近年,高齢者の傷害・暴行については,検挙人員のみならず,人口比でも上昇傾向が見られるが,他方,微罪処分では暴行が窃盗に次いで高い割合を占め,傷害・暴行の70歳以上の者の起訴猶予率は,他の年齢層と比べ高く,受刑や保護観察付全部執行猶予にまで至らない者が多い。
平成28年に東京地方検察庁本庁及び東京区検察庁で傷害・暴行により受理され,第一審で有罪の裁判を受けた者を対象とする特別調査の結果によれば,高齢者では,その場の怒りに駆られ計画性なく犯行に及んだ者の割合が高く,凶器使用も少ないなど,衝動的に暴力に及ぶ様子が見られ,非高齢者と比べ,高齢者又は児童の被害者がいる者の割合も高く,弱い相手に感情の赴くまま手をあげている傾向がうかがえる。特に親族を被害者とする事案では前科なしの者がほとんどを占めており,家庭内での突発的な暴力の発生をいかに未然に予防できるかも課題である。
高齢傷害・暴行事犯者の約3分の1を占める同種前科ありの者は,犯行時に飲酒していた者や暴力を正当化する態度のある者の割合が,同種前科なしの者と比べ高かった。犯行時に飲酒していた粗暴事犯者は飲酒行動に抑制が利きにくく,同種事犯を繰り返す傾向があるが(研究部報告43参照),粗暴な犯罪を繰り返す者特有の問題性を有する者が高齢者に一定数認められる。同種前科ありの者は,単身居住かつ無職で,家族・知人等との交流がないためにそれらの者から監督を受けない状態にある者が多く,判決結果の大半を罰金又は単純全部執行猶予が占める状況にあることから,前記のような問題性を有しながら,保護観察等による支援・指導を受ける機会のない者が存在する。そこで,同種前科を有する高齢者については,その問題性に応じ,暴力を振るわない方法の習得等に有効な働き掛けの在り方を検討していくことが考えられる。また,個別の対応として,例えば,起訴猶予処分や罰金処分の場合に,本人の希望に応じ,アルコール依存者に対する民間支援団体に関する情報提供を行うことや,全部執行猶予付判決が見込まれる場合で,保護観察下における指導が有効と考えられるときは,検察官が求刑において,保護観察に付するよう積極的に求めることなどの措置を講じることも,再犯防止に資するものと考えられる。