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 昭和42年版 犯罪白書 第三編/第二章/二/2 

2 少年院における処遇

(一) 少年院収容者とその特質

 少年院は,家庭裁判所が保護処分の一つとして,少年院送致決定を行なった少年を収容し,これに矯正数育を施す国立の施設であり,法務省の所管に属し,昭和四二年三月末日現在,六〇の本院と二つの分院がおかれている。その内訳は,男子施設の本院四八,分院一,女子施設の本院九,分院一,男女の施設として本院三がおかれている。
 少年院は,初等,中等,特別,医療の四種類に分かれていて,初等少年院は,心身に著しい故障のない,一四歳以上おおむね一六歳未満の者を収容し,中等少年院は,心身に著しい故障のない,おおむね一六歳以上二〇歳未満の者を収容し,特別少年院は,心身に著しい故障はないが,犯罪的傾向の進んだ,おおむね一六歳以上二三歳未満の者を収容し,医療少年院は,心身に著しい故障のある,一四歳以上二六歳未満の者を収容することとされている。
 これら少年院の収容状況をみると,現行少年法の施行された昭和二四年以後,毎年,一年間に少年院に新たに収容された者(以下,これを「新収容者」という。)の人員推移は,III-77表に示したとおりである。すなわち,昭和二六年には,少年年令の引上げ実施に伴って,急激な増加を示しているが,その後は,ゆるやかな増減を繰り返しながら現在に至っている。なお,昭和四一年の新収容者数は,前年より約二〇〇人増加して,八,〇六五人となっており,うち女子は,約八%にあたる六五八人である。

III-77表 新収容者人員(昭和24〜41年)

 つぎに,昭和四一年における新収容者の状況を,さきに述べた少年院の種類別にみると,III-78表に示すとおり,中等少年院の新収容者が五,三八一人であり,総数に対する比率は六六・七%で,最も多く,ついで,特別少年院一五・九%,初等少年院九・六%,医療少年院七・八%の順となっている。種類別収容人員の割合を,四〇年のそれと比較すると,昭和四一年は,中等および特別少年院が増加し,初等および医療少年院が減少している。とくに,中等少年院の四・〇%の増加と初等少年院の四・二%の減少が目だっている。

III-78表 新収容者の少年院種類別人員(昭和40,41年)

 さらに,少年院種類別の年末在院者についてみると,III-79表に示すとおり,昭和四一年では,中等少年院の在院者が六,〇九四人(六三・三%)で,最も多く,かつ,三九年より逐年増加している。これに反し,初等少年院は,減少を続けている。特別および医療少年院の在院者には,大きな動きがない。

III-79表 少年院在院者の種類別人員(昭和37〜41年)

 つぎに,最近五か年間における新収容者の年令別構成についてみると,III-80表に示すとおりである。この表によれば,一四,五歳の低年令層は,昭和三八年以降,逐年減少しており,一六歳も,三九年を頂点として,その後,減少している。一七歳は,三九年,四〇年と増加を示し,全収容者中の最高割合を示していたが,四一年には,わずかではあるが,減少している。これに反して,一八歳は,三九年まで減少し,その後,四〇年から増加に転じて,四一年には,全収容者の二六・八%と,最高の割合を示すに至り,また,一九歳も,四〇年まで減少を続けていたが,四一年に至り,相当数(構成割合で五・五%)の増加をみせている。つまり,昭和四一年は,前年に比べて一七歳以下が減少し,一八歳と一九歳が増加して,全新収容者中に占める割合は,一八歳を最高とし,ついで一七歳,一九歳の順となり,昭和三九年における,一七歳,一六歳,一八歳の順序に比べると,かなり変動をきたしたこととなる。

III-80表 新収容者の年令別人員(昭和37〜41年)

