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 昭和35年版 犯罪白書 第三編/第二章/一/3 

3 受刑者の処遇

(一) 行刑運営の三つの原理

 矯正運用の基本原理は何か。これを端的に表明したのは,昭和二一年一月四日の司法次官通牒である。この通牒は,行刑の運用にあたり準拠すべき三個の原理を掲げている。その一は,人権の尊重に関する原理である。受刑者は,その自由を剥奪されるだけで,生命,身体,財産などについてのその固有の権利をすべて失うものでない。だから,偏見を去り,煩雑をいとうことなく,それらの権利を尊重せねばならぬ。さらに,行刑の目的に反しない限度で,受刑者に処遇に関する意見を陳述する機会をあたえるのは,やがては受刑者を道義的に更生させる基礎である。しかし,この原理は,他面,節度を失った受刑者の要求を容れるなんらの口実となるものでない。そのようなのは,正当な権利の行使でないことを本人および関係者に十分に納得させるようにせねばならない。
 その二は,更生復帰に関する原理である。受刑者本人の道義的,社会的更生を期待することは,単にその正常な人間性を啓発して本人とその家族に幸福をもたらすばかりでなく,ひいては健全な社会の確立にも寄与するものだから,処遇上いろいろの手段を講じて,道義的更生に対する本人の関心をよびおこすようにしなければならない。もとより,それを促す手段は,正規のものに準拠することを要する。ある手段がたとえ個別的にいかに有効とおもわれるときでも,人権尊重の原理にもとるようなもの,たとえば体罰のごときは,厳に禁止せねばならぬ。
 その三は,自給自足である。受刑者は,みずからの勤労によって必要な衣食の費用を補填し,いやしくも国民の負担で無為徒食すべきでない。矯正職員の十全な作業経営のもとで,収容に要する費用と作業による収入とは,つねに対照され,前者は後者によって補填されるように努めなければならない。
 これらの三つの原理は,受刑者を真に健全な社会人としてふたたび実社会に復帰させるという矯正の理念に由来する。わが行刑は,この理念にもとづいて運営されることになっている。

(二) 受刑者の分類

 受刑者の社会復帰をはかるため,受刑者のひとりびとりにもっとも適した処遇と訓練とをあたえ,矯正施設としての刑務所の機能をもっとも効果的に発揮するための制度に,まず,受刑者の分類がある。昭和二四年から実施された受刑者分類調査要綱(法務総裁訓令)は,新しい分類制度の確立を企てたもので,実証諸科学にもとづく多角的な分類調査の方法と,その結果を十分に生かすための施設単位の収容分類などをさだめている。

(1) 分類調査

 分類調査の方法は,医学,心理学,社会学,教育学など諸科学の知識をとり入れてするとともに,その調査の結果は分類調査票に要約して処遇の基礎として活用し,入所時にかぎらず,その後も定期または臨時に再調査を行ない,たえずこれを修正することになっている。分類調査の方法の一つである心理テストに例をとれば,現在行なわれているのは,主として集団知能検査,クレペリン作業素質検査,職業適性検査などで,そのほか,必要に応じ,各種の個別および集団のテストがある。

(2) 分類収容

 分類調査の結果を生かし,それぞれの分類された級に応じた処遇をするために,分類収容の方法がとられている。その分類の基準は,受刑者の改善の見とおしを基調とし,国籍,性,年齢,刑期,心身の故障などにおかれる。
 現行の分類級別は,つぎの一〇種で,受刑者は,原則として,このうちどれかの分類級に配分され,それぞれ分類級に応じた施設に収容される。
A級 成人男子中,性格がおおむね正常で,改善容易とおもわれるもの
B級 成人男子中,性格がおおむね準正常で,改善困難とおもわれるもの
C級 成人男子中,刑期のとくに長いもの
D級 少年法の適用をうける男子少年
E級 G級のうち,おおむね二三才未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの
G級 A級のうち,二五才未満のもの
H級 男子中,精神障害者または精神障害者に準じて処遇する必要のあるもの(うち,さらに,精神薄弱者をHX級,精神病質者をHY級,精神病者をHZ級に分ける)
K級 男子中,身体の疾患または故障,老衰などにより,相当期間の療養または養護を必要とするもの(うち,さらに,身体疾患者をKX級,盲ろうあ,肢体不自由などの身体障害者をKY級,老衰者および身体虚弱者をKZ級に分ける)
J級 女子
M級 外国人
 昭和三四年一二月一日現在における分類級別人員は,III-7表のように,B級がもっとも多く,これにつぐのが,A級とG級である。なお,H級とK級とは,できるかぎり医療刑務所に収容して,治療的処理をしている。

III-7表 受刑者の分類級別人員(昭和34年12月1日現在)

 かように,受刑者は,分類級別に応じて,異なる施設に収容され,それぞれに適応した処遇をうけることになるが,各級別に出所後五年間の再入率をみると,級別によって差があり,犯数別,年齢別,性別などにょる再入率の差よりもいちじるしいことがわかる(III-8表9表参照)。

