本特集において,我が国で進む高齢化と高齢者犯罪について,分析・検討を進め,その傾向・特徴を踏まえた対策を提言した。
高齢犯罪者を一くくりにしない,個別かつ的確な指導・支援の実現こそが再犯防止を推進する鍵であり,そのためには,まず,適切なアセスメントを通じて福祉的支援や犯罪性を改善するための指導等の必要性を見極める必要がある。その上で,福祉的支援を必要とする者については,犯罪をした者等が社会において孤立することなく再び社会を構成する一員となることを支援するとの再犯防止推進法が規定する基本理念に則り(3条),心身の状況に応じた福祉サービス等の提供が行われるよう,医療,保健,福祉等の関係機関との連携を図る必要がある(17条)。過去10年間の特別調整等の実践で明らかになった,支援を拒否する高齢犯罪者の存在や社会内の受皿が限られていること等の諸課題の解決に取り組み,社会復帰指導支援プログラムや指定更生保護施設等の出口支援・入口支援に係る施策を更に拡充していくことも求められる。一方,本特集においてその存在が明らかになった犯罪性の問題が大きい者については,その特性に応じて犯罪行為への抵抗感の乏しさや暴力を正当化する態度等を変え得る指導等の方法を開発・検討し,保護観察や矯正処遇等を受ける機会のない者にも受講させる仕組みを設けたり,認知機能や就労の能力等に特段問題のない者については,就労支援その他社会とつながる活動も含めた多様な支援等を行うなど,個別の必要性に応じた働き掛けを行うことが重要である。
加えて,高齢者の家庭内殺人に見られるような,高齢者やその家族が精神的あるいは身体的な健康問題を抱えながら適切な対応ができず,犯罪に至るような事案に関しては,高齢者が前記問題を抱えがちであることを把握している刑事司法機関が地方公共団体や地域の福祉・医療機関等と連携し,連携関係を通じて,地方公共団体や地域の福祉・医療機関が犯罪に至る危険性をも踏まえた一層適切な対応を実施できるようになることにより,重大事犯の未然防止につなげていくことが期待される。
高齢化は今後一層進んで行く。法務総合研究所においては,今回指摘した課題や提言に関するものも含め,高齢者犯罪に関する実証的調査・研究をこれからも継続的に積み重ねていくこととしている。