前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和7年版 犯罪白書 第7編/第1章

第7編 犯罪被害の実態(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)
第1章 はじめに

安全で安心して暮らせる社会を実現することは、国の重要な責務であり、国は、これまで犯罪等(犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為をいう。以下この編において同じ。)を抑止するためのたゆみない努力を重ねてきた。しかしながら、様々な犯罪等は跡を絶たず、国民の誰もが犯罪被害者等(犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいう。特に断りがない限り、以下この編において同じ。)となり得る現実があり、犯罪被害者等は、犯罪等による直接的な被害にとどまらず、副次的な被害にも苦しめられてきた。

そこで、平成16年12月、犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)が制定され、我が国は、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出した。政府は、同法により、犯罪被害者等のための施策(犯罪被害者等施策)に関する基本的な計画(犯罪被害者等基本計画)を策定することとされ、17年、23年及び28年と3次にわたって犯罪被害者等基本計画を策定し、犯罪被害者等のための施策を進展させてきた。

しかし、犯罪被害者等は依然として多くの問題を抱えている上、犯罪被害者等の属性やその直面している困難な状況等も多岐にわたるため、犯罪被害者等の個々の事情に一層配慮した支援が求められている。また、性犯罪等が深刻な社会問題となる中、自ら被害を訴えることが困難で、支援の手が十分に行き届いていない犯罪被害者等の声なき声にも耳を傾ける必要がある。そこで、政府は、令和3年3月に第4次犯罪被害者等基本計画(計画期間は3年4月1日から8年3月31日までの5か年)を策定し、同計画の中で、性犯罪被害者、障害者等の犯罪被害者の特性に応じた被害実態の調査・分析を実施する方向での検討も含め、犯罪被害の動向及び犯罪被害者等施策に関する調査を実施することとした。

法務総合研究所は、平成12年から、犯罪被害の動向及び被害実態に関する調査・研究として、一般国民を対象としたアンケート調査により、警察等の公的機関に認知されていない犯罪の件数(暗数)の調査を行ってきた。同年に実施した第1回犯罪被害実態(暗数)調査は、元年(1989年)以降、世界規模で定期的に実施されていた国際犯罪被害実態調査(ICVS:International Crime Victims Survey)の第4回調査(12年(2000年))に参加する形で実施し、平成12年版犯罪白書等において、その分析結果等を紹介した。その後も、16年、20年、24年及び31年の4回にわたり、第2回から第5回までの暗数調査を実施し、それぞれ平成16年版、20年版、24年版及び令和元年版犯罪白書等において、それらの分析結果等を紹介してきた。暗数調査は、犯罪動向に関する経年比較を行うため、一定の周期で継続的に行うことが重要である。そこで、第5回調査から5年が経過した令和6年、第4次犯罪被害者等基本計画に沿って、我が国の犯罪被害の動向及び被害実態等を明らかにするための基礎的なデータを収集するべく、第6回犯罪被害実態(暗数)調査を実施した。

また、性犯罪被害者のうち、精神障害を有する者(「精神障害者(統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者)」をいい(精神保健福祉法5条)、「発達障害者」(発達障害者支援法(平成16年法律第167号)2条)を含む。以下この編において同じ。)については、自らが遭遇した犯罪等の被害を適切に申告できず、被害が潜在化しやすいという問題点が指摘されている。しかし、前記暗数調査では、その性質上、精神障害を有する者の性犯罪被害の実態を具体的に解明することが困難である。法務総合研究所は、前記暗数調査のほかに、昭和61年版犯罪白書特集「犯罪被害の原因と対策」、平成11年版犯罪白書特集「犯罪被害者と刑事司法」等において、犯罪被害や犯罪被害者等の実態等について調査・研究を実施してきたが、これらの調査・研究から相当の年月が経過している。そして、法務総合研究所では、これまで性犯罪に特化した被害実態又は精神障害を有する者の被害実態に焦点を当てた研究の実績はない。そこで、第4次犯罪被害者等基本計画に沿って、令和5年、性犯罪被害者のうち、精神障害を有する者に焦点を当てて、刑事事件の確定記録調査を実施した。

本白書では、本編において、「犯罪被害の実態(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)」と題し、我が国における近年の犯罪被害の動向、犯罪被害者等施策の取組の現状等を紹介するとともに、前記第6回犯罪被害実態(暗数)調査及び精神障害を有する者等の性犯罪被害に関する刑事確定記録調査の各分析結果を報告し、犯罪被害者等に適切な支援を実施する前提となる犯罪被害の実態把握に資する基礎資料を提供することを目指した。

本編の構成は、次のとおりである。

第2章では、各種統計資料に基づき、被害者に着目して犯罪被害の動向を概観する。

第3章では、検察、矯正及び更生保護の各段階において実施されている犯罪被害者等施策のうち、注目すべき各種取組について、具体的な数値や現場における工夫等を紹介する。

第4章では、特別調査<1>(犯罪被害の暗数)と題し、前記第6回犯罪被害実態(暗数)調査によって明らかになった事項を、第5章では、特別調査<2>(精神障害を有する者等の性犯罪被害)と題し、前記刑事確定記録調査によって明らかになった事項をそれぞれ紹介する。

最後に、第6章では、我が国における犯罪被害の実態等に関して総合的に考察し、犯罪被害者等の個々の事情に一層配慮した支援の在り方等について留意すべき点を検討する。