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令和3年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/コラム7

コラム7 アンシラリーミーティング「実社会に役立つ研究」

令和3年(2021年)3月12日,国立京都国際会館において,法務省法務総合研究所研究部の主催により,「実社会に役立つ研究(Research for the real world)」と題するアンシラリーミーティングが開催された。刑事司法分野に関する研究機関には,犯罪を減らすための政策や実務の向上に貢献する研究を行い,その成果から得られた知見を政策立案者や実務家に提供する役割が期待されている。本ミーティングでは,刑事司法分野に関する国内外の政府研究機関に所属する研究者が各機関における研究の内容や政策立案・実務に与えた影響を紹介し,その知見を共有することを目的に開催された。なお,本ミーティングは,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため,いわゆるハイブリッド方式により開催され,海外のパネリストは,オンライン会議システムを経由して参加した。聴衆についても,会場に来場して参加することに加え,同システムを経由して参加することも可能であった。

本ミーティングは,法務総合研究所の上冨敏伸所長による開会挨拶の中で,開催の趣旨が紹介された後,各パネリストがそれぞれの研究成果等についての発表を行い,パネリスト間の議論を経て,聴衆との質疑応答をもって閉会に至った。

パネリストからは,まず,韓国刑事政策研究院(KIC)国際協力部門ディレクターのユン・ジョンソク博士が,「韓国における性犯罪者処遇プログラムの強化」と題し,刑務所出所後の性犯罪受刑者を追跡調査した結果,性犯罪者処遇プログラムの受講の有無により再犯率に差があることなどの知見が得られたことを紹介し,再犯を防止するために有用と考えられる実務的方策の在り方を説いた。次いで,オーストラリア犯罪学研究所(AIC)副所長のリック・ブラウン博士が,「公営住宅地域におけるまちづくり事業が犯罪に与える影響の評価」と題し,公営住宅地域において,まちづくりを目的として実施されたプログラムが同地域における犯罪の発生件数や住民の意識に与えた影響について調査した結果や,それらを踏まえた同プログラムの改善策を紹介した。さらに,米国の司法省研究所(NIJ)でシニア社会科学アナリストを務めるマリー・ガルシア博士が,「矯正職員の経験:仕事上のストレスがもたらす影響や回復力(レジリエンス)の促進方法についての理解」と題し,仕事を通じて種々のストレスや不満にさらされる矯正職員の精神的健康を維持し,回復力を促進するのに有効な方策を調査した結果が紹介された。最後に,法務総合研究所研究部の池田怜司研究官が,「立ち直りを支える研究」と題し,受刑者を対象とした調査において,過去に犯罪と関わりなく生活できた理由を尋ねた結果,最も多かった回答が「自分を必要としてくれる人がいた」であったことなどを紹介し,その調査結果を地方自治体や社会福祉の関係者等に共有することにより,更生を支える環境作りに寄与しているという点を指摘した。

その後,パネリスト間で,「新型コロナウイルス感染症が刑事政策に与えた影響」をテーマとした議論が行われ,ブラウン博士から,AICが,新型コロナウイルス感染症が大流行する状況下における,女性に対する配偶者間暴力の実態を把握するために実施した調査について紹介された。

質疑応答では,オンライン会議システムを経由して参加した聴衆から,ガルシア博士に対し,米国の矯正施設に勤務する女性職員の割合,仕事に対する満足度及び離職率について質問がなされた。

アンシラリーミーティングの様子
アンシラリーミーティングの様子