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 昭和41年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/2 

2 保護観察

(一) 保護観察の対象

 保護観察の対象者は,つぎのとおりである。
イ 家庭裁判所の決定により,保護観察に付された者(以下「保護観察処分少年」という。)
ロ 地方更生保護委員会の決定により,少年院からの仮退院を許された者(以下「少年院仮退院者」という。)
ハ 地方更生保護委員会の決定により,仮出獄を許された者(以下「仮出獄者」という。)
ニ 刑事裁判所の判決により,刑の執行を猶予され,保護観察に付された者(以下「保護観察付執行猶予者」という。)
ホ 地方更生保護委員会の決定により,婦人補導院からの仮退院を許された者(以下「婦人補導院仮退院者」という。)
 このうち,イロハは,犯罪者予防更生法の施行によるものであり,ニは,昭和二八年および同二九年の刑法ならびに犯罪者予防更生法の一部改正により,従来「一八歳に満たないとき懲役又は禁こにつき刑の執行猶予の言渡を受け,猶予中の者」とあったものが,現行のとおりに改められたのであり,ホは,売春防止法の施行により追加されたものである。
 これらの対象者について,保護観察新受人員の各年別増減の状況は,II-1図のとおりで,総数においては,昭和二四年以降,二七年が第一頂点,三五年が第二頂点を示したが,その後は,三六,三七,三八年が減少し,三九,四〇年が逆に増加してきている。

II-1図 保護観察新受人員累年比較(昭和24〜40年)

 これを対象種別ごとにみると,保護観察処分少年は,おおむね総数と同様の傾向で,昭和三六,三七年が減少し,三八,三九,四〇年が,逆に増加してきている。少年院仮退院者および保護観察付執行猶予者は,年によって若干の増減はあるが,数年来,おおむね横ばいの状態である。仮出獄者は,昭和三五年以降,漸減の傾向を示している。婦人補導院仮退院者は,数はきわめてわずかであるが,累年減少している。

(二) 保護観察の実施機構

(1) 保護観察所

 保護観察の実施をつかさどる機関に,保護観察所である。保護観察所(四九庁)は,各地方裁判所の所在地に置かれている法務省の出先機関で,それぞれの管轄区域内の保護観察対象者に対して保護観察を実施している。保護観察所には,保護観察官のほか,保護司が所属し,保護観察の実務を担当している。保護観察対象者は,それが区域内に広く分散居住し,社会人として生活しているもので,その状況を直接かつ常時には握し,これに対し適時適切な措置を講ずる保護観察所の業務は,本来,非常にむずかしいものである。したがって,庁外での活動や事務が多く,職員も,それに応じた人員が必要であるが,昭和四〇年末現在におけるその配置状況は,II-97表のとおりで,大都市を管轄区域に有するところ以外の大多数の保護観察所においては,全職員数が二〇人以下という比較的小規模な状態におかれている。

II-97表 保護観察所職員数と保護観察中の人員(昭和40年12月31日現在)

(2) 保護観察官

 保護観察官は,保護観察所に配置されている国家公務員で,心理学,教育学,社会学,精神医学,その他の更生保護に関する専門的知識,技能を必要とするケースワーカーである。保護観察官の業務は,保護観察対象者に対する保護観察を主とするものであるが,その他に,在監,在院者の環境調査調整,地域社会の犯罪予防活動,および更生緊急保護に関するもの等があり,かなり多様な分野にわたっている。また,保護観察官の全国定員数は,保護観察の制度が発足した昭和二四年には六四七人であった。その後,三六年に一〇〇人,四〇年に二二人の増員が行なわれ,現在七六九人である。そのうち,八八人は,地方更生保護委員会に配置されており,保護観察所の配置定員は六八一人(所長四九人,次長一人,課長一五七人を含む。)である。なお,所長を除き,保護観察官一人あたりの,昭和四〇年末における保護観察対象者の平均担当数は,一六二・一人で,その負担は,相当に過重な状態にある。