III-8表 分類級別出所者の再入率

III-9表 犯数別性別年齢別再入率

 さらに,これを昭和二五年の出所者と昭和二八年の出所者とについてくらべてみると,C級,E級,H級などにおいて後者が再入率の低下をみせている。これは,あるいは長期受刑者として,あるいは,とくに少年に準ずべきもの,または精神障害者として,それぞれ,特別な処遇をした結果ではなかろうかとおもわれる。

(3) 分類処遇

 分類級別によって特定の施設に収容された受刑者でも,それらの者は,あるいくつかの要因が共通だというだけで,その具体像は千差万別なわけである。そこで,同一施設内における分類処遇ということが,また,別の角度から,必要となってくる。
 この要請に応ずるため,受刑者分類調査票には,各受刑者の生活歴,精神状態,保護関係などの詳細な記載をはじめ,処遇上の指示として,居房配置,事故予測,適当作業,職業訓練の方法,構外作業の適否および教育上または保護上の注意などが詳しく記され,適正な処遇を可能ならしめる配慮がはらわれている。そして,精神障害者またはそれに近い徴候を示す者に対しては,とくに精神医学的配慮がはらわれ,薬物療法,集団ないし個別の心理療法など,各種の科学的方法がとられるよう指示される。また,いわゆるやくざ,ぐれん隊などの不良集団所属者については,施設内における分散収容につとめ,居房指定や作業指定などにも特別の考慮をはらい,事故を未然に防止するよう意をもちいている。

(4) 分類センター

 分類制度をさらに前進させるために,昭和三二年から中野刑務所が発足し,あらたに刑の確定した受刑者につき,中央分類刑務所の役割をはたすことになった。ここでは,充実した専門家達による強力な分類調査を行なうとともに,一定の分類級(現在ではG級の一部)を自所に収容して,科学的に処遇方針の試行と検討とを行なっている。この分類センターとしての仕事は,昭和三二年一月六日,東京拘置所からはじめて一七人の新入受刑者をうけ入れて開始され,昭和三四年末までに延べ二,九三三人の分類をすませ,自所収容者を除いて各施設に移送しているのである。現在の月間分類件数は,約一九〇件である。また,自所収容者については,オリエンテーション(新入教育)が行なわれるほか,生活指導,教科指導,レクリエーション,グループ・ディスカッションおよび外部機関との就職懇談会が活発である。
 昭和三三年四月からは,このようなモデル処遇の一つとして,木工,洋裁,機械,靴工および印刷の職業訓練が開始され,ひきつづいて,理容,孔版印刷,ボイラー,自動車整備,園芸,調理,左官,電工などが追加された。昭和三四年九月までに合計一四四人が一年間の訓練をおわり,また,昭和三五年一月末現在で二二五人が訓練をうけている。このモデル施設の処遇をうけて出所したのは,昭和三四年末までに四〇九人で,その釈放後の成行も追求調査することになっている。

(三) 累進処遇

 分類とともに,受刑者処遇の基本となっているのは,累進制度である。これは,犯罪者に対する改善主義にもとづいて発展したものである。自由刑を執行するにあたり,いくつかの階級を設け,はじめは受刑者をその最下級に編入し,本人の行刑成績や改悛の状に応じ,しだいに上級の階級に進級させ,最初には制限されていた処遇をおいおいに緩和するとともに,これにともなう責任を強化して,最終段階では仮釈放を考慮しようとするもので,受刑者に希望をあたえ,自発的な改善努力を促し,かつ,責任観念の養成をはかろうというのがその趣旨である。
 わが国の刑務所では,すでに,早くから各種各様の累進的処遇をこころみていたが,全国的に統一して実施されるようになったのは,行刑累進処遇令の実施された昭和九年一月一日以降のことで,四級から一級にいたる四段階がある。この各級に属する人員は,昭和三三年一二月末現在でIII-10表のとおりである。
 行刑累進処遇令によれば,新入者は独居拘禁に付し,身上調査をおわったものは四級に編入し,行刑成績の向上とともに,順次上級に進級を許される。そして,交談の制限,拘禁の場所,検身,捜検,遊歩,工場用務者の選挙,作業指導の補助,自己用途物品や自弁購入物品や自用金額の範囲,自己労作や教誨の取扱い,図書閲読や私本閲読の取扱い,ラジオやレコードの聴取,集会の制限,競技や集団散歩への参加,写真,花,書画の備え付け,衣類,食器その他の雑具の取扱い,接見,書信の範囲および回数や立会の要否,仮釈放の取扱いなどについて,しだいに優遇されてゆき,一級者には,検身捜検の免除,交談の自由,構内独歩,無戒護就業,作業指導監督の補助,図書室利用,集団散歩などが許可されうることとなっており,拡大された自由を体験させることになっている。

III-10表 累進級別受刑者数と率(昭和33年12月末現在)

