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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第四章/三 

三 選挙犯罪

 選挙犯罪とは,公の選挙に関して行なわれる犯罪で,これに対する罰則は,主として公職選挙法に規定されている。この法律は,衆議院議員,参議院議員ならびに地方公共団体の議員および長の選挙に適用され,また,他の法律でこれを準用するものがある。
 ところで,昭和三七年から四二年までの間に施行された全国的規模をもった選挙は,
[1] 昭和三七年七月の参議院議員通常選挙
[2] 昭和三八年四月の統一地方選挙
[3] 同年一一月の衆議院議員総選挙
[4] 昭和四〇年七月の参議院議員通常選挙
[5] 昭和四二年一月の衆議院議員総選挙
[6] 同年四月の統一地方選挙
であり,最近における選挙犯罪の大部分は,右に掲げた六つの選挙に関して行なわれたものである。そこで,これらの選挙に際し,全国の検察庁が受理した選挙犯罪の人員数(新規受理のほか,移送および再起によるものを含む。)と違反罪種別の内訳をみたのが,II-126表である。これによって,衆議院,参議院,地方公共団体の各種の選挙を比較すると,選挙の区域が狭くなるのに比例して,買収(饗応,利害誘導その他の買収を含む。)事犯の占める割合が増加している。また,同じ種類の選挙についてみると,いずれの選挙にあっても,買収の占める割合が漸減し,文書違反(新聞紙・雑誌の頒布・掲示違反を含む。)の割合が漸増する傾向がみられるほか,受理人員総数が,それぞれ,減少していることが認められる。なお,昭和四二年四月施行の統一地方選挙に際して受理された選挙違反の態様は,II-127表のとおりである。

II-126表 選挙違反の検察庁受理人員と比率(昭和37,38,40,42年)

II-127表 昭和42年4月施行の統一地方選挙に際して受理された選挙違反の内訳(昭和42年9月30日現在)

 次に,これらの選挙違反の検察庁における処理状況についてであるが,昭和四二年一月以前の各種選挙については,従来の犯罪白書において,すでに明らかにしているところである。そこで,この白書においては,昭和四二年四月の統一地方選挙についてのみ述べることとする。右の選挙に際し受理された選挙犯罪の態様別処理人員は,II-128表のとおりである。これによると,処理総数四一,一〇五人のうち,起訴された者は,二〇,九三一人(総数の五〇・九%)で,起訴された者のうち,最も多いのは,買収の一九,〇〇一人(起訴総数の九〇・八%)で,戸別訪問の九五一人,文書違反の三〇一人がこれに次いでいる。

II-128表 昭和42年統一地方選挙の際の選挙違反の態様別処理人員(昭和42年9月30日現在)

 次に,選挙犯罪の裁判結果であるが,右に述べた各種選挙別に,その裁判結果を知ることのできる資料はないので,最高裁判所の統計により,昭和三七年から昭和四一年までの五年間における選挙犯罪の第一審有罪人員をみると,II-129表のとおりである。これによると,第一審有罪人員のうち,懲役または禁錮に処せられた者は約六%ないし一五%であるが,そのうち九六%以上に,執行猶予が付されている。このような高率の執行猶予は,刑法犯と特別法犯とを通じて,他に,その例をみないところであるのみならず,逐年,執行猶予率が高くなる傾向を示していることが注目される。結局,選挙犯罪によって,有罪の裁判を受けた者のうち,実際に自由刑の執行を受けることとなる者は,昭和四一年に例をとれば,わずか二百六十余人に一人の割合にすぎないわけである。

II-129表 選挙犯罪の第一審有罪人員(昭和37年〜41年)