 さらに,在院者の年令別構成をみたのが,III-81表である。すなわち,一四,五歳の在院者は,昭和三七年には,全在院者の一八・六%を占めていたが,逐年減少して,四一年には七・八%となり,一六歳は,三八年の一七・六%を,一七歳は三九年の二四・〇%を,それぞれ頂点として,それ以後減っている。一八歳は,三七年の二一・七%から,三八年には,一八・九%に減少したが,三九年から増加して,四一年には,二六・四%に達し,四〇年以降,全在院者の最高率を占めている。一九歳は,三七年には二二・三%で,全在院者の最高率を示していたが,三九年には,一七・三%に減り,四〇年以降,上昇を始めて,四一年には,一八歳についで二五・〇%に高まっている。

III-81表 在院者の年令別人員(昭和37〜41年)

 つまり,四一年末現在における在院者の年令構成においては,一八歳が最高率を占め,一九歳,一七歳,一六歳の順となり,在院者についても,低年令層にある者が減少して,一八歳以上の高年令層の者が多くなっている。このように,低年令層が逐年減少し,収容人員の最高率を示す年令層が順次高まることは,終戦直後のべビーブームの影響が,年とともに高年令層に及んできたことを示すものであるが,少年院収容者中に高年令層の少年が多いことは,むしろ,常態に復したものといえるかも知れない。
 つぎに,新収容者の行為別人員をみたのが,III-82表である。この表に示すとおり,昭和四一年には,刑法犯では,窃盗が四九・七%で最高率を占め,これについで,強かん・わいせつの一〇・二%,恐かつ九・四%,傷害六・五%,強盗六・四%が多く,特別法犯は,二・二%で少ないが,ぐ犯は,七・二%となっている。この新収容者の行為別人員は,前年と比べて,大幅な変動はみられないが,しいていうならば,前年と比べて,昭和四一年がわずかにふえたのは,窃盗と強盗であり,逆に,減っているのは,恐かつとぐ犯である。

III-82表 新収容者の行為別人員(昭和40,41年)

 III-83表は,最近五か年間における新収容者の教育程度の推移をみたものであるが,義務教育未修了者の割合が,昭和三七年には,二八・〇%であったが,逐年減少して,四一年には,一四・五%となっている。一方,高等学校以上に進んだ者の割合が,三七年の一一・二%に対し,四一年には,一六・二%と増加していることは,中流家庭の非行少年の増加とあわせて,少年の非行化防止対策上留意を要することであろう。

III-83表 新収容者の教育歴別人員(昭和37〜41年)

 つぎに,昭和四一年における新収容者の知能の状況をみたのが,III-84表である。この表によれば,一般に,普通の知能程度であるとされている,知能指数九〇〜一〇九の者が,男子四〇%,女子二七・七%にすぎず,これに,知能程度が普通に準ずる者とされている,指数八〇〜八九の者を加えても,なお,男子六八・二%,女子五二・九%にすぎない状況である。さらに,知能指数が六九以下で精神薄弱を疑わせる人員の割合は,男子一〇・六%,女子二三・〇%で,女子は,男子と比べると,知能の低い者が多く収容されていることがわかる。

III-84表 新収容者の知能状況(昭和41年)

 さらに,昭和四一年における新収容者の精神診断の結果は,III-85表に示すとおりで,正常と診断された者は,わずかに,〇・九%にすぎず,八二%弱が準正常者である。なお,精神薄弱者と診断された者が九・三%,精神病質者六・四%,その他の精神障害者が一・五%もみられる。これを,同じく昭和四一年における少年鑑別所収容者のそれと比較すると,少年鑑別所収容者のうち,正常と判定された者は,三・三%であり,少年院の新収容者中の正常者より高い数字を示しており,逆に,少年鑑別所収容者中の精神病質者は,三・九%,精神薄弱者は六・二%で,少年院収容者中の割合より低くなっていて,資質的に問題のある少年の送致される率が多く,少年院における矯正教育の困難さを物語っている。

III-85表 新収容者の精神状況(昭和41年)

 III-86表は,最近五か年間の少年院新収容者について,少年院に収容された経験の有無および収容度数の状況を示したもので,昭和四一年の新収容者では,過去にも収容された経験をもつ人員は一,六六五人で,全新収容者の二〇・六%にあたる。

III-86表 新収容者の収容度数別人員(昭和37〜41年)

