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令和元年版 犯罪白書 はしがき

はしがき

平成31年4月30日をもって約30年間続いた平成が終わり,5月1日から元号が令和に変わった。本白書では,犯罪の動向と犯罪者処遇の理解及び将来における適切な刑事政策の立案・実施等に資するため,全編を「平成の刑事政策」の特集とし,この約30年間の主な法規の変遷,犯罪の動向,犯罪者処遇や犯罪被害者支援の変遷等を振り返り,その概要を取りまとめて報告することとした。

我が国の刑事司法に関する立法の動きを振り返ると,例えば刑法の改正が平成期は昭和期よりも多数回行われるなど,時代の変化や要請に合わせ法制度においても迅速な対応が求められるようになってきたといえよう。

また,平成期の犯罪情勢を見ると,前半は刑法犯の認知件数が増加傾向にあり,平成14年に戦後最多となった後,後半は毎年減少し続け,30年も戦後最少を更新するなど,総数に着目する限りは悪化から改善への傾向の変化が見られた。ただし,全体としては近年減少傾向にある一方,増加しているものあるいは余り減少していないものとして,詐欺,暴行,児童虐待・配偶者間暴力等があり,再犯者率も上昇を続けるなど,様々な問題があり,予断を許さない。

さらに,平成期においては,犯罪対策に加え,司法制度改革,検察改革と時代に即した新たな刑事司法制度の導入,矯正・更生保護における改革,再犯防止対策,被害者保護のための諸制度の導入等の各種刑事政策が行われており,その経緯やその後の状況について検証することにも重要な意義が認められる。

そこで,本白書においては,平成期における主な法規の変遷,犯罪・少年非行の動向,犯罪者・非行少年の処遇,各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇,再犯・再非行,犯罪被害者について順次概観・分析し,平成期における各種刑事政策の運用状況を概観した。

令和2年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され,多数の外国人が日本を訪れるほか,日本で働く外国人も増えることが予想され,多様な背景を有する人々が共に暮らす社会作りが喫緊の課題である。また,2015年(平成27年)9月に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)においては,薬物乱用を含む物質乱用の防止・治療の強化,道路交通事故による死傷者の半減,女性・女児に対する暴力の排除,人身売買の終結,全ての形態の暴力の大幅な減少,子供に対する虐待や暴力の撲滅,法の支配の促進と全ての人々に対する司法への平等なアクセスの提供,組織犯罪の根絶,汚職・贈賄の大幅な減少等が掲げられている。これらを念頭に,令和においても,平成から継続する課題及び今後新たに生ずる課題のいずれにも的確に対応していく必要がある。

そこで,平成期を中心とする犯罪動向と犯罪者処遇の実情を扱った本白書が犯罪情勢の定点観測を行うための素材として,効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに,各種犯罪・犯罪者に対する各種政策の現状を知り,犯罪の抑止・再犯防止,犯罪者の処遇等に関する様々な問題に引き続き取り組む上での基礎資料として広く活用されれば幸いである。

終わりに,本白書の作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大な御協力を頂いたことに対し,改めて謝意を表する次第である。


令和元年11月


法務総合研究所長 大塲亮太郎