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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第二章/二/1 

1 収容状況

 補導処分による収容期間は,売春防止法第一八条によって,六月と規定されている。これに,すべての収容者を完全に更生させるためには,必ずしも十分な期間とはいえないが,補導処分の対象者が,売春防止法第五条の勧誘等の罪により,六月以下の懲役に処せられ,その執行を猶予されたものであることから,たとえ,本人の保護,更生のためとはいえ,法定刑以上に長期にわたる身体の拘束は好ましくないとの見解によるものとされている。
 昭和三三年五月,婦人補導院発足以来の年間新入院者の推移は,II-96表で明らかなとおり,昭和三五年を頂点として,年々減少の傾向を示し,昭和三九年からは,やや横ばい状態であり,昭和四一年の新入院者数は,二三一人で,三五年の約六〇%にすぎない。

II-96表 婦人補導院入出院状況および年末収容人員累年比較(昭和33〜41年)

 婦人補導院では,新入院者について,心身両面からの精密と検診を行ない,まず,身体面では,性病その他の疾病により療養を要するものを区別し,さらに,精神面では,おおむね正常な者と,性格異常者(精神病質者を含む。),精神薄弱者等に分類するほか,本人の年令,入院度数,その他の条件を考慮して,最も適当と思われる処遇方針を決定している。最近五年間の新入院者について,そのおもな傾向をみると,次のとおりである。
 まず,入院度数の推移をみると,II-97表のとおりで,年次による大きな変化はみられない。昭和四一年では,初入院者は,総数の五七・六%,二度目が二三・八%,三度目が一二・六%,四度目が四・三%で,五度以上の入院者は一・七%となっているが,前年に比べると,初入院者の割合がわずかに増加している。

II-97表 婦人補導院入院度数(昭和37〜41年)

 入院時の年令区分については,II-98表で明らかなように,昭和四〇年までは,二五歳ないし二九歳の年令段階の者が最も多く,三〇歳ないし三四歳がこれについでいたが,四一年では,三〇歳ないし三四歳が最も多く,ついで三五歳ないし三九歳,二五歳ないし二九歳の順となって,年長化の傾向が目につく。しかも,五〇歳以上の者が,前年の約二倍に増加しているのは,暗いものを感じさせる。

II-98表 婦人補導院入院時年令(昭和37〜41年)

 知能検査に現われた知能指数の分布をみると,II-99表に示したように,昭和四〇年までは,知能指数六〇ないし六九の段階にある,魯鈍クラスの精神薄弱者が最も多かったが,四一年では,知能指数四九以下の,重症痴愚段階の精神薄弱者が最も多くなっている。さらに,知能指数六九以下の精神薄弱者を一括してその比率をみると,三七年四二・六%,三八年四七・二%,三九年五五・三%,四〇年五八・四%,四一年五八・九%と増加し,三九年以降は,在院者の半数以上を占めている。なお,境界線級知能者である,知能指数七〇ないし七九の段階の者の比率は,ほぼ二〇%内外であり,したがって,多少とも知能に問題のある,境界線級知能以下の知能低格者が,在院者の八割近くを占めていることが注目され,売春婦への転落に,知能が大きな要因として役割を演じていることを暗示している。

II-99表 婦人補導院新収容者の知能指数別人員(昭和37〜41年)

 正常平均人の知能指数の分布では,一〇〇を中心として九〇ないし一〇九の段階にある者が最も多いのであるが,婦人補導院の在院者では,この段階の者は,わずかに六・五%で,痴愚段階以下の重篤な精神薄弱者(知能指数四九以下)の比率二四・三%よりも,はるかに少ないという異常な傾向を示している。これをまた,刑務所に収容されている一般女子受刑者の調査結果(昭和四一年一二月二〇日現在における矯正局調査,調査総数一,二〇三人)と比較してみると,女子受刑者では,普通またはそれ以上と思われる知能指数を示す者が一四・四%で,在院者の六・五%より多く,また,知能指数六九以下が四三・八%で,在院者の五八・九%より約一五%少ない。これによっても,婦人補導院の在院者には,一般の女子受刑者よりも,いっそう,知能低格者が多いことがわかるのである。
 つぎに,在院者の精神状況をみたのが,II-100表である。この表によると,正常者と準正常者とを加えた割合は,昭和四一年で五三・七%であり,残り四六・三%は精神障害者となっているが,この割合は,例年あまり変化はみられない。また,精神薄弱者と精神病者の割合は,一般女子受刑者のそれと比較してみると,高率であり,最近五年間の平均値では,精神薄弱者は,在院者三七・六%,女子受刑者八・六%,精神病者は,在院者一・一%,女子受刑者〇・五%である。

II-100表 婦人補導院新収容者の精神状況(昭和37〜41年)

 このように,精神状況の面から,一般女子受刑者と比較しても,婦人補導院の在院者は,かなり低格であり,知能においても,性格,人格の面においても,多くの問題をはらんでいることが理解される。
 最後に,入院時の疾患についてみると,II-101表に明らかなように,性病り患者が,昭和三七年には二八・七%であったが,四一年には四一・六%で,増加の傾向がうかがえる。

II-101表 入院時の疾患(昭和37〜41年)