(3) 保護司

 保護司は,社会奉仕の精神をもって,犯罪者の改善および更生を助けるとともに,犯罪の予防のため,世論の啓発に努めて,地域社会の浄化をはかり,個人および公共の福祉に寄与することを使命とし,全国で,九二七区の保護区(法務大臣が都道府県の区域を分けて定める区域)に配属されている。その数は,全国を通じて五二,五〇〇人(定員)である。また,その身分は,法務大臣より委嘱を受けている無給与(職務に要した実費の一部としての実費弁償金が給与されるに過ぎない。)の非常勤国家公務員である。保護司として具備すべき条件は,社会的信望があり,更生保護の仕事に熱意および時間的余裕を有し,生活が安定していて,健康で活動力を有すること等である。任期は,二年であるが,再任を妨げないものとされている。
 保護司の任務は,保護観察官で十分でないところを補うものとされ,地方更生保護委員会または保護観察所長の指揮監督を受けて,それぞれ,地方更生保護委員会または保護観察所の所掌に属する事務に従事するものである。実際の保護観察の仕事に関しては,保護観察所長より指名を受けて,保護観察対象者の担当者となり,直接,対象者の指導監督や補導援護にあたっている。また,担当を委嘱された在監,在院者の環境調査調整の仕事および地域社会における犯罪予防活動にも従事している。保護司一人あたりの保護観察対象者数は約二人である。保護司は,外国には類例のないわが国独得の制度によるもので,地域ごとに選ばれたボランテアということができるが,個々には,物心両面にわたり相当の犠牲をはらって従事しているもので,その実績は,すでに高く評価されている。しかし,犯罪者の処遇というむすかしい仕事に対する十分な知識,技能を有し,かつ,定められた適格条件を具備する人材を,それぞれの地域社会に求めることは必ずしも容易なことでなく,地方更生保護委員会および保護観察所においては,その人材の発見に相当の苦慮をはらっている。実状としては,温厚な特望家的人材が,その大部分を占めているが,II-98表にみるとおり,やや高令者に偏している状況で,またII-2図にみるとおり,それぞれの職業に従事している者であるから,その活動は,余暇的なものにならざるを得ないものである。最近,民間篤志家たる保護司に過重な負担をかけてはならないという意見が,関係者の間に多くなりつつあることは注目すべきことである。

II-98表 全国保護司の年令別比率(昭和40年10月1日現在)

II-2図 全国保護司の職業別比率

(三) 保護観察の実施状況

(1) 保護観察の開始および期間

 保護観察は,それぞれの対象者につき,その居住地を管轄する保護観察所において,つぎに掲げる日から開始される。また,その期間はかっこ内に示すとおりである。
イ 保護観察処分少年は,保護処分の言渡しの日(本人が二〇歳に達するまで,ただし,二〇歳に達するまでの期間が二年に満たない者については二年間)
ロ 少年院仮退院者は,仮退院の処分による出院の日(仮退院中の期間,一般には二〇歳に達するまで)
ハ 仮出獄者は,仮出獄の処分による出獄の日(残刑期間,ただし,無期刑の場合は終身)
ニ 保護観察付執行猶予者は,言渡し確定の日(執行猶予の期間)
ホ 婦人補導院仮退院者は,仮退院の処分による出院の日(補導処分の残期間)
 また,保護観察は,原則として,右の期間が満了した日に終了する。しかし保護観察の期間中に,その成績が良好または不良のため,とくに措置がとられ,それにより終了する場合がある。