 しかし,これらのうち,たとえばラジオ聴取,競技,運動への参加,新聞抜萃の閲読などについては,実際上の処遇差はつけがたくなってきており,また,作業の業種変更,外部との交通,図書閲読などについて階級差をおくことの必要性については,近代行刑のあり方という観点から再検討されつつある。

(四) 刑務作業

(1) 作業の内容

 刑務作業は,物品製作作業,加工修繕作業,労務提供作業,経理および営繕作業の五種類に分けることができるが,また,別の観点から,これを有用作業,低格作業,自営作業の三つに区分することもできる。すなわち,本人の更生にも役だち,国家収入の面からも有利な作業(たとえば木工,印刷工,洋裁工,金属工,革工など)を有用作業といい,内職的手工作業で,本人の更生上からも国家収入の面からも好ましくない作業(たとえば紙細工,藁工,メリヤス工など)を低格作業といい,刑務所自営のための作業(たとえば炊事,清掃など)を自営作業という。
 刑務作業としては,全面的に有用作業を実施し,職業訓練を活発にしてゆくのが矯正の目的からも望ましいわけであるが,国家予算その他の関係からむずかしいばかりでなく,受刑者のうちには精神障害者や老弱者など有用作業につくことのできないものも相当にあって,これらの者に対しては,治療と養護との観点から,適当な軽作業につかせている。
 有用作業,低格作業および自営作業ではIII-16図のとおり,低格作業のしめる割合がもっとも多く,これに有用作業と自営作業がつづいている。

III-16図 刑務作業業種別就業人員と率(昭和33年度一日平均)

 さて,刑務作業によって国庫収入を得ることは一つの重大な関心事であるが,その実績は,つぎのIII-11表のとおり,受刑者の収容に要する費用をつぐなうにはたりないが,ともかくも,作業費の支出額に対して,その約二倍の収入をあげている。

III-11表 収容・作業費の収支額と率

 そこで,自給作業にふれておこう。
 刑務所では,自給自足の原則にたって,収容者用品や刑務作業の原材料などを製造するようにはかられている。このような自給作業の種類は,収容者用被服(原反織りから縫製まで一貫作業)味噌醤油,各種の石けん,塵紙,歯磨粉の類から,各種の事務用紙,洋紙,和紙など印刷用材料のほか,印刷用インキなどまで,その種類は二二種,年間の生産額は約一八,八〇〇万円にのぼる。このほかに,各施設の需要をみたしている木工,印刷,洋裁,農耕などの作業がある。このうち,農耕作業については,全国の施設で消費する農作物総使用量約一七,五〇〇トンの二九パーセントにあたる約四,五〇〇トンは,刑務所の農場で生産し自給しているのである。

(2) 作業時間

 刑務所の作業時間は,休憩時間を除き,一日について八時間,一週について四八時間と法務大臣の訓令でさだめられている。ここでも,八時間労働と週休制とが確立されているのである。そして,さだめられた休日をさしひくと,年間の作業日数は,ほぼ三〇〇日となる。

(3) 作業賞与金

 作業に従事した者には,作業賞与金が給与されることになっているが,これは,労働の対価としての賃金ではなく,作業の奨励と釈放後の更生とのために,恩恵的に給与されるものである。作業賞与金の額は,就業者の行状や性向や作業の種類や成績などを斟酌して計算されるが,行状が不良で作業成績の劣等な者については,計算しないことができることになっている。作業賞与金は,釈放のさいに給与するのが原則であるが,家族の扶助や被害者に対する賠償や書籍の購入など必要のある場合は,在所中でも刑務所長の裁量によってその一部を給与することができ,また,累進処遇令の適用をうける懲役受刑者は,階級に応じて毎月の計算額の二分の一ないし五分の一に相当する金額を使用できることになっている。III-12表は,昭和三三年度の作業賞与金の給与額であるが,このようなわずかな額では,釈放後の更生にはもちろん,労働意欲を旺盛にするにもたりないので,増額が懸案とされている。

III-12表 作業賞与金の給与額(昭和33年度)

(4) 自己労作

 懲役受刑者は,刑法によって定役を強制されるが,このほかに,受刑者自身のための労作時間をもつことが許されている。これを自己労作といい,刑務所内の成績が優秀な受刑者は,さだめられた作業時間外に,一日に二時間以内,自己のためにする労作に従事できることになっており,これによって生じた収益金(債金)は,すべて受刑者自身の収入となる一種の内職的な作業である。
 現在,数ヵ所の刑務所で月間三〇〇人以上の受刑者に刺しゅう,ビーズ編みなどの種目の自己労作を実施しており,平均して一ヵ月七〇〇円以上の収益をあげている。