 この,少年院収容経験をもつ者の五か年の推移をみると,三七年一九・八%,三八年一九・七%,三九年一九・三%,四〇年二〇・三%となり,四〇年以降,わずかに増勢がみられており,四一年は,これまでの最高率となっている。
 つぎに,昭和四一年における新収容者中,少年院に初めて収容された者について,それ以前に受けた家庭裁判所の処分経験の有無,処分の内容,回数について調べたのが,III-87表である。すなわち,家庭裁判所の審判結果,保護観察処分に付された経験をもつ者が四八・三%で最も多く,ついで,審判不開始,または不処分決定を受けた経験をもつ者が四五・三%,教護院・養護施設の収容歴をもつ者が六・九%で,これらの処分歴を総括すると,少年院に初めて収容される以前,すでに,家庭裁判所においてなんらかの処分を受けた者が,七一・六%の高率に及んでいることがわかる。ちなみに,昭和四〇年の新収容者中,初めて少年院に送致された者のうち,家庭裁判所の処分歴を有する人員の割合は,六七・七%であるから,四一年は三・九%の増加である。

III-87表 初入院者の家裁処分歴(昭和41年)

 このような家庭裁判所の処分のほかに,警察における補導も行なわれており,少年院に初めて収容された者であっても,種々な場面で,いろいろな処置を加えられた者が多く,しかも,その処置が,本人にとって必ずしも適切かつ十分なものでないこともあり,すでに人格的なゆがみや反社会性が強まっており,かなり改善困難な状態に陥った後,少年院に収容されている者があるといわなければならない。
 III-88表は,昭和四一年の新収容者の収容直前に従事していた職業の状況を示したものである。この表によれば,新収容者八,〇六五人中,七〇八人(八・八%)が学生・生徒で,五三・五%にあたる四,三一五人が無職者である。また,有職者であっても,単純労働その他簡単な作業に従事していた者が多く,知的労働あるいは専門的な知識技能を必要とする職業の経験をもった者は,きわめて少ない。

III-88表 新収容者の従事していた職業別人員(昭和41年)

(二) 在院者に対する矯正教育

 少年院の矯正教育は,在院者を社会生活に適応させるため,その自覚に訴え,規律ある生活のもとに,教科教育ならびに職業の補導,適当な訓練および医療を授けるものとされており,この矯正教育を具現する少年院における処遇は,在院者の心身の発達程度を考慮して,明るい環境のもとに,規律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに,長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して行なわれることになっている。

(1) 分類とオリエンテーション

 少年院において,適切な処遇と効果的な指導を行なうため,新たに入院した少年に対し,少年院における矯正教育の目的および院内生活に対する正しい認識と心構えを与えるためのオリエンテーションと分類調査を実施している。そこで,新たに入院した者については,おおむね一四日間,なるべく,他の在院者と接触させないような処遇を行ない,その期間内に,家庭裁判所および少年鑑別所の意見等を参考にするほか,医学,心理学,教育学,社会学などの専門的知識を活用して,少年の個性,心身の状況,家庭環境,経歴,教育程度,技能その他身上に関する調査を行ない,本人に対する最も適切な処遇と教育の計画がたてられる。ついで,この計画を円滑に実施するためのオリエンテーションが行なわれる。

(2) 段階処遇

 段階処遇とは,在院者の改善,進歩の程度に応じ,順次向上した処遇をする制度である。
 在院者の処遇は,一級,二級および三級に分けられており,さらに,一級および二級を,それぞれ上および下に分けている。
 新たに入院した者は,まず,二級の下に編入され,以後,順次進級するようになっているが,成績が不良な場合には,一段階下げられ,また,成績がとくに優秀な在院者は,二段階進めることができる。昇進および降下は,在院者の平素の成績を毎月一回以上審査して決めている。また,一級に昇進した者に対しては,特別の居室,日用品および器具の使用や特別の服装が許可されるばかりでなく,単独外出や帰省などが許され,とくに向上した処遇が行なわれている。

