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令和4年版 犯罪白書 第7編/第4章/第3節/コラム07

コラム7 米国の刑務所等における被収容者の新型コロナウイルスへの感染状況等

国連薬物・犯罪事務所(UNODC)が令和3年(2021年)に公表したレポートによると、同年5月までに、全世界の刑務所等において、122か国で55万人近くの被収容者が新型コロナウイルスに感染し、47か国で4,000人近くの被収容者が死亡したと推定されている。

本コラムでは、令和3年(2021年)末現在、新型コロナウイルス感染者が最も多く発生し、かつ、刑務所等に収容されている人口が最も多い国の一つである米国の刑務所等における新型コロナウイルスへの被収容者の感染状況等を紹介する。米国は、連邦、州、郡等ごとに異なる法体系を有していることから、連邦の刑務所等、州の刑務所等及び郡等の施設(ジェイル)等のそれぞれの感染状況を概観した上で、新型コロナウイルスへの感染が拡大した原因等に係る分析の一つを紹介し、最後に、被収容者の臨時の釈放についても言及する。

米国の連邦刑務所等においては、令和2年(2020年)2月末現在、約15万7,000人を収容していたが、令和3年(2021年)末までに、累計で4万3,126人に新型コロナウイルスへの感染が確認され、うち273人が死亡した。連邦刑務所等を所管する連邦行刑局の公衆衛生学の博士による研究では、令和2年(2020年)9月下旬までの新型コロナウイルス感染症による死者数等のデータにより、連邦刑務所等と米国の一般社会における性別・年齢の構成の差を調整した上で同感染症による死亡率を比較し、連邦刑務所等における死亡率が、米国の一般社会の死亡率より約2.6倍高かったと結論付けている。また、カリフォルニア州の刑務所等においては、同年2月末現在、約12万5,000人を収容していたが、令和3年(2021年)末までに、累計で5万2,201人に新型コロナウイルスへの感染が確認され、うち245人が死亡した。同州の刑務所等においては、令和2年(2020年)3月22日に被収容者で初めての新型コロナウイルスへの感染が確認された。その後、感染が急速に拡大し、累計の感染者数が、同年4月12日の週に100人を、同年5月17日の週に1,000人を、同年8月16日の週に1万人を、それぞれ超えるに至った。郡等が運営する施設においては、同年2月末現在、約71万人を収容していたが、新型コロナウイルスに係る多数の大規模感染(クラスター)が発生したと言われている。

カリフォルニア州の行政監査局は、同州の刑務所等における新型コロナウイルス感染症対策に係る施策等につき監査を実施し、その結果を令和2年(2020年)8月、10月及び令和3年(2021年)2月に公表した。それによると、令和2年(2020年)3月に矯正局が、収容区域に入る全ての職員及び来訪者を対象に健康状況の確認をするように指示したものの、一部の刑務所等ではその指示が徹底されず、そのことが感染拡大の一因となった可能性があるとのことである。また、マスクその他の個人用防護具(PPE)について、全国的な供給不足の中にあっても、同州の刑務所等で製造されるPPEがあったため、その確保自体には問題がなかったものの、職員や被収容者への着用の指示が徹底されなかったという問題点も指摘している。さらに、感染した場合のリスクが高い被収容者への感染を防止することを目的として、同年5月下旬に、同州の刑務所等の中で最も感染がまん延していた施設に収容されていた被収容者のうち、感染した場合のリスクが高い189人を2施設に移送したことにより、感染の急速な拡大につながったと指摘している。具体的には、感染の有無を確認するための検査を移送日の2週間以上も前に実施するなど、感染の有無の確認が適切に行われなかったことや、移送された被収容者を、板状の扉のある居室で構成される隔離棟ではなく、各居室間の空気の流れを遮断しない格子状の扉の居室で構成され、通路側から5階全ての居室が一望できる構造となっている居室棟に収容したことなどの問題により、移送された被収容者に含まれていた感染者に気付くことができず、他の被収容者に感染が拡大したと結論付けている。

最後に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い行われた刑務所等からの臨時の釈放について紹介する。UNODCが令和3年(2021年)7月に公表したレポートによると、刑務所等においては、特に、過剰収容の場合、手指消毒や社会的距離の確保といった同感染症の感染予防のための措置を実施することが極めて困難であることから、同感染症の感染拡大以降、119の国において、少なくとも70万人の被収容者が臨時に釈放され、又は釈放が認められ得る状況に置かれたとのことである。70万人は、令和元年(2019年)末における刑務所等人口の6%強に当たる。米国の連邦刑務所等においても、感染した場合のリスクが高い被収容者につき、刑務所等への収容に代え、在宅拘禁措置を講じており、令和2年(2020年)3月26日から令和3年(2021年)末までの間に、3万6,367人が刑務所等から釈放された。カリフォルニア州でも、令和2年(2020年)3月以降、残刑期が少なく、かつ、暴力犯の罪により収容されていない者その他一定の条件を満たす者を釈放することなどにより、刑務所等人口を2万2,000人以上減少させた。郡等が運営する施設においても、同年3月から6月までの間だけで、同感染症対策等のために約20万8,500人が臨時に釈放され、収容人口が、同年2月末から3月末にかけて17.5%、同月末から4月末にかけて11.3%、それぞれ減少した。