(5) 職業訓練

 受刑者が出所後ふたたび犯罪を犯すことなく社会に定着するための手段の一つとして,職業訓練は重要な地位をしめている。
 現在,刑務所では,木工,印刷工,金属工など技能工の受験資格をあたえるための職業訓練と,美容,理容,自動車運転など資格免許の取得を必要とする職種の職業訓練とを実施しており,種目は三〇数種類にのぼっている。実施科目や訓練内容などは公共職業訓練所とほとんど同程度の水準で,訓練期間の多くは一年コースである。なお,昭和三三年度中に職業訓練を終了した者は二,一九九人で,これに要した予算は二七,六三一,八五一円である。
 昭和三三年中に,資格免許の取得を必要とする職種の職業訓練を終えて在所中に受験した者とその合格者は,次のIII-13表のとおりである。また,法務省矯正局の調査によれば,昭和三三年中に職業訓練を終えて出所した者の再犯状況をみると,再犯率は一九・七パーセントで,職業訓練をうけずに釈放された者の三二・三パーセントにくらべてはるかに下回った数字となってあらわれている。

III-13表 職業訓練による資格免許試験合格者数と率(昭和33年)

(6) 構外作業

 作業は,これを実施する場所によって,構内作業(塀の内の作業)と,構外作業(塀の外の作業)とに区分される。構外作業は,主として農耕,伐木製炭,構外土工などである。戦後は,道路開発,電源開発,河川改修などの国土開発事業に多くの受刑者を就労させていたが,III-17図にみるように,昭和二八年を境として,その人員がいちじるしく減少してきている。これは,施設の復旧にともなう構内作業の充実や職員定数の減員と土木機械の発達にともなう労務需要の減少などにもよろうが,おもな原因は,一般の自由労務との調整によって,構外作業が減少してきたのによるものである。

III-17図 構外作業就業人員

 構外作業場には,通役作業場と泊込作業場があるが,泊込作業場も外塀のない開放的なのが多い。出業者には,実際は,行刑累進処遇による上級の者や,行状が良好で逃走のおそれのない者が選ばれる。
 そうしたところからも,構外作業は,受刑者の社会復帰の準備のための中間的処遇として,重要な意義をもっているのである。一例として,山形刑務所の構外作業場である最上農場をあげよう。真室川のほとりのまったく開放的な雰囲気の農業訓練所である。そこでの訓練期間は満一年で,農業経営に必要な教育については,県立農事試験場で現に実施している農業講習所や高等学校農業科の教育要領を参考として作成した訓練科目を,専任農業技官二人のほか篤志外来講師の援助をえて実施し,また,自動耕耘機運転免許,農薬取扱資格および測量士補の資格の取得などをも教育目標としている。訓練生の選考基準は,(イ)受刑者分類調査要綱にもとづくA(初犯者),G(初犯若年者),D(少年)の各級受刑者およびC(長期者)級のうちの初犯者であって,訓練期間内に釈放事由の生じないもので,訓練終了後ただちに仮釈放の可能な者,(ロ)年齢がおおむね二〇才以上三五才未満で保護環境もよく出所後は確実に農業に従事するという意志強固な者,(ハ)新制中学卒業またはこれと同等以上の学力のあると認められる者,(ニ)行状良好で構外出役に適する者,(ホ)健康で帰農に適する者,(ヘ)知能指数九〇以上で精神疾患のない者であることなどである。訓練科目の時間は,(イ)普通学科四〇時間,(ロ)専門学科七一〇時間,(ハ)実習一,六五〇時間,合計二,四〇〇時間である。訓練の結果は,きわめてよく,昭和三二年六月一日の第一回入所者二五人についてみると,(イ)自動耕耘機免許試験に二〇人受験して一七人(八五パーセント)が合格し,(ロ)出所後の就職状況は農業二二人,その他三人で,(ハ)再犯者は皆無である。昭和三三年七月一日の第二回入所者二六人については,自動耕耘機免許試験に二二人受験して一〇〇パーセント合格し,毒劇物取扱者試験にも一八人受験して九人の合格率を示し,また,測量士補免許試験にも六人受験中であり,出所後は二六人がみな農業につき,再犯者は,これまた,皆無である。昭和三四年六月二九日から第三回の入所者二六人が訓練に入った。

(五) 教育

(1) 宗教教誨

 刑務所における宗教教誨は,受刑者の品性を陶冶し,矯正教育の根幹である精神的基盤を確立するのにもっとも重要な施策の一つである。信教の自由を保障しつつ受刑者の信仰心を助長する趣旨で,民間宗教家によって行なわれている。現在,受刑者の希望に応じて刑務所に来訪する宗教家は,全国で一,一二一人の多数にのぼっているが,日本宗教連盟(都道府県宗教連盟を含む)に設けられた宗教教誨委員会の推薦によるものと,これと関係のない特志の宗教家とに分かれる。これらの宗教家に対する謝金は,年間六〇万円で,来訪一回についてわずか三五円という少額である。
 宗教教誨は,特定の教義にもとづく教誨を希望する受刑者たちを集めてする集合教誨と個人を対象とする個人教誨とに,大別される。とくに死刑確定者に対する教誨は,死刑囚の安心立命を得させるのにきわめて大切であり,これにあたる宗教家はとくに熱心である。このほか,小集団のグループを対象とする宗教集会として,宗教研究会,仏典研究会,聖書研究会,信仰座談会などがある。その実施状況は,III-14表のとおりである。

III-14表 全国刑務所の宗教教誨実施状況(昭和34年)