(2) 保護観察の方法

 保護観察の目的は,もとより,対象者の健全な社会の一員としての改善および更生をはかることであるが,その方法は,対象者が,法によって規定された遵守事項を遵守するように指導監督すること,および本人に本来自助の責任があることを認めて,これを補導援護することに分かつことができる。
 指導監督の方法としては,遵守事項を遵守させることを中心として,本人に種々の指示を与えるとともに社会の善良な一員となるための措置をとることとされている。遵守事項には,一般遵守事項と特別遵守事項の二種類がある。
 まず,一般遵守事項は,犯罪者予防更生法によって,保護観察処分少年,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者の四種の対象者については,[1]一定の住居に居住し,正業に従事すること,[2]善行を保持すること,[3]犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないこと,[4]住居を転じ,または長期の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察を行なう者の許可を求めることの四項が定められている。保護観察付執行猶予者に対しては,執行猶予者保護観察法によって,住居の届出を行なうことのほか,[1]善行を保持すること,[2]住居を移転し,または一か月以上の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所の長に届け出ることの二項が定められている。
 つぎに,特別遵守事項は,保護観察処分少年については,保護観察開始当初,家庭裁判所の意見を聞き,保護観察所長が定めて,これを対象者に指示して誓約させ,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者については,地方更生保護委員会が定めて,刑務所,少年院,婦人補導院の長が,それぞれ,本人に指示して誓約させることになっている。保護観察付執行猶予者については,特別遵守事項はなく,保護観察所長において,本人の更生のために必要な具体的事項を指示することになっている。
 これらの遵守事項は,更生の指針や生活の目標とすべきものを主としてとりあげて,対象者に対し,遵守の義務を負わせるもので,とくに,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者については,それを遵守しなかった場合に,保護観察所長において,それぞれ,戻し収容の申出,仮出獄取消の申請,仮退院取消の申請を行なうことができる。したがって,遵守事項の指示およびその誓約は,保護観察の実施のうえにきわめて重要なことで,なかんずく,特別遵守事項は,対象者個々の更生のためにもっとも必要な事項が具体的にとりあげられることになっている。
 補導援護の方法としては,対象者の性格,環境等に応じ,適時適切な援助的手段を講ずるもので,教養訓練,医療保護,食事の給与,宿泊所の供与,職業補導,就職あっせん,環境調整等,広く各般にわたって必要に応じ,これを行なうものである。したがって,指導監督,補導援護の実施上,どの場合にも共通する原則的事項として,[1]遵守事項を遵守させること,[2]保護観察は,本来本人に自助の責任があることを認めて,これを行なうものであること,[3]対象者と接触を密にし,その行状を見まもることの三項が重視されており,さらに,この三つの原則的事項に関連し,その基盤的な方法として,保護観察を行なう者と対象者との間には,親近感と相互理解のもとに,あたたかい人間関係をつくりあげるということが強調されている。
 このように,保護観察は,社会生活を営んでいる犯罪者や非行少年を対象とし,人間愛を基調とした指導監督と補導援護を行なうところの社会内処遇の方法をとるもので,そこに特別のむずかしさがあり,その業務内容は,ケースに応じ複雑多岐にわたる性質のものである。

(3) 主任官と担当者の連けいの状況

 保護観察の業務は,保護観察所長の責任のもとに,主任官として指名を受けた保護観察官が,これを掌握している。また実際上,対象者の指導監督,補導援護に関する具体的な処遇にあたっている担当者は,保護観察官または保護司が保護観察所長の指名によって定められることになっている。しかし実際上は,多くの対象者の担当者は保護司で,対象者と接触のとり易い点,その他処遇上の効果等を考慮して,その指名が行なわれている。主任官と担当者は,ともに保護観察を行なう者として相互に緊密な連けいを保持して,対象者一人びとりに接触し,指導監督と補導援護を行なっている。両者の連けいの概略はつぎのとおりである。
 まず,保護観察事件が新たに受理されると,主任官は,地方更生保護委員会,裁判所,検察庁,その他から送付された関係書類を参考とし,また直接本人に面接し,その心身の状況等を調査し,上司の指示を受けて保護観察の方針をたてて保護票を作成し,これを担当者に送付するとともに,保護観察を開始するよう通知し,その後,担当者を指揮するとともにその報告を受けることになっている。担当者は,主任官を通じて受けた保護観察所の指示に従って,指導監督ならびに補導援護の具体的計画をたて,それに基づいて種々の処遇を行なっている。また,担当者は,保護観察実施の状況を,毎月末,定められた様式により,また必要に応じ随時,主任官を通じ保護観察所長に報告することになっている。主任官と担当者との連けいの具体的内容について,これを統計的にみる資料はないが,かなり密接に行なわれている状況である。すなわち,担当者からは,右に述べた定期報告のほか,必要に応じ往訪,電話,文通等により主任官に連絡をとり,主任官は,通信によるほか,保護司会への出席,保護区への出張,駐在等の機会に,担当者と個々に連絡をとることにつとめている。とくに,保護司会の開催が近年活発になっているが,この機会は,保護観察の実務の面で,主任官と担当者の連けいに活用されている。

