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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/一/3 

3 精神薄弱者の犯罪

 非行少年における精神薄弱者の比率(I-26表参照)については,原因論のくだりでふれたとおりである。成人受刑者については,I-36表にみるとおり,対象の種別によってかなりのひらきがみられるけれども,一般的にいって,男子では一〇-二五パーセント,女子では五〇-六〇パーセントのあいだにあるとみてよい。女子犯罪者中の精神薄弱者の比率は,少年の場合にもかなり高率であったが,成人受刑者の場合には,いちじるしく高い。

I-36表 犯罪者中の精神薄弱者の百分率

 精神薄弱者に特徴的な犯罪は,放火と性犯罪で,欧米諸国では,性犯罪がとくに注目されている。わが国における唯一の精神薄弱非行少年の専門施設である東京医療少年院の収容者について,送致の原因となった罪質をみると,性犯罪は,全体としては八パーセント前後で,絶対数はそれほど多くはないが,数の多い順位からいうと,窃盗,虞犯についで,放火とともに,つねに三,四位にある。これに対し,一般の少年院の収容者では,窃盗,虞犯,詐欺,強盗,横領などよりも下位にあり,傷害,特別法犯と前後して,八,九位のところを上下している。全体に対する比率も三パーセント前後にすぎない。東京医療少年院に収容された九二人の性的非行者について,非行内容を整理してみると,I-37表にみられるように,強姦がもっとも多いが,未遂がきわめて多く,年少の少女に対する強姦や強制猥褻のほか,性的動機にもとづく暴行,傷害,脅迫,公然自慰,窃視,性器露出,フェチシズム(物品性愛)による窃盗や,女性の裸体をみたいがための放火など,性倒錯的な非行が少なくない。なお,性的非行の対象をみると,I-38表にみるように,被害者が一三才未満の未成年者である場合が五七パーセントにおよんでいる。

I-37表 性的非行の内容等

I-38表 性的非行の対象と被害者の年齢等

 一般の性犯罪に共犯(輪姦)が多いのにくらべて,精神薄弱者の場合には,単独犯が圧倒的に多い。昭和二九年の警視庁の調査によると,猥褻,姦淫四二八人のうち,二六三人すなわち六一パーセントが輪姦であったのに対し,精神薄弱の非行少年では,共犯関係は,わずか一五パーセントにすぎない。
 精神薄弱者の放火は,叱責に対する報復,不快感情の衝動的解消,幼児的な火悪戯,郷愁性の放火など,きわめて単純な動機による場合が多いけれども,その結果が社会的に重大な損失をまねくところから注目されている。
 精神薄弱者の犯罪についての刑事責任は,白痴と重症痴愚については無能力とされ,軽症痴愚については,限定責任能力とみるのが普通である。
 精神薄弱の非行少年の少年院を出院したのちの成行をみると,かなり良好な成績で社会適応の認められる者が四三パーセント,ふたたび非行に陥ったが施設には収容されない者が一八パーセント,ふたたび少年院または刑務所に収容された者が三二パーセント,精神病院に入院した者が三パーセントで,再犯率は,精神薄弱のみについてみると四九・八パーセントとなる。この成績と精神薄弱の再犯率に関する従来の研究とを比較したのがI-39表である。ちなみに,谷氏の多摩少年院出院者の調査では,不詳者が五〇パーセントにおよんでいるので,全体として再犯率が低くなっている。なお,古沢,吉益,谷氏などの研究は,いずれも戦前の資料にかかる調査であるが,精神薄弱者の再犯率は,全体のそれを上回っている。それに対し,樋口氏の調査では,精神薄弱者の再犯率は,全体のそれを下回っている。罪質の点で注目すべきは,倒錯的傾向の多い精神薄弱の性的非行が,再犯予後においてきわめて良好なことである。

I-39表 精神薄弱者の再犯率

 精神薄弱者および彼等の非行を早期に発見して,適切な専門的処遇をほどこすのが急務である。そのためには,専門の収容施設を設けて,その収容が社会福祉的に長期に行なわれることが必要である。非行が早期のものであれば,社会福祉的な施設への収容によってあらためることができる。非行性のすすんでいるものについては,矯正施設に送ることもやむをえないが,精神薄弱の専門施設を他の一般施設から分離して,分類収容を徹底することが肝要であろう。わが国では,戦後,医療少年院や医療刑務所を設けて,これに比較的重症の精神薄弱者を収容し,比較的軽度のものについては,一般施設のうちから二,三専門の施設を分化させているが,まだまだ,施設の専門化ないし分化は十分とはいえない。なお,精神薄弱に精神病質の合併しているものについては,社会的予後がきわめて不良であるから,保安処分的措置が考究されるべきであろう。