(3) 教科教育

 少年院における教科教育は,在院者の特性に基づき,その興味と必要に即して自発的に学習するように指導しているが,最近における新収容者のうち,約一五%が義務教育未修了者なので,これらの者に対しては,義務教育修了の資格を得させる目的で,義務教育の課程を授けている。少年院の長は,右の教科に関する事項については,文部大臣の勧告に従って,教育を実施することになっており,教科を修了した者に対しては,修了の事実を証明する証書を発行できることとなっている。この証明書は,各学校の長が授与する卒業証書と同じ効力を有する。
 なお,義務教育を修了している者については,社会生活に必要な知識と技能を与えることを主眼とした教育を実施している。
 しかし,在院者の大半は,入院前,学習意欲に欠けていて,一般の学校教育においても怠学などが多かったため,学力もまちまちなうえ,それらの者の入院時期が一定しないなど,在院者に対する教科教育を実施し,その効果をあげるためには,幾多の困難な条件をはらんでいる。

(4) 職業補導

 少年院における職業補導は,少年院の種類に応じて多少異なっている。たとえば,初等少年院は,職業についての基礎的な知識と技能を与え,それを応用する能力を養うことを重点とし,中等および特別少年院は,独立自活するに必要な知識と技能を中心とし,医療少年院では,在院者の年齢に応じた知識と技能を養うのであるが,医療の促進に役だてるよう考慮をしながら行なっている。そして,いずれの少年院においても,在院者に対する職業補導を通じて,労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養うことを目ざして実施されている。
 現在,少年院で実施しているおもな職業補導の種目別人員は,III-89表のとおりであり,男子は,農業,木工,洋裁,園芸,板金,クリーニング,謄写印刷等が多く,女子は,手芸,洋裁,家事サービス等が目だっている。

III-89表 出院者職業補導種目別人員(昭和41年)

 また,在院者がなんらかの職業に関する資格や免許を取得して出院することは,出院後の更生に役だつと思われるので,在院中に,できるかぎり,資格や免許取得の機会を与えるよう努めている。III-90表は,在院中に,資格や免許を取得した種目と人員を示したもので,珠算,自動車運転,簿記,孔版技能,電気工事士,熔接士などが多い。

III-90表 資格・免許取得状況(昭和41.1〜12.31)

 なお,少年院では,教科教育および職業補導と関連して,通信教育制度がある。法務省矯正局の調査によれば,昭和四〇年四月一日から四一年三月三一日までの間に,通信教育を受講した者の総数は,一,五〇七人である。受講者の多い講座は,自動車,孔版,洋裁,電気工事,簿記,高校,ラジオ・テレビなどの順となっている。

(5) 生活指導

 少年院における生活指導の目標は,反社会的な考え方や行動様式を改善し,健全な社会性の発達を促すことにある。このため,入院当初には,日常生活における基本的な行動様式を身につけさせることを主眼として指導を行ない,期間の経過に従い,逐次,正しい社会的生活訓練を与え,退院期日が近づくにつれて,出院後の生活設計をたてるよう指導している。
 生活指導の具体的な方法としては,社会教育講話,余暇活動,篤志面接委員の面接,個別および集団カウンセリングなどを活用しているほか,在院中のあらゆる場面をとらえ,職員による適切な指導が行なわれている。
 余暇活動の主体となるものは,クラブ活動であって,昭和四〇年中の実施状況は,III-91表のとおりである。この表によれば,文化系統の活動が盛んに行なわれており,クラブ数,所属人員および実施回数において最も多い。文化系統の内容別にみたクラブ数は,音楽五五,美術工芸五二,書道・ぺン習字二五,文芸出版二四,詩歌・俳句二〇,茶・生花一五,演劇一四,囲碁・将棋八,その他四九である。運動系統では,野球・ソフトボール四三,バレーボール三三,卓球二七,バスケツトボール一二,体操一〇,スキー・スケート六などで,職業技能系統では,珠算三一,孔版七などとなっている。

III-91表 クラブ活動実施状況(昭和40.1.1〜12.31)