(4) 担当者と対象者の接触の状況

 担当者と対象者の接触状況に関しては,担当者から,毎月,保護観察所に提出される保護観察成績報告書の内容を,法務省保護局において集計した結果により,その概況を知ることができる。それによれば,近年三年間の状況は,II-99表のとおりであるが,担当者と対象者の双方からとった連絡状況を,昭和三九年についてみると,全く連絡のないものが二・九%あることは留意を要することである。保護観察における連絡の方法としては,対象者からの来訪を待つ方法が適切である場合もあるが,対象者は,本来指導監督および補導援護のなんらかの処遇を相当期間にわたり必要とするものであるから,例外的な場合は別として,対象者からの来訪を待つのみで担当者としてはとくに往訪連絡を行なわないという方法では,保護観察の完ぺきを期することはむずかしいものである。したがって,担当者による連絡の回数は,相当に多いことが望まれるものである。また,かなり問題点のある対象者であれば,一か月に一回ぐらいの連絡では,計画的な指導や援護をするに不十分な場合が多いと思われるが,双方からの連絡をあわせて一回のもの,全く連絡のないものも若干あり,また,担当者による往訪連絡の全くないものも見受けられるが,保護観察を充実して行なうためには,対象者からの連絡があっても,担当者の方からも,少なくとも一か月に一回以上は,往訪的な方法で接触すべきであると考えられる。もちろん,担当者が対象者を自宅や職場等に往訪しても,不在のため面接できない場合もかなりあると思われるが,さらに接触を密に行なうべきケースがかなり残されている状態であると思われる。いうまでもなく,担当者と対象者の接触は,保護観察活動の基底をなすものであるから,その充実のためには,いっそうの努力が必要と思われる。なお,ボランテアとしての保護司の往訪連絡の密度を,現状より著しく向上せしめることは期待しがたいという見解を持つ関係者もあるが,保護観察のいっそうの充実は,緊急の課題であるので,今後,保護観察官により対象者との接触の充実をはかる等の対策が必要と思われる。

II-99表 担当者と対象者との連絡状況

(5) 保護観察所への出頭状況

 保護観察の開始にあたって,対象者の保護観察所への出頭を確保することは,保護観察を当初より軌道に乗せるうえから,非常に重要なことである。これについては,前処分庁または矯正施設で,社会復帰の際には,すみやかに保護観察所または保護観察所の指示する場所に出頭するよう,説示または指示が与えられていて,大多数の対象者は,保護観察の開始の日またはその翌日に出頭している。出頭した者に対しては,主任官が面接し,保護観察の趣旨,保護観察期間中の心得,遵守事項等について説示等を行ない,円滑な保護観察への導入がはかられている。
 昭和三九年中に保護観察を開始した者の出頭状況は,II-100表のとおりで,全体では九四%の出頭率を示し,また,ここ数年来の全体の出頭率は,向上してきており,相当によい成績をおさめている状況である。このことは,保護観察の業務が関係機関との連けいのうえに次第に充実してきたことを暗示するものであろう。ただ,保護観察付執行猶予者が,他の種別の対象者に比し,一〇%程度低い出頭率であるが,これは,裁判所が保護観察に付する旨の判決を言い渡しても,判決確定までの間に空白の期間があり,また,法律上,保護観察を受ける住居地は,本人が,みずからこれを定めて,保護観察所長に届け出ることになっており,出頭を確保しにくい実状にあるためと考えられる。

II-100表 保護観察開始時における保護観察対象者の出頭状況(昭和39年)