(2) 篤志面接委員制度

 わが国にこの制度ができたのは,昭和二八年であるが,この制度は,部外の有識者を篤志面接委員に委嘱して,受刑者のもついろいろななやみや相談ごとなどにつき助言と指導をあおぎ,受刑者の更生意欲をもりたてようとするものである。篤志面接委員の数は一,一五四人(昭和三三年末現在)で,その助言と指導は,III-15表によると,精神的煩悶に関するものが圧倒的に多い。

III-15表 全国刑務所の篤志面接実施件数(昭和33年)

(3) その他の教育活動

(イ) 入所時教育と出所時教育
 新しく矯正施設に入所した者の精神の安定をはかり,受刑生活に必要な知識をあたえるとともに,矯正教育の意義を理解してみずから更生にはげむ意欲を喚起するため,入所後一五日以内に入所時教育が行なわれる。また,出所のせまった受刑者に対し,社会生活に復帰するについて必要な知識を補充し,更生の意欲と自信とをあたえるため,出所前の一〇日以内にほどこされるのが,出所時教育である。
(ロ) 教科指導
 受刑者のうちには,義務教育を終了しない者が,四六・二パーセントあり,約一・四パーセントはまったくの文盲である。これらの者に対して教科指導が行なわれ,文盲者には,主として読み書きや四則計算などを,その他の者には,必要に応じ,余暇時間を利用して,国語,算数,社会などの教科をさずけている。受刑者の学歴は,III-16表のとおり,中学校卒業または中退程度がもっとも多く,小学校卒業またはその中退がこれについでいる。

III-16表 新受刑者の学歴別人員等(昭和33年)

(ハ) 通信教育
 通信教育は,知的教養をたかめるために,受刑者の能力に応じて実施されている。受講者は,受講料など,経費のすべてを国費でまかなう公費生と,それ以外の私費生とに分けられるが,最近の受講者数は,III-17表のとおりで,経費の点から,まだ,受講希望者のすべてを受講させるにはいたらない現状である。なお,受講者のうち,きわめて良い成績をあげる者が少なくなく,毎年二五,六人が,成績優秀者として文部大臣から表彰されている。

III-17表 成人受刑者中の通信教育受講人員(昭和33年)

(ニ) 生活指導
 生活指導は,受刑者が出所後の社会生活で円滑な集団生活のできるのに必要な対人関係の調整につき社会的訓練をあたえるのを目的とする。生活指導の方法には,集団指導と個人指導とがあるが,集団指導としては,部外の学識経験者に依頼して,必要な講話を毎日行なうほか,所内放送を利用して,社会教育的な内容をもつ番組を作って夜間聴取させるとともに,法務省矯正局の企画による教養番組を,毎週三回,日本短波放送を通じ,全国の矯正施設に向け放送して聴取させている。また,個別指導の方法としては,篤志面接委員による面接指導のほか,収容者の申出に応じて,随時,職員が面接指導にあたっている。
(ホ) 視聴覚教育
 視聴覚教育は,収容者の視覚と聴覚とに訴えて興味深く行なうことができるので,一般に効果をあげているといえよう。昭和三三年度の実施状況は,III-18表のとおりである。

III-18表 全国刑務所の視聴覚教育実施回数(昭和33年)

(六) 給養

(1) 給食の現状

 少年施設を含めて,収容者の食糧は,主食は,米麦混炊が原則で,一日の熱量は,労働の程度により,一,六〇〇カロリーから三,〇〇〇カロリー,また,副食は各栄養素やビタミンについて基準量がさだめられ,熱量は一日約五〇〇カロリーである。少年と病人には,副食に特別な配慮が加えられることになっている。
 この基準は,やや主食偏重のきらいがあるとともに,副食については,動物性蛋白および脂肪の増量と品質の向上とが望まれる。III-19表は,主食の基準で,III-20表は,副食の栄養基準である(ともに,病人,姙婦,外国人には,別の基準が定められている)。収容者の食費を一般国民のと比較したのがIII-21表で,これによると,主食には,さほどの差はないが,副食は,なお,大きなへだたりが認められる。

III-19表 矯正施設収容者一人一日の主食基準量

III-20表 矯正施設収容者一人一日の副食栄養基準量

III-21表 矯正施設収容者と国民との一人一日の食費

(2) 栄養状態

 収容者の栄養状態はどうか。昭和三二年の男子受刑者および少年院の男子収容者に対し,国民栄養調査に準じて行なった調査の成績と,同年度の国民栄養調査成績とを比較すると,III-22表23表のとおり,収容者の栄養状態は,一般的に見ても,昭和三〇年度の調査時よりも向上していること,体位は一般国民と大差がないこと,栄養の摂取は,蛋白質,カルシウム,ビタミンの摂取は一般国民に劣らずむしろ多量であるといえるが,動物性蛋白質の摂取ではいちじるしく劣っていることがわかる。栄養欠陥による身体症候の発現率を調査したIII-24表によると,収容者は一般国民にくらべてその発現率が高く,収容者の内面的栄養状態の改善の必要をものがたるものといえよう。そして,保護少年にこの傾向のいちじるしいのは注目されねばなるまい。対策としては,動物性蛋白質の増量とともに,調理などによる栄養分の損失をできるだけ少なくすることで,冬期の寒冷地では,食品の栄養成分の保持,脂肪給与量の増加,保温食など,給食について特別の配慮がおいおい実行にうつされている。