 つぎに,民間篤志家による篤志面接委員制度があり,在院者に対する助言指導が行なわれている。これによる面接件数は,昭和四〇年中に六,四八九件で,その面接内容は,精神的はんもんが一,七六一件で,最も多く,教養一,〇九七件,職業九〇五件,家庭八四六件の順となっており,在院者の悩みの一端がうかがわれる。
 さらに,性格のゆがみなどにより,少年院の処遇に適応しにくい在院者に対しては,専門的技術をもつ職員によるカウンセリングなど,新しい技術を導入して効果を収めつつあるが,この種の専門的技術をもつ職員が少ないため,現在は,一部の在院者に実施されるにとどまっている。今後は,この種の専門職員を養成し,科学的な立場から矯正技術を向上させていくことが必要であろう。

(三) 医療衛生・給食

 少年院における医療衛生は,[1]在院者の健康生活の確保,[2]傷病の予防と治療,[3]在院者の更生の障害となる一切の傷病や欠陥の治療,[4]精神医学的診断や処置等が行なわれる。
 心身に著しい故障のある者を収容して,治療を施す専門の施設としては,東京,関東,京都,宮川,豊浦の各医療少年院のほか,久里浜,新光,福岡,盛岡等の各少年院に付設された医療センター等があり,その収容区分等は,III-92表に示すとおりであるが,その他の少年院にも,それぞれ診療機関が設置されて,在院者の医療が行なわれている。昭和四二年三月末日現在,医師七四人,非常勤医師一七人,薬剤師七人を配置しているほか,レントゲン技師二人,栄養士一八人,衛生検査技師二人および看護婦(夫)五四人など資格を有する職員が,それぞれの医療関係業務に従事している。

III-92表 少年院関係医療センター(昭和42年3月31日現在)

 患者について,法務省矯正局の調査によれば,昭和四一年一一月末日現在,休養患者(一般の入院患者にあたる)二七二人,非休養患者(一般の通院患者にあたる)一,五一一人であって,これを病名別にみると,精神障害が最も多く,二八・六%を占め,ついで,伝染病および寄生虫病(一四・五%),神経系および感覚器の疾患(一二・五%),消化器系の疾患(一二・四%)の順となっている。
 このほか,在院者の性病疾患および性交経験者数について,矯正局の調査(昭和四〇年一一月二〇日現在)によれば,男子在院者八,五〇六人中,性交経験者は四,〇二〇人(四七・三%)で,うち,性病疾患者が二六五人(六・六%)あり,女子は九五七人中,性交経験者が九一二人(九五・三%)に及んでおり,うち,性病疾患者は一二九人(一四・一%)あり,男子における六・六%の疾患率と比べて非常に高い。とくに,女子の梅毒疾患率は,男子のそれが二・八%であるのに対し,一二・一%と四倍以上にのぼっている。ちなみに,昭和四〇年の女子新収容者中,売春防止法違反による人員は八〇人(一〇・九%)である。これらの性病は,すべて入院前にり患したものであるが,少年院では,鋭意その医療に努めている。
 少年院では,衛生管理,とくに伝染病の予防には,細心の注意が払われており,各施設とも,上下水道やし尿処理設備の改善,衛生教育,予防接種,検便などの励行に努めている。
 在院者に与えられる食事は,男子一人一日三,〇〇〇カロリー(主食二,四〇〇カロリー,副食六〇〇カロリー)で,女子の場合は,主食が一〇〇カロリー少なく,二,九〇〇カロリーとなっている。副食費は,昭和四一年一二月末日で,在院者一人一日あたり三六円八六銭である。
 なお,在院者には,一定の衣類や寝具,学用品その他日常生活に必要な物品が貸与または給与されている。自弁品の使用については,院内の規律および衛生に害がないかぎり許可される。

(四) 規律違反と懲戒

 在院者のすべては,一般社会の秩序を乱し,または乱すおそれがあるため,その矯正を目的として少年院に送致されたものである。したがって,入院後,にわかに,少年院の規律ある生活になじめず,ともすれば,入院前の気ままな生活を院内に持ち込み,明るく平和であるべき院内の教育的ふんい気を乱しがちである。
 少年院の長は,規律に違反した在院者に対して,次の範囲に限り,懲戒を行なうことが許されている。すなわち,[1]厳重な訓戒を加えること,[2]成績に対して,通常与える点数より減じた点数を与えること,[3]二〇日をこえない期間,衛生的な単独室で謹慎させることである。なお,懲戒は,本人の心身の状況に注意して行なうことはいうまでもない。これらの懲戒を受けた規律違反者の行為は,同僚少年とのけんか,暴力行為,喫煙,逃走などのほか,不正物品所持,自傷行為(入れ墨を含む。),物品窃取,物品破棄等も少なくない。

