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平成30年版 犯罪白書 第7編/第6章/第3節/1

1 窃盗

窃盗は,高齢者の刑法犯検挙人員のうち過半数を占め,検察,裁判(いずれも交通事件を除く),矯正,更生保護の各段階においても他の罪名と比べて高い割合を占めており,主要な手口である万引きにより検挙された高齢者の人口比は非高齢者と比べて高く,再犯者率も5割を超え,毎年1万人以上の女性高齢者が万引きにより検挙されているなど,今後一層高齢化が進む中で,高齢者の窃盗事犯,万引き事犯への対策は重要な課題である。

平成23年6月中に全国の裁判所で窃盗罪により有罪の裁判が確定した者を対象とする特別調査の結果によれば,有罪の裁判を受けた高齢窃盗事犯者の8割超は万引き事犯者である。普段から買い物に利用する店で少額の食料品を万引きするという高齢者の万引き事犯の典型例からは,経済的に窮乏し,頼るべき相手もいない状態にあることが想定されるが,実際には,そうした事情を抱える者は主に高齢男性の一部に限られている。高齢の万引き事犯者は,非高齢者と比べて困窮している者が少ない上に,その多くが年金を受給し,対人交流面を見ても,同居人がいるか,一人暮らしでも近親者との交流が保たれている。にもかかわらず,高齢男性の半数超,高齢女性の約8割が「節約」のため万引きに及んでおり,実際の状況とは乖離した経済的な不安の存在や,万引きに対する抵抗感の乏しさがうかがえる。

高齢の万引き事犯有罪確定者は非高齢者と比べて前科・前歴のある者が多く,高齢男性では前科のある者が,高齢女性では,前科がある者に加え,前科はないものの3回以上の前歴がある者が多い点が特徴的である。高齢女性のうち半数は,60歳を過ぎてから初めて検挙されており,微罪処分や起訴猶予処分を受けながら,短期間のうちに犯行を繰り返し,高齢女性の約3人に1人が,罰金刑を受けてから2年以内に再犯に至っている。これらの高齢犯罪者には,刑事手続が持つ感銘力や段階的な処分による再犯の抑止が必ずしも十分に機能していない可能性が考えられる。

万引きは日常の生活場面で行われる犯罪であり,常習化しやすく,短期間のうちに犯行を繰り返す者も多いが,被害が比較的軽微であることから,微罪処分や起訴猶予,罰金処分の対象となることが少なくない。これらの処分の対象となる高齢犯罪者に対しては,上記のような可能性も踏まえて,どのような働き掛けが再犯防止のために有効かを検証し,入口支援等の場面でそのような働き掛けの機会を確保していく努力が必要であろう。また,全部執行猶予付判決が見込まれる場合において,万引きに対する抵抗感が著しく乏しいなど,特に指導監督が必要と認められる高齢者につき,保護観察の有益性を認めた場合は,検察官が求刑において保護観察に付するように積極的に求めるなどして,保護観察を受けさせることも,再犯防止に寄与する方策の一つである。そして,主に高齢男性において一定数を占める,頼るべき相手のない生活困窮者に対しては,入口支援や受刑者に対する特別調整等により,福祉的支援につなげることが重要である。一方,高齢女性等のうち,経済的に余裕があり,近親者の見守りもあるなど更生に資する環境が整っているにもかかわらず,短期間で再犯を繰り返す者については,背景に複雑な問題が潜んでいる可能性があり,その心理面にも目を向けて犯罪につながる問題性を解明・把握し,専門的な指導を行う必要があるため,コラム11の例のように,保護観察所や少年鑑別所の専門知識や経験も活用し,対象者の問題性等に応じた指導を積み重ねることが,有効な対応策として期待される。