合を年齢別に百分率でみると,III-13図のように,二〇才未満の少年は,その大部分が初犯者で,累犯者はわずか二パーセントにすぎないが,二〇才から二四才までの青年層では,累犯者が三一パーセントをしめ,かなり高くなっている。それでも,両者の比率は七対三で,初犯者が圧倒的に高い。これに対し,二五才から二九才までの年齢層におけるその比率はまったく逆で,累犯者が圧倒的に高い。三〇才以上では,累犯者の比率はさらに高くなるが,三〇才台,四〇才台および五〇才台のには,あまり差異がみられない。

III-13図 年齢別初犯・累犯別新受刑者数の率(昭和33年)

(2) 再入受刑者

 再入受刑者とは,前に禁錮以上の刑に処せられ,出所後にさらに罪を犯し,ふたたび禁錮以上の刑に処せられて入所した者をいう。刑法上の累犯者よりもひろい概念だが,ここでは,出所後一〇年を経て再入所した者は,いちおう除外した。
 ところで,戦後における再入受刑者数の推移は,III-14図にみるように漸増の傾向にあるが,昭和三〇年を頂点として,ここ二,三年は停滞している。しかし,他方において,ここ二,三年間の新受刑者数が減少しているため,再入受刑者数の新受刑者数に対する比率は逆に高まっており,昭和三三年は戦後の最高となっている(III-15図)。

III-14図 再入受刑者・新受刑者の数

III-15図 新受刑者数中の再入受刑者の百分率