調査対象事件(全対象者(特別調査における調査対象者の実人員1,343人)が,全国各地の地方裁判所において,平成28年1月1日から同年3月31日までの間に,詐欺により有罪判決の言渡しを受け,その後,有罪判決が確定した事件)を犯行の手口別に見ると,特殊詐欺が総数の3分の1を占めて最も多く,次いで,特殊詐欺を含む他の犯罪のツールとなり得る通帳等・携帯電話機の詐取(13.7%),保険金詐欺(8.1%),無銭飲食等(7.8%)の順であった。特殊詐欺事犯者の特徴については,次項で更に詳しく触れることとするため,この項では,他の手口と対照する中で,必要な範囲でその特徴について触れることとする。
調査対象事件の約半数が共犯による事件であった。しかしながら,犯行の手口別に見ると,無銭飲食等のほとんど,通帳等・携帯電話機の詐取の約4分の3が単独犯であった。これとは対照的に,特殊詐欺は,ほぼ全件が共犯事件であり,4人以上の組によるものが約3割を占めており,特殊詐欺が組織的に実行されていることが裏付けられている。もっとも,特殊詐欺については,共犯者がいる事件の約9割で,共犯者に氏名不詳の者が含まれており,調査対象事件の判決が言い渡された段階でも,特殊詐欺の犯行グループの全容が解明されるには至っていなかったことがうかがわれる。全対象者の属性を犯行の手口別に見ると,特殊詐欺では,98.0%が男性であり,30歳未満(56.6%)及び30歳代の者(28.2%)が大多数を占め,65歳以上の者は0.5%にとどまった。また,特殊詐欺は,無職の者が63.7%,住居を有する者が84.8%,前科を有しない者が63.6%を占めた。これとは対照的に,無銭飲食等は,50~64歳の者(34.7%)の構成比が最も高く,65歳以上の者も11.1%いた。無銭飲食等は,無職の者が92.3%,住居を有する者が39.6%,前科を有しない者が16.0%であった。また,無銭飲食等については,前科を有する者に限ると,同種前科を有する者が6割強,同種前科5回以上を有する者が2割弱を占めた。全対象者について,調査対象事件の詐欺被害額別構成比を見ると,特殊詐欺は,100万円以上が7割強,1,000万円以上が4割弱と,被害額が高額に及ぶものの割合が高い一方,無銭飲食等は,10万円未満のものがほとんどを占める。被害回復・弁償について見ると,全部の被害回復・弁償を行った者の構成比は,全部執行猶予者では40.1%であり,全対象者(26.0%)よりも高かったが,全対象者の約3分の1,全部執行猶予者の約4分の1は,被害回復・弁償をしておらず,裁判段階において,詐欺被害者の被害回復が十分になされていない実態が確認された。犯行の動機・理由を見ると,犯行の手口別及び年齢層別共に,総数では「金ほしさ」が最も割合が高かったが,犯行の手口別では無銭飲食等,年齢層別では50~64歳の者及び65歳以上の者について,それぞれ「生活困窮」の割合が高かった。また,特殊詐欺については,「友人等からの勧誘」の割合も高かった。全対象者に対する有期の懲役の科刑状況を犯行の手口別に見ると,通帳等・携帯電話機の詐取及び保険金詐欺で,全部執行猶予の構成比が高かった。全部実刑の者の刑期を見ると,特殊詐欺では2年以上3年以下の者の構成比が最も高く,無銭飲食等では1年以上2年未満の者の構成比が最も高い。また,全部実刑の刑期が3年を超える者が,特殊詐欺では3割強であったのに対し,無銭飲食等では2.1%にとどまった。
全対象者調査の結果から,特殊詐欺事犯者については,若年層の男性が,住居は有するものの,無職であることを背景に,金ほしさや友人等からの勧誘を契機に犯行に及び,前科は有しないものの,被害額が高額であることもあり,懲役2~5年の全部実刑,あるいは,懲役2~3年の全部執行猶予に処せられる者が多いという実像が,無銭飲食等詐欺事犯者については,中年層の男性が,不安定な居住状況や就労状況を背景に,生活困窮から犯行に及び,被害額は高額ではないものの,同種前科を有することもあり,懲役1~3年の全部実刑に処せられる者が多いという実像が,それぞれ浮き彫りにされている。