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令和6年版 犯罪白書 第3編/第2章/第4節/コラム6

コラム6 保護者に対する働き掛け

少年法において、保護者とは、少年に対して法律上監護教育の義務のある者及び少年を現に監護する者をいう。少年は、心身ともに未成熟で、精神的にも社会的にも自立していないことから、非行をした少年(以下「少年」という。)の保護者がその責任を自覚し、少年の処遇を担当する機関と協力して、処遇にも積極的に関わっていくことが、少年の改善更生において極めて重要である。

本章で紹介したとおり、少年院においては、在院者の保護者その他相当と認める者に対し、処遇についての理解と協力を求めるため、また、その監護に関する責任を自覚させ、矯正教育の実効を上げるための各種取組を実施している(第3編第2章第4節3項(3)参照)。例えば、保護者参加型プログラムでは、行事への参加のほか、在院者と共にプログラム(薬物非行防止、SNSの適切な使用等)を受講する機会を設けるなどしている。また、被害者のある非行をした在院者が被害者に対してその責任を果たしていくためには、保護者等の存在が重要であることに鑑み、犯罪被害者や犯罪被害者のサポートをしている支援団体の職員などを招いて、犯罪や非行の被害者が置かれている状況やその心情を理解するための講義なども実施している。

他方、保護者自身が課題を抱え、支援を必要としている実態も明らかとなっている。令和5年版犯罪白書の特集「非行少年と生育環境」においては、少年院在院者や保護観察対象者とその保護者に対して実施した特別調査の結果を紹介しているところ、そこからは、調査対象となった保護者の中には、何らかの事情により、社会的に、又は家庭内で孤立している者がいることが示唆された。また、保護者が求める支援としては、「相談に乗ってくれる窓口」が最も多く、「気軽に相談したり、ぐちをこぼしたりできる相手」といった項目についても相応のニーズが示されていた。

少年院では、従来から、保護観察所と連携し、保護者との面接等の中で、法務教官等において各家庭が直面する課題を把握して必要な助言を行っているほか、少年院に配置されている社会福祉士等が出院後の在院者のサポートに必要な窓口等に関する情報提供も実施している。また、加害者の家族ならではの悩みに対応する取組として、東北少年院では、保護者講習会を開催している。犯罪加害者の家族は、身内である加害者の犯罪によって、失業・転職するなどして生活に困窮したり、周囲から誹謗中傷を受けたり、SNSなどで個人情報を流出されたりするなど、社会的に孤立を余儀なくされている場合もあることから、保護者講習会では、こうした加害者家族を支援しているNPO法人「World Open Heart」の理事長を招いて、加害者家族支援の実際についての講話などを行っている。講師からは、少年が起こした事件に関して親が置かれる状況について説明がなされ、家族にもお金、時間、心の限界があること、また、家族自身も困ったときはサポートを受けてよいことなどが語られ、現に我が子が起こした事件等で悩んでいる保護者には高い関心を持って受け止められている。

また、保護観察所においても、保護者への指導・助言を実施している(第3編第2章第5節3項(6)参照)。その一例として、新潟保護観察所では、保護観察処分少年及び保護観察所が生活環境の調整を実施している少年院在院者の保護者を対象として、保護者会を開催しており、保護者としての少年への関わり方や、保護者が抱える課題の解消に資する知識及び情報又は技術を提供し、また、保護者自身が今後の少年との関わりを前向きに考えることを支援している。保護者会では、例えば、親業インストラクターを講師として招き、「子どもとの接し方を学ぶ」というテーマで、子どもからの話の聞き方、子どもに話を聞いてもらうときの接し方についての講義を実施後、参加者が2人一組となって、子どもと実際に接する場面を想定したロールプレイを行うなどしている。参加した保護者の多くは、子どもとの接し方に悩みを抱えており、その共有を図ることができるとともに、子どもとの関わり方について学ぶ機会となっている。

新潟保護観察所における親業インストラクターによる講話【写真提供:法務省保護局】
新潟保護観察所における親業インストラクターによる講話【写真提供:法務省保護局】

令和4年版犯罪白書特集「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観」においては、刑事施設入所者、保護観察対象者、少年鑑別所入所者に対する質問紙調査の結果を紹介している。法律で禁じられているような「悪い」ことをしようと思ったときに、それを思いとどまらせる心のブレーキとなるものを年齢層別に見ると、「父母のこと」と回答した者の構成比は、20歳以上の者(20~29歳は24.3%、30~39歳は24.0%、40~49歳は21.8%)と比べて少年(16歳未満は33.3%、16・17歳は48.1%、18・19歳は40.7%)は顕著に高く、少年にとっての父母の存在の大きさがうかがえる。少年の改善更生において、保護者の果たす役割は大きく、今後も、必要な指導・支援の積極的な実施が期待される。