(五) 在院期間と退院および仮退院

 在院者が出院する場合には,退院と仮退院とがある。在院者は,原則として,二〇歳に達したときに退院するが,送致後一年を経過しない場合は,送致の時から一年間収容を継続することができるものとされている。また,二〇歳または送致後一年に達したときでも,心身に著しい故障があり,または犯罪的傾向がまだ矯正されていないため,少年院から退院させるのに不適当であると認められる在院者については,少年院長の申請に基づき,家庭裁判所が,二三歳に達するまでの期間内で,一定の期間を定めて,収容を継続すべき旨の決定をし,さらに,右のうち,精神に著しい故障があり,公共の福祉のため退院させることが不適当であると認められる在院者については,右と同様,少年院長の申請に基づき,家庭裁判所が,二六歳を越えない期間を定めて,医療少年院に収容を継続すべき旨の決定をすることができるものとされており,これらの場合には,右の期間が満了したときに退院することとなる。さらに,家庭裁判所が保護処分を取り消す決定をし,または,保護処分の執行停止の決定をしたときも,在院者は,退院することになる。在院者が退院する場合の多くは,右のうち,満令による退院である。
 在院者が処遇段階の最高に達した場合に,仮退院を相当と認めるときは,少年院の長が地方更生保護委員会に仮退院の申請を行ない,その許可があれば,仮退院ができる。なお,地方更生保護委員会は,少年院長から通告のあった六月以上の在院者については,少年院長の申請がなくても,仮退院を許すことができる。
 退院と仮退院とを分けて,平均在院期間をみたのが,III-93表である。最近五か年間の推移では,各種少年院とも,仮退院の場合の在院期間が長くなる傾向がみられ,また,仮退院者の割合が増加している。一般に,退院より仮退院の在院期間が長く,少年院の種類別では,特別および医療少年院の在院期間が,初等および中等少年院と比べて長い。

III-93表 少年院種類別の退院・仮退院平均在院日数と人員(昭和37〜41年)

(六) 処遇をめぐる諸問題と新しい動向

 少年院における処遇の状況および新収容者の特質は,右に述べたとおりであるが,理想的な処遇を阻害している問題の一つとして,入院して来る少年の質的悪化があげられる。すなわち,入院者の大半は,人格的ゆがみが強く,初めて入院する以前,すでに,家庭裁判所におけるなんらかの処分を受けた者が七二%弱に及んでいることは,前述したとおりで,彼らの行為の外見からは,特に悪質といえないまでも,非行性が固定化し,あるいは,こじれた状態に陥った後に入院して来ることが多い。社会でルーズな生活に慣れた少年が,少年院の規律ある生活になじめず,ひいては,他の少年にまで悪影響を及ぼし,これに同調する少年が出現するなど,施設全般の教育的ふんい気を乱し,または,職員に過大な負担をかけて,いわゆる処遇困難者となる場合も多い。
 そこで,在院者の処遇の難易という点からみると,III-94表に示すとおり,処遇困難者に,やや困難者を加えると,その在院者総数中に占める割合は,昭和三七年六二・一%,三八年六八・二%,三九年六七・八%,四〇年五八・二%,四一年五五・〇%で,三九年以後,やや減少しているが,なお,在院者の五五%が,なんらかの意味で,処遇困難者であることは,少年院の管理運営および矯正教育上大きな問題である。

III-94表 在院者の処遇難易状況(昭和37〜41年)

