犯罪の動向を示す指標としては、警察等の捜査機関が犯罪の発生を認知した件数である認知件数があるが、認知件数は社会で発生した犯罪の全てを示している数値ではない。そのため、暗数調査の結果は、警察等の捜査機関によって把握されていない犯罪の発生の実態を捉える手掛かりとなり得る。もっとも、一般国民を対象としたアンケート調査である暗数調査は、その調査手法等に限界があること、殺人事件等の被害者が調査に回答することができない犯罪、薬物犯罪等の被害者がいない犯罪等は、調査対象とならないこと、回答の中には、我が国の法律上必ずしも処罰の対象とならない行為も、犯罪被害として含まれている可能性があることなど、一定の制約があるため、調査結果を見る際には留意が必要である。
同じ被害態様であっても、調査回によっては、定義や調査方法等が異なっているものもあるため、正確性に一定の限界があるものの、暗数調査の調査対象犯罪被害について、各回の暗数調査実施前の過去5年間の被害率及び被害申告率を被害態様別に経年で比較することは、犯罪被害の動向等を概括的に把握する上で有益である。過去5年間の被害率を経年で比較した結果を見ると、多くの被害態様では、第6回調査における過去5年間の被害率が全調査回の中で最も低くなっており、このうち、自動車損壊及び性的な被害では、第1回調査以降、調査の回を重ねるごとに過去5年間の被害率が低下している。特に性的な被害は、第6回調査における過去5年間の被害率が最も低く、0.5%であった。他方、強盗等、ストーカー行為及びDVでは、第6回調査における過去5年間の被害率が前回調査からほぼ横ばい又はやや上昇している。各種詐欺等被害では、他の被害態様と傾向が異なり、第4回調査以降、過去5年間の被害率が上昇傾向にあり、被害態様別に見た第6回調査における過去5年間の被害率が最も高く、約9%であった。
過去5年間の被害申告率を被害態様別に経年で比較した結果を見ると、多くの被害態様では、第6回調査における過去5年間の被害申告率が、第5回調査から上昇しており、このうち、性的な被害及びストーカー行為では10pt以上、バイク盗では15pt以上、それぞれ上昇している。もっとも、前回調査よりも被害申告率は上昇しているものの、各被害に遭った者のうち捜査機関に被害を届け出た者は、ストーカー行為では約3人に1人、性的な被害では約4人に1人、各種詐欺等被害では約5人に1人の割合にとどまっており、他の被害態様と比べると、被害が潜在化する危険性が高いといえる。他方、車上盗、自動車損壊及び暴行・脅迫では、第6回調査における過去5年間の被害申告率は、第5回調査から低下しており、特に暴行・脅迫ではほぼ半減している。
実際に犯罪が発生したにもかかわらず、その被害が警察等の捜査機関に届けられなかった場合に、犯罪の被害が潜在化し、いわゆる暗数が生じることになる。犯罪被害を潜在化させないための方策を検討するに当たっては、暗数が発生する要因を探るため、犯罪被害者が被害を申告しなかった理由を把握することが有益と考えられる。そこで、第6回調査における過去5年間の被害申告率が3割以下にとどまった被害を中心に、第6回調査における被害不申告の理由を見ると、各種詐欺等被害のうち、クレジットカード情報詐欺では、「カード会社に知らせた」が約9割を占めて突出して高かったが、その他の詐欺被害では、「それほど重大ではない」が4割強を占めていた。「自動車損壊」では、「それほど重大ではない」が最も高く、5割強を占めており、「ストーカー行為」及び「DV」では、「自分又は家族による解決」が最も高く、5~6割を占めていた。他方、「暴行・脅迫」及び「性的な被害」では、特定の被害不申告の理由が過半数を占めることはなく、複数の理由に分散する傾向が見られた。このうち、「性的な被害」では、「それほど重大ではない」が4割であったが、ほかに3割に達した理由はなく、「自分で解決した(加害者を知っていた)」及び「仕返しのおそれからあえて届け出ない」が3割弱、「捜査機関の関与不可又は不要」、「被害に遭ったことを知られたくなかった」及び「どうしたらよいのか分からなかった」が2割であった。なお、「加害者の処罰を望まなかった」は該当がなかった。