III-22表 矯正施設収容者と国民との身体計測値(昭和32年)

III-23表 矯正施設収容者と国民との一人一日摂取栄養量(昭和32年)

III-24表 矯正施設収容者と国民との身体症候発現率(%)(昭和32年)

(3) 衣類,寝具

 施設収容者には,一定の衣服と寝具などが貸与されており,少年院や少年鑑別所や婦人補導院では,紀律と衛生とに害のないものにかぎり,自弁が許され,受刑者にはシャツの自弁が許されている。拘置所では,刑事被告人は原則として自弁であるが,自弁できない者には,衣類や寝具が貸与される。
 衣服や,寝具などの種類,材料,色調などは,受刑者,刑事被告人,保護少年,婦人補導院在院者でそれぞれ多少ちがった様式がさだめられている。一人あたりの年間衣服費は,刑務所が二,〇〇四円九〇銭,少年院が三,四八五円五六銭,少年鑑別所が二,六九七円五〇銭,婦人補導院が一,三五〇円(いずれも昭和三三年度)とされている。ちなみに,昭和三三年度の一般国民の衣服費は,都市平均で八,一四八円(総理府統計局の家計調査)である。寒冷地では,現に,衣服寝具の改善のために科学的な基礎調査がされ,その結果にもとづき毛布の増量が実施され,つづいて,寝具の大きさと材料の検討および作業衣と防寒帽と足袋と靴との改善が研究されている。

(七) 保健と医療

 少年施設を含めて,各施設には,その大小に応じた診療機関が設けられており,また,医療刑務所や医療少年院のように,施設じたいが病院の形態をとるものもある。特設医療施設の現況は,III-25表のとおりである。また,収容人員一〇〇人に対し,おおむね五のベッドが準備されており,治療にあたる施設勤務の医師の数は,身体医学専門医二五六人,精神医学の専門医三九人,歯科医師七人の合計三〇二人である(昭和三五年二月一日現在,法務省矯正局調査)。

III-25表 特設医療施設の状況(昭和34年12月末現在)

 収容者の疾患のうち,おもなものをみよう。まず,かつて拘禁病といわれた結核についてみると,法務省矯正局の調査によれば,収容者の死亡率は,戦前には一般国民のそれを上回り,そして,昭和二〇年前後にはいちじるしい上昇率をみせた。しかし,その後は急激に下向し,昭和二六年ごろには一五才以上の国民の結核死亡率とおなじとなり,昭和二九年ごろには全国民の結核死亡率に接近した。かように,いちじるしく改善されたのは,患者の隔離とツベルクリン反応やBCG接種の励行はもとより,抗結核剤の使用や肺外科手術の実施によるものである。ともあれ,結核の死亡率が一般国民のとほぼひとしいところまで下がったのは,かがやかしい成果とされてよいであろう。
 つぎに性病の罹患率をみると,収容者数一〇〇人に対する性病患者数は,法務省矯正局の調査によると,昭和二八年に刑務所が一・〇人,少年院が二・四人,少年鑑別所が五・一人であったのが,昭和三三年には,それぞれ,〇・五人,二・一人,一・九人に漸少しているが,これまた好ましい現象で,性病に対する化学治療薬の効果によるものである。
 また,集団生活をおびやかす病気の一つである伝染病の防疫については,適当な地区を分けて防疫センターを設け,施設の防疫の指導と検査にあたっており,これらの活動により,保菌者の摘発が速やかになるとともに,給水消毒装置の完備と浄化槽設置による屎尿処理の改善がすすんだ結果,伝染病の集団発生はようやく防圧されようとしている。昭和三三年および昭和三四年におけるその発生状況は,III-26表のとおり,赤痢の発生がみられるにすぎない。