 さらに,法務総合研究所が昭和四〇年一月一日現在で,全国の少年院について行なった,問題収容者の実態調査によれば,少年院在院者のうち,問題収容者(矯正施設の管理上または処遇上,職員に過大な負担をかける者,他の収容者に対して少なからぬ悪影響を与えている者など,矯正教育の目的達成上,その施設の意図する計画に対して,大きな障害となっている者)にあげられた人員は,男子九三〇人,女子一〇〇人であり,彼らによる問題行為の具体的内容と,その行為回数が問題収容者の男女それぞれの総人員数に対して占める割合を示したものが,III-95表である。すなわち,仲間や職員に対する攻撃,ボス化および逃走企図,自傷,たばこの反則等,その問題性や程度が非常に広範囲であり,多様であることがわかる。これらの問題をもつ在院者のほとんどが,非行性の進んだ者で,その性格特性は,虚勢的な見え張り,怒りやすいなど,ゆがみの強い人格の持ち主である。しかも,問題収容者のうち,暴力団などの反社会的集団と関係のあった男子が三七・四%,女子が四四・〇%で,女子のほうが多い。彼らの犯した非行は,恐かつ,傷害,殺人等の粗暴犯が高率を示している。

III-95表 問題収容者による問題行為と出現状況(昭和40年1月1日現在)

 このような問題収容者を問題のない在院者と同じく集団処遇することは,好ましくないばかりか,きわめて困難なので,専門技術を習得している職員によるカウンセリング等を重点とした処遇など,もっぱら,個別的処遇にたよらざるをえない実情である。そこで,直接処遇にあたる職員の負担が過大になるばかりでなく,少年院における矯正教育全般にわたって障害となることが多い。
 在院者が規律違反をした場合,前述したような懲戒を行なうことができるのであるが,懲戒は,いわば,応急的な処置であり,真の対策としては,違反行為の原因や背景等を追求して,再発のみならず,これを未然に防止する対策をたてるのでなければならない。そのためには,施設の整備や職員の充実向上についても検討する必要がある。
 そこで,第二の問題点としては,施設の整備と職員の充実向上への対策が望まれる。
 まず,施設の整備については,昭和四〇年に,帯広,青森の両少年院を新設し,すでに,収容を開始しており,四二年七月には,喜連川少年院が開設された。このほか,老朽建物を取りこわして新築し,近代化した少年院も,一〇数庁に及んでいるが,一般社会生活の進展,向上に伴い,常に,改築整備を迫られている現状である。
 つぎに,職員の問題についてみよう。在院者のほとんどが,学業および職業に対する意欲に乏しく,非行が固定化している。そのため,劣等感をもち,一般社会人に対する疎外感や対人関係における不信感などを深めている者である。こうした在院者に対し,規律ある生活指導を行ない,学業等を授けるためには,まず,職員側の人格的接触を中心にした指導から始めなければならない。そこで,法務省矯正局においては,つとに,職員の問題に着目し,在院者の人格改善に直結している教官の増員を図り,最近五か年間で,一一七人の教官を増員しているが,まだ,在院者のすべてに,きめ細かな教育的処遇を与えるための人員としては不十分と思われる。
 さらに,矯正局は,教育的処遇の充実を図る目的で,従来,幹部研修として実施されている,地方および中央の矯正研修所における研修のほか,新たに,昭和三九年以来,青少年矯正職員・保護観察職員採用上級試験制度を設け,職員の質的向上に努めている。ちなみに,昭和四一年までの三年間に志願した人員は,八二四人で,これによる合格者六三人中五六人(四二年四月一日現在)を少年院に採用し,現在,この五六人は,各少年院で勤務している。
 その他,昭和三六年一〇月以降は,職員の中から適当な者を選択して,職業訓練大学校(職業訓練法第七条に規定するもの)に派遣し,職業訓練指導員の研修を受講させている。この職業訓練法による受講の結果,免許を得た人員は,昭和四二年五月までに二六人である。さらに,前述した矯正医官修学資金貸与制度による矯正医官の養成にも努めている。
 以上のほか,矯正局教育課においては,職員の執務参考誌として,「教育課連絡」を年間一〇回発行し,職員の研修に寄与しているほか,現場職員の研究意欲の向上を目的とする種々な計画を実施して,職員不足による矯正教育の不全を補充すべく努力を重ねている。