 出頭しない者に対しては,呼出し等の方法で出頭を促すことになっているが,自主的に一日も早く出頭させることが,所在不明を防止する等のうえからも必要で,そのためには,さらに関係機関との協力体制の強化をはかるとともに,現在一一か所におかれている駐在官事務所(名瀬,八王子,沼津,浜松,姫路,豊橋,飯塚,小倉,佐世保,室蘭,網走)を増設するなどの施策が考えられる。

(6) 対象者の成績の状況

 対象者の保護観察成績は,毎月担当者から提出される保護観察成績報告書の記載内容に基づいて,保護観察所において,「良」,「やや良」,「普通」,「不良」の四段階に評定されている。この評定の仕方で,「良」とは,ほとんど問題が認められず,善良な社会人と同等程度に更生していると認められるもの,「やや良」とは,善良な社会人と同等の水準に近づいているもの,「普通」とは,更生意欲が消極的で,指導監督上相当の注意を要するもの,「不良」とは,多くの問題点を有し,指導監督上強力な措置を要すると認められるものである。法務省保護局が行なった昭和三九年五月末の成績は,II-101表のとおりで,全体としては,「良」,「やや良」があわせて五一%強,「普通」が四一%強,「不良」が七%強という状況で,過半数の対象者の行動は,通常の社会人としての水準にあるということができる。保護観察種別ごとにみれば,仮出獄者がもっともよい成績を示し,少年院仮退院者がもっともよくない状況で,注目される。

II-101表 事件種別成績評定百分比(昭和39年5月31日現在)

 昭和三〇年以降の期間満了により保護観察を終了した者の成績別累年比較は,II-102表のとおりである。これによれば,成績が「良」,「やや良」の者は,年を追ってその割合が増加し,「普通」,「不良」の者の割合が同様に減少している。そのうちでも,とくに「良」の割合の増加,「不良」の割合の減少が目だっている。このことは,さらに分析の要もあるが,一応,保護観察の業務が年を追って充実してきたことを物語るものとみることができよう。

II-102表 期間満了による保護観察終了者の成績別累年比較(昭和30〜39年)

(7) 保護観察の成績が良好である場合の措置の実施状況

 保護観察の成績がとくに良好である対象者に対しては,それに相応する措置がとられている。その措置の内容および実施状況は,II-103表およびつぎに述べるとおりである。

II-103表 成績良好者に対して保護観察所のとった措置(昭和36〜40年)

 保護観察処分少年に対して,保護観察所長は,担当者の申出等に基づき,試みに保護観察を停止する措置をとり,また,本人が健全な社会の一員として更生したと思料されるとき,保護観察を解除する措置をとっている。最近五年間の停止および解除の措置を受けた対象者の状況は,II-104表のとおりで,昭和三九年中の保護観察終了者のうち,二〇%をこえる者が,成績良好により解除を受けている。

II-104表 保護観察処分少年の停止・解除人員累年比較(昭和35〜39年)

 少年院仮退院者に対して,保護観察所長は,本人が健全な社会の一員として更生したと思われるとき,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に対し,退院申請を行ない,その許可があった場合に,保護観察を終了する措置をとっている。昭和四〇年中にこの申請の行なわれた者九九人,そのうち,許可のあった者九六人である。なお,この退院申請の措置は,それに該当する対象者があれば,さらに積極的に行なうことが期待される。
 仮出獄者のうち,不定期刑のみによる者が,健全な社会の一員として更生したと思われるとき,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し不定期刑終了の申請を行ない,その決定があった場合に,保護観察を終了する措置をとっている。昭和四〇年中にこの申請の行なわれた者一三人,そのうち,不定期刑終了の決定のあった者一二人である。
 保護観察付執行猶予者のうち,成績の良好である者に対して,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,保護観察仮解除の申請を行ない,その決定があった場合に,保護観察を仮りに解除する措置をとっている。最近五年間の仮解除のまま保護観察を終了した者の状況は,II-105表のとおりで,この措置を受けた者の割合は,年を追って増加し,成績の良好な保護観察付執行猶予者に対する措置が,年々積極化している傾向がうかがわれる。