III-26表 全国矯正施設内の伝染病発生人員

 精神障害者については,一般に精神病質者が多く,また,女子収容者については精神薄弱者が少なくない。精神病者のうちでは,てんかん患者が注目される。これらの者の処遇と治療には少なからぬ努力がはらわれているが,釈放にさいしては,精神衛生法による通報が励行され,精神病院への収容がはかられている。
 犯罪にむすびつくものに身体障害があるが,その数は,昭和三三年五月の法務省矯正局の調査によれば,受刑者の二・〇一パーセントにあたる一,五七六人,非行少年の一・一一パーセントにあたる一三二人である。これら身体障害者の更生のために,成形手術はもとより,職業補導にもつとめ,また,釈放時には身体障害者福祉法の適用をうけられるようにしている。
 ここで,矯正医学会の現況にふれよう。一九四二年,戦争のため活動を停止した行刑衛生会は,昭和二八年に,矯正医学会と改称して再発足した。矯正医学会は,医学,心理学,社会学,教育学その他近代諸科学の成果を応用して,犯罪者および非行少年の矯正と社会復帰との理論と実際を研究し,犯罪原因を究明してその予防に資することを目的としている。現在,その会員は,各施設に勤務する医官と鑑別技官とを中核として五百をこえ,昭和三五年秋には,アメリカ矯正医学会と合同で第七回の総会が開催される予定である。
 矯正医学会では,会員によって,テスト・バッテリー,グループ・カウンセリング,心理療法などの研究,出所者の成行調査の研究,収容者の栄養ならびに内分泌機能の調査研究,性犯罪の研究,アルコールと犯罪の研究,植皮刀を応用したイレズミ除去手術の研究などがされ,矯正医学の将来に明るい基礎を着実に築きあげつつある。

(八) 保安と規律

 刑務所の安全と秩序の保持は,社会的な関心が寄せられるばかりでなく,受刑者に対する矯正教育の前提である。終戦直後の犯罪の激増にともなう収容人員の増加は,従前の約二倍におよんだが,これに加えて,刑務所の戦災や接収やによる収容能力の激減(約四割減)によりいちじるしい過剰拘禁状態をきたし,職員の増員も収容人員の増加にともなわず,III-27表のように驚くべき逃走事故の増加をみた。また,昭和二一年には岐阜刑務所,大阪拘置所,静岡刑務所で,昭和二四年には松江刑務所で,それぞれ,大きな暴動事故が発生した。

III-27表 逃走人員

 最近は,こうした事故はいちじるしく減少し,戦前の状態に復したといえよう。しかし,行刑統計年報によれば,昭和三三年度に,施設のなかで罪を犯し刑事処分に付された者は,殺人四,傷害致死二,傷害一三五,加重逃走一一,逃走一五,公務執行妨害一〇で,合計一七七人を数えている。
 受刑者が守らねばならない規律のおもなものは,監獄法令にさだめられているが,細部は,各刑務所ごとに所長がきめることになっている。受刑者がこれらの規律をみだしたときは,懲罰が科せられる。懲罰の種類と執行方法は,監獄法令にさだめられているが,人権尊重のたてまえから,健康に悪影響をあたえないため医官による医療的監視を怠らないよう配慮するとともに,本人の反省を促すという趣旨から,科罰にあたっては,本人の弁解を十分にきくのみならず,本人が反省したときはその罰を免ずるなど,適正な運用に意がもちいられている。
 昭和三三年度に規律をみだして懲罰に付せられた人員はIII-28表にみるように,暴行・殴打がもっとも多く,これに煙草の所持,争論,抗命,物品棄壊がつづいている。また,同年中に行なわれた懲罰の種類とその件数は,III-29表のように,文書閲読禁止がもっとも多く,屏禁,叱責,作業賞与金の減削がこれについでいる。

III-28表 刑務所内の規律違反行為別人員(昭和33年)

III-29表 懲罰の件数(昭和33年)

(九) 仮釈放

 満期釈放者と仮釈放者との比率をみると,昭和六年から昭和一〇年までの五年間の平均は,満期釈放者九一に対し仮釈放者九の割合であるが,昭和二一年から昭和二五年までの両者の比率は,逆に,二四対七六にかわった。これは,戦後の過剰拘禁に対処するため,仮釈放が大幅に活用されたのがおもな原因といえよう。ところが,過剰拘禁状態が平常に復した昭和三一年から昭和三三年までの三年間の平均をみると,この比率が三一対六九となっている。
 昭和三三年中に出所した者を満期釈放と仮釈放とに分けて,累進階級別の人員をみると,III-30表のとおり,仮釈放は,おおむね上級者から優先的にされている傾向にあるといえるが,下級者にも相当数の仮釈放者があり,最上級になっても満期釈放者が若干あることがわかる。

III-30表 累進級別の満期・仮釈放人員(昭和33年)

(一〇) 再犯の状況

(1) 再入状況

 刑務所を出所した者がその後ふたたび罪を犯し,刑務所に再入する状況は,どのようなものであろうか。昭和二八年中に出所した受刑者四九,七七一人(うち女子は一,〇七〇人)について,男女別に,同年から昭和三三年までの再入率を百分率でみたのが,III-18図である。この図では,棒グラフで年度ごとの再入率を,曲線グラフで再入率の年々の累積を示したが,これによると,再入率は,男女とも第二年目の昭和二九年がもっとも高く,それ以後は逓減の傾向を示しているが,これを累積的にみると,第三年目の昭和三〇年になると,男子の出所者は,約四〇パーセント,女子は約三〇パーセントが再入したことがわかる。

III-18図 昭和28年出所受刑者の再入率と累積再入率

 昭和二五年以降各年の出所者について再入率をみると,すでに第一編第一章(とくに,四四頁以下)で詳述したところであるが,III-31表(この表は,年ごとの累積を百分率で示した)のように,出所した年度には約一〇パーセント前後,翌年までには約三〇パーセント,二年までには約四〇パーセント,五年までには約五〇パーセントが,再入している。

