平成25年11月、自動車の運転による死傷事件に対して、運転の悪質性や危険性等の実態に応じた処罰ができるようにするため、自動車運転死傷処罰法が成立し、26年5月に施行された。この法律において、<1>従来の危険運転致死傷罪が刑法から移されて規定されるとともに(当時の第2条1から5号)、危険運転致死傷罪の新たな類型として、通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して人を死傷させた場合が追加され(当時の同条6号)、<2>アルコール、薬物又は病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合について、従来の危険運転致死傷罪より刑の軽い、新たな危険運転致死傷罪として新設された(第3条)。また、<3>従来の自動車運転過失致死傷罪が刑法から移されて過失運転致死傷罪として規定されるとともに(第5条)、<4>アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して過失により人を死傷させ、その運転のときのアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる行為をした場合について、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として新設され(第4条)、<5>危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪及び過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯した時に無免許運転であったときは、刑を加重する規定が新設された(第6条)。
さらに、令和2年法律第47号による改正では、いわゆるあおり運転(あおり運転については、本節2項参照)に関し、自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするため、<1>車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転して人を死傷させた場合(第2条5号)、<2>高速自動車国道等において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせて人を死傷させた場合(同条6号)が、危険運転致死傷罪の新たな類型として追加された(令和2年7月施行)。なお、本改正により、改正前の第2条5号は7号、同条6号は8号となった。