II-105表 仮解除の措置の状況(昭和35〜39年)

(8) 保護観察の成績が不良である場合の措置の実施状況

 成績がとくに不良な対象者に対しても,それに応じた種々の措置がとられている。その措置の内容および実施状況は,II-106表およびつぎに述べるとおりである。

II-106表 成績不良者に対して保護観察所のとった措置(昭和36〜40年)

 保護観察処分少年に対して,保護観察所長は,担当者の報告等に基づき,その成績がとくに不良で,本人が将来罪を犯すおそれがあると判断した場合,家庭裁判所に,この旨を通告する措置をとっている。昭和四〇年中に,この措置のとられた者は二八四人である。保護観察処分少年に対しては,再非行または成績不良等により処分の変更および取消の申請のできない現状において,この通告の措置は,必要に応じ,さらに積極的に活用することが望まれる。
 少年院仮退院者に対して,保護観察所長は,その成績がとくに不良で,その推移からみて少年院に戻して収容すべきことの申請を必要とすると思われた場合,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に,その申出を行ない,地方更生保護委員会は,その申出に基づき,家庭裁判所に対し,戻し収容の申請を行なっている。昭和四〇年中に戻し収容の申出の行なわれた対象者は八一人である。この申出は,仮退院中に,再非行のため家庭裁判所によりその取消を受ける者の数等より判断すれば,さらに積極的に行なう余地があると思われる。しかし,従来,保護観察所が戻し収容の申出を行なった者のうち,三〇%ないし四〇%程度は,家庭裁判所の決定をみるにいたらず,他の処分に付されている状況で,この点に,保護観察所として,この申出を行なうことに対して,やや消極的になりかねない事情があるかとも思われる。
 仮出獄者に対して,保護観察所長は,本人が所在不明のため保護観察を行なうことができなくなった場合,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に対し,保護観察の停止申請を行なっている。停止の決定があれば,その対象者は,停止の状態の続く限り,仮出獄中の刑期が進行しない。また,その対象者の所在を発見した場合は,地方更生保護委員会に報告して停止解除の決定を求める措置をとり,再び,保護観察を継続することになっている。昭和四〇年末現在におけるこの保護観察停止中の者は,一,七八三人(仮出獄者八,四七九人の二一%強)である。
 さて,この保護観察停止の決定により,保護観察所には,いわゆる所在不明対象者の係属が累積する結果となっている。保護観察中の所在不明者の状況は,II-107表のとおりで,とくに,大都市を含む保護観察所に所在不明対象者が多くなりつつある。もちろん,停止中に時効が完成して,それにより保護観察を終了する者もある(昭和三九年中の該当者一四四人)が,この仮出獄中の所在不明対象者の累積の現象は,保護観察所が所在発見のためにはらう努力をますます増大させ,それが本来の保護観察業務に支障を及ぼすという悪循環の原因になりかねない状況になっている。したがって,保護観察所としては,これに対処するため,保護観察所相互はもちろん,裁判所,矯正施設,警察等の関係機関と密接な連けいをとって,まず,対象者の所在不明という事態を招かないように努めるとともに,いったん,所在不明になった場合は,すみやかに,これが発見のためのいっそうの努力をはらい,前記のごとき悪循環を断ちきる必要がある。つぎに,仮出獄者に対して,保護観察所長は,対象者が仮出獄中に罪を犯し,罰金以上の刑に処せられたことを知ったときは,地方更生保護委員会に対し,仮出獄取消の申報を行なっている。また,本人が遵守事項を遵守せず,仮出獄取消が相当であると思われたとき,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に対し,仮出獄取消の申請を行なっている。

II-107表 保護観察種別所在不明状況累年比較(昭和36〜40年)