III-31表 昭和25〜33年出所者の累積再入率(%)

 さらに,昭和二九年一月現在で無作為抽出した法務省矯正局指紋部の保管する指紋原紙四,九八九枚を調査資料として,戦前を一期とし,戦後は犯罪者予防更生法施行の前後によって二期に分け,これら三時期をとって,くらべてみよう。いずれも,三年間ずつの期間内の初入の満期釈放者と仮釈放者とについて,釈放後の期間をおなじくした時点をきって,その時点における再入率をくらべると,つぎのIII-32表のようになる。

III-32表 無作為抽出指紋原紙による釈放者中の再入人員と率

 全体として,昭和二二-二四年の釈放者の再入率は三一・九パーセントで,もっとも高い。そこでは,仮釈放者が三三・五パーセントの再入率なしめし,同時期の満期釈放者のそれよりも高率である。これは,当時の刑務所の異常な過剰拘禁状態を緩和するために,仮釈放の基準が大幅にゆるめられた結果を反映するものであろう。これに対し,その後の昭和二五-二七年では,一八・五パーセントで,戦前の昭和七-九年の二二・二パーセントをさえ下回っている。つぎに,満期釈放者については,三時期ともあまり大きなちがいがないのに対し,仮釈放者については,昭和二二-二四年のがずばぬけて高く,その後の昭和二五-二七年のは,戦前の昭和七-九年の一〇・〇パーセントよりは高い。しかしこれについて,戦後は,戦前とちがい,仮釈放がむしろ原則になっていること,および,昭和二二-二四年の高率にくらべると目だって低くなっていることを考慮しなければならない。これは,犯罪者予防更生法の施行その他仮釈放制度の整備とともに,他面,また,仮釈放の運用の正常化してきたことを端的に物語るものであろう。

(2) 再犯期間

 まず,再犯期間と前刑刑期との関係,すなわち,前刑としてどの程度の刑をうけた者がどの程度の期間をおいて再犯しているかをながめてみよう。III-33表は,昭和三三年における再入受刑者につき,この関係の概略をみたものである。これによると,前刑刑期が一年未満の者の五八パーセントが,一年以上三年以下の者の約六二パーセントが,三年以上一〇年未満の者の約四六パーセントが,また,一〇年以上の者の約四一パーセントが,それぞれ,出所後一年未満の期間内に再犯し受刑したことがわかる。

III-33表 再入受刑者の再犯期間別前刑刑期別百分率(昭和33年)

 つぎに,昭和三三年における再入受刑者につき,入所度数と再犯期間との関係をみると,III-34表のとおり,入所度数の多い者ほど短期間内に再犯をする傾向にあるといえる。

III-34表 再入受刑者の再犯期間別入所度数別百分率(昭和33年)

III-19図 再犯期間(1年末満)別入所度数別再入率(昭和33年)

(一一) 女子受刑者の処遇

 女子受刑者は,主として栃木,笠松,和歌山,麓の四つの女子刑務所に収容されるが,やむを得ない事情で一時他の刑務所に収容する場合には,男子の収容場所とはとくに区別した場所に収容している。
 処遇も,頭髪を刈らないのはもとより,居室に畳を敷くことが認められ,姙娠七ヵ月以上,産後一ヵ月以内の妊産婦は,病人に準じてとりあつかわれ,また,入所時満一才に達しない乳児を携えた者と入所中に分娩した者とには,その子供が満一才になるまで手許で養育することが認められるなど,男子受刑者とはちがった処遇方法がとられている。そのほか,日常の生活で,明るいふんい気を保ちながら女性らしい情操を養うことができるよう,とくに,注意がはらわれている。

(一二) 外国人受刑者に対する処遇

 昭和三四年一二月末現在での外国人の収容状況は,III-35表にみるとおり,受刑者総数四,〇四三人,うち朝鮮人三,八三七人,中国人一四八人,その他の外国人五八人である。

III-35表 外国人の収容現員(昭和34年12月末現在)

 刑務所におけるこれら外国人の取扱いは,基本的に日本人のそれとおなじで,監獄法令のさだめるところにしたがい,一定の刑務作業に従事させている。ただ,風俗習慣や生活様式のいちじるしく異なる外国人は,日本人とまったく同様にとりあつかうことが,本人にとって過重な負担となる場合があり,また,その宗教上の信条や道徳上のおきてなどは,十分に尊重しなければならないので,行刑の実際では,この種の外国人は,できるかぎり特定の施設に収容し,その者の特性に応じた処遇をしている。例を横須賀刑務所にとると,同所では,欧米人の生活様式を加味した収容設備で,規律ある集団の訓練生活をさせている。そして,刑務作業のかたわら,職業訓練の一環としてラジオの組立てや製靴などの作業をさせ,余暇には日本語教育を受講させている。また,毎週,定期的に,外国人宣教師による宗教教誨をほどこしている。