 昭和四〇年中に,仮出獄取消申報の措置のとられた対象者は四三八人,同申請の措置のとられた対象者は五五三人で,それらに基づき,仮出獄取消を受けた対象者は九〇三人である。
 保護観察付執行猶予者に対して,保護観察所長は,本人が遵守事項を遵守せず,その情状が重く,猶予の言渡しを取り消すべきものと思われたとき,検察官に対し,その申出を行なっている。昭和四〇年中に,その申出の行なわれた対象者は四九人である。また,保護観察付執行猶予者のうち保護観察を仮解除されている者で,その行為等に問題があって,再び,保護観察を行なうことを必要とする場合,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,仮解除取消申の措置をとっており,昭和四〇年中にこの措置のとられた対象者は一〇人である。
 婦人補導院仮退院者に対して,保護観察所長は,さきに述べた仮出獄者に対する取消に関する場合と同様に,申報,申請の措置をとることになっている。ただし,実際には,この種の対象者が少なく,また,仮退院期間が短い等のため,近年この措置のとられた対象者はない。
 以上のように,成績がとくに不良な保護観察対象者に対しては,これに対応して種々の法的措置がとられている。
 なお,右に述べた措置のほかに,それらと関連的にとられる措置に,呼出しおよび引致と留置がある。呼出しは,必ずしも保護観察の成績が不良の場合のみに行なうものではないが,保護観察所長が,必要に応じ対象者を呼び出し,主任官のもとで質問,訓戒,指導等を行なっている。また,対象者が一定の住居に居住しないとき,遵守事項を遵守しないとき,および呼出しに応じないとき等の場合に,地方更生保護委員会と保護観察所長は,裁判官の発する引致状により,保護観察官または警察官に引致させることができ,また,それらの対象者のうち,少年院への戻し収容,仮出獄の取消,婦人補導院仮退院の取消に関する審理を必要とする者,および保護観察付執行猶予者で執行猶予取消の申出に関する審理を必要とする者を,監獄もしくは少年鑑別所等に留置することができる。地方更生保護委員会と保護観察所長がこの権限を有するのは,保護観察を徹底して行なうため,およびそれに関連して必要とする措置をとるためである。最近五年間の引致の状況は,II-108表のとおりで,この措置をとった対象者の数は年を追って増加してきている。これは,本人の再犯防止と社会防衛のための措置が積極的にとられつつあることを示すものであろう。

II-108表 引致人員(昭和35〜39年)

(9) 救護,援護の措置の実施状況

 保護観察対象者が,負傷,疾病の場合,職業がない場合,あるいは宿泊所,食事が得られない場合等の事情により,更生が妨げられるおそれがあるとき,保護観察所は,まず,公共の施設から必要な保護が加えられるよう援助し,または,それがないか,あるいは不十分な場合に,自庁の予算で応急の保護措置をとっている(この場合の援助や保護を,保護観察処分少年,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者については救護と呼び,保護観察付執行猶予者については援護と呼んでいる。)。とくに,宿泊所および食事付宿泊の供与等の継続的な保護は,更生保護会および篤志の個人に委託して,これを実施している。最近五年間の救護,援護の実施状況は,II-109表のとおりで,措置人員は近年減少の傾向にあるが,これは,保護観察対象者の減少とともに,企業体における雇用者の宿泊設備等が近年整備されてきたことにより,その保護措置を必要とする対象者の減少に基づくものと考えられる。この救護,援護の措置の保護観察のうえにもたらす効果は,はなはだ大きいとみられている。とくに,宿泊所および食事付宿泊の供与を主内容とする継続保護は,その保護観察期間の範囲内において,その保護措置を必要とする限り,これを行なうことができるもので,保護観察におけるすぐれた補導援護の措置ということができる。大阪,千葉保護観察所においては,この措置を活用して保護観察中の少年を管内の更生保護会に委託し,自動車整備技能の習得をはかってよい成績をおさめている。今後,これらの保護措置は,さらに積極的に活用されることが望まれる。

II-109表 救護・援護の措置人員累年比較(昭和36〜40年)

(10) 婦人補導院仮退院者の状況

 婦人補導院からの仮退院は,II-110表に示すように,年間受理人員がきわめて少なく,昭和四〇年末係属の保護観察対象者は一人である。このように,その対象者が少なく,また保護観察期間も短いので,現在,その成績を評価することは困難である。

II-110表 婦人補導院仮退院者(昭和33〜40年)